2009年10月1日(木)〜3日(土)まで,第37回日本磁気共鳴医学会大会が吉川宏起大会長(駒澤大学医療健康科学部)のもと,パンパシフィック横浜ベイホテル東急にて開催された。今学会のテーマは,「文明開化の挑戦─マクロからミクロ〜そして機能・代謝へ─」。このテーマに基づいた特別講演やシンポジウムなどが多数企画された。
今回はコンパクトな会場スペースに加えて,ポスター演題が当初の予定の2倍以上(223題)に増えたため通路にも展示されたことで,人口密度の高い大会となっていた。反面,賑やかで一体感のある空間が生まれていたとも言える。一般演題は577題と,これも予想以上の数になったとのことで,4つの会場をフルに使って口演が行われた。
1日目の1日(木)14時からは,「シンポジウムT:肝特異性造影剤温故知新」(座長:慶應義塾大学・谷本伸弘氏,大阪暁明館病院・廣橋伸治氏)が行われた。Gd-EOB-DTPA(プリモビスト)は2008年1月に大きな期待の中で認可され,昨年の本学会ではGd-EOB-DTPAの臨床的検討の発表が中心を占めていた。肝細胞がん(HCC)の多血性病変の評価や,転移小病巣の検出,乏血性早期肝がんの早期発見,FNHの性状診断などにおけるMRIの診断体系が変わる可能性があるとして,普及に伴う臨床的有用性の報告が注目を集めてきた。しかし,2年近くが経過した現在では,その臨床的メリットとともに,いくつかの問題点も指摘されるようになってきた。一方,従来からの肝特異性造影剤であるSPIOは,Gd-EOB-DTPAや,SPIOと同じくKupffer細胞に取り込まれる超音波造影剤「ソナゾイド」の登場で存在意義が問われているが,血液プール造影剤としての独自の有用性が認められていることから,これらの造影剤をどのように併用または使い分けして臨床に生かすかが重要となってくる。
本シンポジウムでは,Gd-EOB-DTPAの臨床報告が3題,SPIOの臨床報告が3題発表され,最後に,信州大学の角谷眞澄氏が「one stop shoppingは実現するか?」と題して総括を述べた。角谷氏は,検討が進むにつれて明らかになってきたGd-EOB-DTPAの問題点として,造影早期では投与量が少ないこと,造影後期では平衡相が存在せず海綿状血管腫の診断能が低下すること,肝細胞造影相では肝機能低下例での評価,高信号を呈する中分化型肝細胞がんの評価などを挙げ,いままで構築してきた造影MRIの画像診断学を改めて確認し,SPIOや単純MRIの再認識も含めて,温故知新の重要性を指摘した。
● シンポジウムT 肝特異性造影剤温故知新 |
座長:慶應義塾大学・谷本伸弘氏
大阪暁明館病院・廣橋伸治氏 |
会場全景 |
2日目には,特別講演「次世代疾患オミックスとシステム・パソロジー」(田中 博氏・東京医科歯科大学)や,日本分子イメージング学会の協力によるシンポジウムV「分子イメージング」,シンポジウムW「高磁場MRの未来と医療政策」,シンポジウムX「CTとの棲み分け」などが行われた。
最終日の3日目には,シンポジウムY「MRSの臨床応用と最新技術〜MRS追加のタイミング〜」(座長:徳島大学・原田雅史氏,シーメンス旭メディテック・丸山克也氏)が企画された。本シンポジウムは,2009年4月よりスタートした同学会のプロジェクト研究「臨床proton MR Spectroscopyの有用性検討のための症例データベース構築と標準的測定方法による診断基準の検討(略称:MRSプロジェクト)」を機に,現状における領域別MRSの臨床応用の実際を報告するものであった。
