独立行政法人放射線医学総合研究所(放医研)は10月23日(金),東京国際フォーラムにおいて,HIMAC 15周年記念講演会「重粒子線がん治療の15年―5000例の治療効果」を開催した。HIMAC(Heavy Ion Medical Accelerator in Chiba)は,1994年に使用を開始した世界初の医療用重粒子加速器で,炭素原子核を加速した重粒子線(炭素イオン線)をがん細胞に照射して治療を行う。当初は臨床研究として,2003年からは先進医療として,今日までの15年間に5000例にのぼる治療を行ってきた。重粒子線は,がん細胞への集中性が高く,生物効果が高いことから,眼の悪性黒色腫,頭頸部がん,肺がん,肝臓がん,子宮がん,前立腺がん,骨や筋肉のがん,頭蓋底のがん,膵臓がん,直腸がん(骨盤内再発),食道がんなどのうち,従来の放射線や手術などでは治療困難な局所進行腫瘍,高齢または合併症などによって手術不可能な症例においても高い治療効果を得ることができる。
冒頭,放医研理事長の米倉義晴氏が挨拶に立ち,重粒子線治療はわが国が世界をリードする最新の医療技術であり,HIMACの優れた治療成績が明らかになるにつれ世界でも大きな注目を集めているとし,国民が幅広くその恩恵を受けられるよう,さらなる普及推進に努力したいと述べた。また,来賓である文部科学大臣政務官の後藤 斎氏は,年間1000人の治療をめざす体制作りや国内外への展開など,重粒子線治療の積極的な推進を図ることを表明した。日本医師会副会長の岩砂和雄氏の挨拶に続き,講演1では領域ごとの治療成績の報告,講演2では群馬大学で稼働予定の従来のHIMACの約1/3に小型化された次世代普及型照射器の技術などが紹介された。2015年までには国内5か所で重粒子線治療が実施される見込みとのことだ。
特別講演では,国立がんセンター名誉総長/日本対がん協会会長の垣添忠生氏が,「我が国のがん対策―個人として国として―」と題して,がん予防やがん検診の重要性,画像診断,局所治療の変遷,がん対策基本法などについて幅広く概説した。その上で,がん経験者は再発,転移や二次がんの可能性へのストレス,社会的な差別などによって肉体的・精神的・社会的に傷つきやすい存在であるが,多くの人が正しい知識を身につけることによって,がん経験者ががんになる以前と同じような生活を気負いなく営める社会が実現されるべきであるとの考えを述べた。
最後に行われたパネル討論会では,日本大学藝術学部教授の菅原牧子氏がコーディネーターを務め,「我が国のがん医療と重粒子線治療の未来―放医研に期待するもの―」をテーマに,日本経済新聞社編集局科学技術部の黒川 卓氏,健康医療市民会議代表/前岐阜県知事の梶原 拓氏,国立がんセンター東病院名誉院長の海老原 敏氏,東京大学医学部附属病院放射線科准教授の中川恵一氏,東京医科歯科大学大学院医療経済分野教授の川渕孝一氏,放医研理事の辻井博彦氏の6名のパネリストが登壇。現在の先進医療(治療費314万円)から保険収載への転換,施設の普及に関する戦略,情報公開や人材育成の必要性など今後の課題と放医研への期待について,活発な意見交換が行われた。
■ パネルディスカッション |
パネルディスカッション風景 |
コーディネーター:
菅原牧子氏
(日本大学藝術学部) |
黒川 卓氏
(日本経済新聞社) |
梶原 拓氏
(健康医療市民会議) |
海老原 敏氏
(国立がんセンター東病院) |
中川恵一氏
(東京大学医学部附属病院) |
川渕孝一氏
(東京医科歯科大学大学院) |
辻井博彦氏
(放医研理事)
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