米国医療機器・IVD工業会(AMDD)が主催するメディアレクチャーが11月9日(月),帝国ホテル(千代田区)で開催された。今回のテーマは「患者ベネフィットの向上と診療前検査―日本の医療現場への普及のための課題を考える」で,外来の診察前に採血を行い,その検査結果を基に診療を進める診療前検査の現状について宮澤幸久氏(帝京大学医学部臨床病理学)と伊藤公一氏(伊藤病院院長)が講演を行った。
AMDDのメディアレクチャーは「先進医療技術の役割」啓発キャンペーン活動の一環として,現代の医療を支える先進医療技術の役割と日本の医療制度の中での位置づけを発信する目的で開催されている。講演に先立ってあいさつした池田勲夫氏(AMDD・IVD委員会委員長)は「診療前検査は医療機関,患者の双方にメリットが大きい。ここにいかに先端医療技術が貢献しているかと同時に,診療報酬など経済的な評価のバランスに課題があることを理解していただきたい」と述べた。
「診療前検査と医療制度」を講演した宮澤氏は,今年5月にオープンした帝京大学病院の新病棟(東京都板橋区,病床数1154床,外来1707人/日)の概要を紹介しながら次のように述べた。
「帝京大学病院では,外来の迅速検体検査への対応にシステムの導入や早い時間からの技師の配置などを行ってきた。患者への適切な診療の提供には診療前検査は有用だが,そのための機器の導入や人員配置には経済的な裏付けがない。診療前検査に該当する『外来迅速検体検査加算』は認められたものの,検体検査の実施料の点数は下がり続けており,臨床検査部門は業務の効率化や外注化という圧力にさらされて環境が厳しくなっている。無駄な診療を省き適切なタイミングで治療を提供する診療前検査に臨床検査は不可欠であり,臨床検査の質を落とさないためにも適正な評価が必要だ」
外来迅速検体検査加算は,2006年度に5項目を限度に1点が認められ2008年度の改定で5点に増点されている。
伊藤氏は「広がる診療前検査―臨床へのアシスト,患者へのサービス」と題して講演し,甲状腺専門施設として70年以上の歴史を誇る伊藤病院(東京都渋谷区,病床数60床,外来946人/日)の診療の現況を紹介して次のように述べた。
「甲状腺疾患の診療は,80%が外来で治療を行っており,検査結果が早くわかればわかるほど来院の回数が少なくてすみ副作用への対応も可能になる。治療には内科的な投薬,アイソトープを使った放射線,手術があるが,現在日本では抗甲状腺薬による治療がほとんどだ。当病院では,測定時間18分でFT3,FT4,TSHなどを検査できる全自動免疫検査装置の導入,電子カルテによる採血業務の効率化,リアルタイム結果報告などによって『いつでも質の高い同じサービスを提供できる検査室』を構築している。これによって以前は検査,処方,投薬で10週間に6回来院していたのが現在では3回ですむようになり,患者のメリットは大きい。こういった医療機関の努力の一方で,検体検査の実施料は診療報酬改定のたびに一律下げられており,患者サービスの向上や診療への貢献を考慮した改定が求められる」 |