第9回3T MR研究会は1月9日(土),千里ライフサイエンスセンター(大阪)において開催された。日本における3T MRIの本格的な利用と普及を目的に,2006年に設立された同研究会は,半年に1回のペースで開催されている。今回は,名古屋大学大学院医学系研究科分子総合医学専攻高次医用科学講座量子医学分野の長縄慎二氏が当番幹事を務め,「3T装置の広範な普及に向けて;いまもう一度,考える3Tである理由」をテーマに,1.5T MRIとの使い分け,3T MRIにおける特徴的な検査などについて,領域別の報告が行われた。
冒頭,当番幹事の長縄氏は,3T MRIが当初予想したほどの急速な普及に至らない理由として,1.5T MRIとの決定的な差を臨床に十分に示してこられなかったことを挙げ,もう一度3Tである理由を見つめ直し,活発な議論を行っていただきたいと挨拶した。
続いて行われた教育講演では,獨協医科大学放射線医学講座の楫 靖氏が座長を務め,徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部保健科学部門医用情報科学講座画像情報医学分野の原田雅史氏が,「臨床MRS:脳から体幹部まで」と題して講演した。MRSの原理,頭部・乳房・婦人科骨盤などにおけるMRSの有用性,バイオマーカーとしての代謝物指標,新たな分子治療,特に分子細胞再生治療におけるMRSの応用などについて詳述し,臨床上価値のある質の高いデータを得るためには,3T以上の高磁場MRI装置が望まれるとの考えを述べた。
特別企画(共催セミナー)では,「放射線科医と診療放射線技師が引き出す3Tのポテンシャル」をテーマに,前半に頭部領域と乳腺領域について,また,後半に上腹部領域,下腹部領域,整形領域について,各施設の医師と診療放射線技師が技術面および臨床面から3T MRIの特徴や有用性,具体的な活用法などについて述べた。
前半の座長は,岩手医科大学先端医療研究センターの佐々木真理氏と東海大学医学部附属病院放射線技術科の室 伊三男氏が務め,頭部領域では「3T MRIによる脳転移描出の改善への取り組み」と題して,九州大学大学院医学研究院臨床放射線科学分野の吉浦 敬氏と同大学病院医療技術部放射線部門の小林幸次氏が講演した。動きのあるプロトンからの信号を抑制するpreparationの方法であるMSDE法と3D turbo spin echo法を組み合わせて血管の増強効果による高信号を抑制し,微小脳転移との鑑別を行う方法について検証した結果,病変検出能の向上と読影時間の短縮につながることが確認できたと述べた。乳腺領域では「3T MRIによる乳腺の形態診断と機能診断の融合」と題して,名古屋大学医学部附属病院放射線科の佐竹弘子氏と同院医療技術部放射線部門の河村美奈子氏が講演した。同院における撮像法や3T MRIによる影響なども踏まえた上で,乳房ダイナミックMRIや拡散強調画像,MRSについて,その診断的意義が検討された。
後半の座長は,昭和大学放射線医学講座の後閑武彦氏と信州大学放射線部の上田 仁氏が務め,上腹部領域では「肝3T造影MRI」と題して,金沢大学附属病院放射線科の小林 聡氏と同放射線部の松浦幸広氏が講演した。画質を向上するためのコイルの配置やRFの楕円送信技術,感度補正フィルタなどについて詳述し,今後も新技術の登場によってさらなる画質改善が期待できることから,上腹部領域においても3T MRIを選択すべきとの見解を示した。下腹部領域では「医師の探求・技師の追求」と題して,神戸大学医学部附属病院放射線科の高橋 哲氏と同院放射線部の青山信和氏が講演した。泌尿器科医が潜在的に必要としている情報と画像とを結びつける立場としての放射線科医と,それを適切な撮像法などによって実現する診療放射線技師の役割について,特に前立腺がんなどを中心に検討した。整形領域では「手足の3T MRI」と題して,産業医科大学放射線科学教室の青木隆敏氏と同大学病院放射線部の佐藤 徹氏が講演した。微小構造を描出するための研究用コイルの有用性について,さまざまな部位の画像を提示しながら詳述し,コイル技術や撮像技術の進歩によって,整形領域において3T MRIが果たす役割は,ますます大きくなると展望した。
このほか,後半には,同研究会の共催メーカーであるGE ヘルスケア・ジャパン(株),東芝メディカルシステムズ(株),(株)フィリップスエレクトロニクスジャパン,シーメンス旭メディテック(株)から,RSNA 2009のトピックスが紹介され,3T MRIの新しい可能性などが示された。
なお,本研究会は,信州大学医学部放射線医学講座の角谷眞澄氏が当番幹事を務めて6月19日(土)に開催予定の第10回研究会をもって終了し,その後,日本MR Angiography研究会と統合して,「Advanced MR研究会」として新しいスタートを切ることが,代表幹事の杉村和朗氏(神戸大学大学院医学系研究科生体情報医学講座放射線医学分野)から発表された。3T MRIへの関心がますます高まる中,新しい研究会を立ち上げることで,さらなる飛躍をめざすという。
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