最初に,MRSプロジェクト代表の原田氏から,これまでの経緯が説明された。2005年,放射線科専門医会WGに「proton MRS臨床有用性検討ワーキング」を発足,2007年に「proton MRSコンセンサスガイドライン」を発表,同年スタディグループ「MRSの有用性と標準化検討グループ」を発足。2008年に分科会として「LCModelユーザーミーティング」を発足させ,2009年に「proton MRSコンセンサスガイドライン2009」(日本磁気共鳴医学会サイトで公開)を発表。そして,上記のMRSプロジェクト発足に至った。今回のMRSプロジェクトは,スタディグループの参加者を中心に,proton MRSのデータベースを構築し,多施設からの臨床症例を蓄積して診断基準の作成を試み,最終的にはproton MRSの普及につなげることを目的としている(サーバは徳島大学に設定)。4年間で1000例を目標にし,最終的には日本磁気共鳴医学会のサーバに移行する予定とのことだ。
本シンポジウムでは座長の原田氏より各演者に対し,臨床検査でMRSを追加するタイミングのGrade分類を行う課題が出された(GradeT:必ず追加した方が良い場合や症例,GradeU:追加すると有効なことがある場合や症例,GradeV:追加しても良いが補助的な情報に留まる場合や症例)。米国ペンシルベニア大学病院(HUP)での頭部の臨床応用経験を発表した森田奈緒美氏(徳島大学)は,metaとGBMとの鑑別や,造影効果に乏しい腫瘍の良悪性鑑別,治療後の再発か壊死かの評価についてGradeTとした。同じく頭部への臨床応用について磯辺智範氏(筑波大学)は,脳腫瘍,放射線壊死と再発の鑑別,放射線治療の効果判定,高乳酸血症,悪性リンパ腫とトキソプラズマ症の鑑別,髄膜腫とhemangiopercytomaとの鑑別などをGradeTに挙げた。乳腺領域について戸崎光宏氏は,GradeTに術前化学療法症例を,GradeUに腫瘤の良悪性の鑑別を挙げた。肝臓について報告した富安もよこ氏(放射線医学総合研究所)は,研究段階のglycoCEST, 31P MRS,13C MRS,超偏極13C MRSを紹介し,現時点では1H MRSのみをGradeUとした。前立腺では鶴田邦彦氏(磯部クリニック)が,生検でも腫瘍の正確な悪性度が不明で治療方針が決まらないときをGradeTに,PSAが高いが腫瘍の局在がはっきりしないときをGradeUとした。女性骨盤については竹内麻由美氏(徳島大学)が,子宮筋層病変でT2WIにて低信号を示さない症例,子宮内腔病変で生検で診断困難な症例をGradeTに挙げた。
最新技術に関する発表は2題。シーメンスの丸山克也氏が,MEGA & BASING(水抑制,脂肪抑制,任意のケミカルシフトでの代謝物質の抑制)について,日立製作所中央研究所の平田智嗣氏が,主に頭部計測時の高速CSIシーケンスであるEPCSIについて報告した。
最後に熊本大学の平井俊範氏から,脳腫瘍MRSの発展に向けて,MRS収集法の確立,MRS適応の確立,簡便な評価法の確立が必要との指定発言があった。MRSは,増強効果が乏しく高灌流を示さない病変や,増強されるが低い灌流病変には非常に有用であり,簡単にすぐわかるMRSが臨床では求められていると述べた。
なお,本シンポジウムに先立つ1日目の夜には,上記の「LCModelユーザーミーティング」および「第1回MRSプロジェクト会議」がハーバーラウンジにて開催された(次回の会議は2010年3月6日に開催予定)。参加者は予想を上回る80名以上にのぼり,臨床MRSへの関心の高まりが感じられた。
次回の第38回日本磁気共鳴医学会大会は2010年9月30日(木)〜10月2日(土)の3日間,巨瀬勝美大会長(筑波大学)のもと,つくば国際会議場(エポルカつくば)にて開催される予定である(ホームページ 10月中旬公開予定)。
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