SPIE Medical Imaging2010が,2月13日(土)〜18日(木)にサンディエゴのコンベンションセンター(写真1)で開催された。SPIE Medical Imagingでは,医用画像における計算機を用いた処理(画像処理技術,コンピュータ支援検出/診断/決定支援(computer-aided detection/diagnosis/decision support)システム,物理学,可視化,モデリング,生体力学への応用,信号処理,PACSに基づく画像情報学や治療への応用など)に関する最新の研究成果が発表された。本会議は,4つのセッションが並列に進行するため,筆者は画像処理とコンピュータ支援診断に関するセッションを中心に参加した。なお,13日はワークショップのみの開催であるため,筆者は14日からの参加である。
本会議に参加するには,最初にレジストレーションをする必要がある。レジストレーションの手続きは事前にWeb上でできるため,会場でバッジを受け取ればよい。バッジは,レジストレーションの種類によって,Author,Technical,Chair,Studentに分かれている。しかし,バッジは会場の机にランダムに置かれており,参加者等はバッジを探すのに苦労していた。
口頭発表に先立って,オーガナイザーからサブミッション数や演題数などに関する説明があり(写真2),その後,4つの会場で研究発表が始まった(写真3)。
画像処理の発表では,「アトラスに基づく手法」,「位置合わせ」,および「モデルに基づくセグメンテーション」,「脈管系の画像解析」,「セグメンテーション」のセッションに参加した。これらのセッションでは,耳や心臓の統計形状モデルの構築,前立腺がんが発生しやすい位置を示す病変アトラスの生成,ポイントセットによる表現法,肝臓のセグメンテーションなど,人体の臓器の正常解剖や病変における数理統計的なモデルの構築法や,それらのセグメンテーション法,位置合わせ法が発表された。プレゼンテーションは発表者によってかなり個性が出る。プレゼンテーションの大部分で数式を説明している演題もあったが,筆者の研究内容と分野が異なることもあり,理解が難しかった。逆に,CT画像から大動脈と肺動脈を抽出するアルゴリズムを提案したペンシルバニア大学のHiggins等による演題は,内容自体も興味深いものであったが,それだけでなく,プレゼンテーションの最初に研究の全体像をイメージできるような説明があり,アルゴリズムの一つ一つのステップで図を使って説明するなど視覚的に理解しやすく,プレゼンテーションの資料を作る上で参考になる発表であった。
コンピュータ支援診断の発表では,シカゴ大学の鈴木先生がレベルセットメソッドによる造影CT画像からの肝臓のサイズの自動計測法を提案し,級内相関係数が0.95と良好な結果を得ていた。肝臓では,他に肝線維症や病変の識別法の提案があった。また,リンパ節の検出法もCT画像やMR画像における検出法が口頭発表で3件提案されており,注目度の高さが窺えた。他には眼底画像,マンモグラフィを対象としたCADシステムや,前立腺がんや大腸ポリープの検出法,肺結節の検出やサイズの推定に関する最新の研究成果などが発表された。特に,本会議では結節のサイズ推定に関する演題が多かった。Lisa.M等によるμCT画像を使って結節の真のサイズを推定する研究では,多くの参加者が質問をするなど注目度が高く,とても興味深い研究内容であった。
筆者は本会議では画像処理のポスター発表があるため,14日(日)の午前中にポスターを貼り,15日(月)の17:15〜18:45のInteractive Poster Session and Receptionの時間に筆者の研究に興味を示してくれた参加者と意見交換を行い,貴重なコメントを頂いた。筆者は脊柱の彎曲に関する研究を行っているが,本会議のポスターセッションでは,筆者が研究を進める上で文献調査をしていたときに最も注目していたスロヴェニアの研究グループからも2つの演題があり,その研究者から筆者の研究に関するコメントをいただけるなど,とても有意義な時間であった。
セッションの間にコーヒーブレイクの時間が設定されており,Grand Exhibit Hallでコーヒーを無料で飲むことができた(写真4)。ここでは,インターネットを閲覧できるスペース,ポスター発表(写真5),および多くのテーブルと椅子が用意されていたため,コーヒーを飲みながら興味のあるポスターを眺める人や,異国の研究者たちと椅子に座って雑談を楽しむ人など,参加者たちは思い思いに楽しんでいた。ランチは会場に隣接するPlaza Pavilionで提供された。テーブルには様々な研究者が相席で座るため,ここでも雑談などで会話を楽しむことができた(写真6)。
本会議ではいくつかのKenote presentationやTechnical workshopも企画されており,「肺などの人体臓器を定量解析するためのモデル」,「脳の神経の結合マップ」「コンピュータ支援診断」など,専門の先生による基調な講演を聴講することができた。土井先生の講演では,冒頭でCADの定義,どのような場面でCADは放射線科医の役に立つか,RSNAにおけるCADの演題数の推移,商用のCADシステムなどが紹介された。また,シカゴ大学の研究成果を基に企業がさらに性能を向上して製品化した例を挙げて,大学は基礎の技術やアイディアを創出することが重要と述べられていたことが筆者の印象に残った。次に,土井先生がシカゴ大学でこれまで取り組まれてきた研究成果(マンモグラフィにおける腫瘤や微小石灰化の検出,MTANNにおる結節の検出,結節の両悪性の鑑別など)が紹介された。土井先生の講演内容はとてもCADシステムの有用性がわかりやすく,例えば「結節の両悪性の鑑別ではコンピュータが両悪性を正しく鑑別したとき,医師のレーティングは改善されるが,コンピュータが両悪性を誤って鑑別しても,医師はコンピュータの意見に左右されない」など客観的な統計データを用いて示されていた。最後に,土井先生が現在取り組まれている研究テーマについて紹介された。このテーマは,これから診断を行う未知の画像に対して,その画像と類似した病院のサーバに蓄積されている診断結果が既知の画像を医師に提示することを目的としたものであり,主観的な類似度や相対的な類似度を示されていた。このような主観性の有用性を示すために,マンモグラフィの腫瘤や微小石灰化,CT画像における結節を対象として,10人規模の放射線科医やサイコロジストが類似度をレーティングし,いずれも強い相関性が示されていた。また,CADシステムの開発のためには大規模なデータベースやgold standard,truthが必要などの課題についても言及し,盛況の講演であった。
本会議も,去年のSPIEと同様に医用画像処理に関する最新の情報を収集でき,筆者はとても有意義な時間を過ごすことができた。次回のSPIE Medical Imaging2011は2/12日(土)〜17日(木)にオーランドのDisney's Coronado Springs Resortで開催される予定である。
インナビネット記者 林 達郎 (岐阜大学) |