International Conference on Medical Image Computing and Computer Assisted Intervention(MICCAI 2009)が9月20日(日)~24日(木)に英国のmain campus of Imperial College London in South Kensingtonで開催された(写真1)。MICCAIは,VBC(Visualization in Biomedical Computing), CVRMed(Computer Vision and Virtual Reality in Robotics and Medicine), MRCAS(Medical Robotics and Computer Assisted Surgery)の3つの国際会議が統合された工学系の会議である。
初日は,MICCAIに関連するWorkshopとTutorialが行われた。MICCAI本会議では同時に複数のセッションが開かれることはないが,WorkshopとTutorialは並列に開催される。ここでは,筆者が参加したWorkshop「Pulmonary Image Analysis」について報告する。
「Pulmonary Image Analysis」は,2008年に1回目のWorkshopがニューヨークで開催され,今回が2回目となる。今回取り上げられたテーマは,気管支の抽出法(EXACT09)と肺結節の大きさの変化の解析法(VOLCANO09)であり,多くの研究グループが挑戦した。Workshopでは6つの口頭発表と13のポスター発表があり,その中のひとつのポスター発表を筆者が行った。質疑応答では,同じテーマに挑戦した研究者と議論する機会があり,かなり詳細な内容まで意見交換できた。オーガナイザーによれば,今回のWorkshopにおける最大の目的は「Wisdom of Crowdの実証である」と述べられていた。すなわち,1つのアルゴリズムだけで完璧な結果を得るのは困難であるが,さまざまな手法を統合することによって,より優れたアルゴリズムを構築することである。今回のWorkshopによって,同じテーマを研究しているグループ間で深い議論を交わすことができ,オーガナイザーの目的に大きく前進したと筆者は考える。
2日目(本会議1日目)は,午前9時からOpening Ceremony が始まり,いよいよMICCAI本会議がスタートした。本会議の口頭発表は,SherfieldのGreat Hall(写真2),ポスター発表はQueen's Lawn(写真3)で行われる。Opening Ceremonyでは,冒頭,1998年にボストンで開催された第1回大会からの歴代のMICCAI開催地がムービーで紹介された。続いて,Chairmanにより今大会の演題の内訳が発表された。それによると,36の国から804の演題が投稿され,厳格なreviewのプロセスを経て,最終的に259(32%)の演題が採録された。このうち,43(5%)の演題が口頭発表に選ばれ,216(27%)の演題がポスター発表に選ばれた。また,各国別の演題の投稿数が発表され,アメリカの投稿数が344であるのに対し,ヨーロッパの演題数が345であると発表されたときに,会場から歓声が上がった。
Opening Ceremonyが終わると,次はKeynote Presentationである。この日はIkuta Koji氏(名古屋大学)が講演を行った。内容はBiomedical roboticsに関するものであり,Nano handなどの極めて小さなロボットが紹介された。このようなツールを利用すれば,外科手術における患者への切開を最小限に抑えられるなど,医学の発展に工学系の技術支援は欠かせないことを筆者は再認識した。
KeyNoteが終わると,次はOral Session 1である。このセッションのテーマは心臓血管系の画像におけるガイドの介在とロボティクスであり,5つの演題が発表された。この中ではロボットによる心臓や肺動脈管の外科手術の支援など,興味深い発表があった。
Oral Session 1が終わると昼食となる。MICCAIでは,レジストレーション時に昼食のチケットが配布されており,参加者は,ポスター会場でチケットと交換して昼食を受け取る。多くの研究者が,ポスター会場の隣の広場で,研究に関する話や互いの国の文化,研究環境の話をするなど,研究者同士のコミュニケーションを深めていた(写真4)。
同日午後のポスターセッションでは,全部で8つのテーマに関する演題がある。ポスターセッションは,3日間開催しており,13:30~15:15がコアタイムとされている。また,すべての演題の発表者はe-theater(約1分で簡単に発表内容を紹介)を行う必要があり,3日間に分けて実施された。e-theater では,4か所で並列に行われたため,すべての発表を聴講することはできない。そこで,筆者は関心のある分野の発表を優先して聴講し,他の演題は発表者に直接質問することにした。ポスター発表では,筆者が注目していたSegmentation やModelingの研究に関連する多くの演題があり,有意義な時間を過ごすことができた。
ポスターセッションが終わると,30分のCoffee Breakを挟んでOral Session 2が始まった。このセッションのテーマは手術ナビゲーションと組織相互作用であり,前立腺や軟部組織を対象として5つの演題が発表された。
Oral Session2が終わると,同日最後のセッションであるOral Session 3が始まった。このセッションでは,光学画像や内視鏡のナビゲーションに関する発表が行われた。Optical Coherence Tomographyに関する発表など,かなり専門的な内容であったが,最後の発表が終わるまで会場の半分以上の座席が埋まっていた。こうして,MICCAI本会議の1日目が終了した。
3日目(本会議2日目)は,Michael Brady氏(オックスフォード大学)によるKeynote Presentation IIで始まった。発表内容は腫瘍に関する画像解析であり,さまざまなモダリティにおける前立腺,肝臓,胸部などの腫瘍の解析法が紹介され,前日のIkuta氏の講演と同様に,立ち見が出るほど人気であった。
続いて,Oral Session 4が始まった。このセッションのテーマは,動きのモデリングと画像形成である。4Dの画像に関する研究発表等が行われ,会場では活発な議論が繰り広げられた。
このセッションが終わると,昼食を挟んでポスターセッションとなり,本会議2日目のe-theaterが行われた。前日にはいくつか展示されていないポスターもあったが,この時間にはすべてのポスターが展示されていたため,筆者は,関心のある演題の中で,前日確認できなかった内容を中心に見て回った。本日も,前日と同様にポスターセッションの至るところで,発表者と質問者により活発な議論が行われた。
その後,Oral Session 5,Oral Session 6のセッションが行われた。2つのセッションは,画像の位置合わせ,セグメンテーション,およびモデリングに関する内容であった。これらは,筆者の研究内容と深く関連する分野であったため,特に関心のある分野であった。位置合わせでは,Thin-plate splinesなどの非剛体変形やテンソルを用いた位置合わせ法を提案し,大腿骨,長骨,脳などの部位に適用する発表があった。モデリングとセグメンテーションでは,血管の動きに関する物理モデルの構築,統計的形状モデルによるleft venticleのセグメンテーション,RVの形状アトラスの構築,ベイジアンモデルによるcoronary arteryのセグメンテーションに関する発表があり,筆者にはいずれも興味深い内容であった。
Oral Session 6で当日のセッションはすべて終了したが,この後,MICCAIによる晩餐会が企画され,筆者も参加した。晩餐会はScience Museumで行われ,主催者による“ありがたい?”スピーチの後,いよいよ晩餐会がスタートした(写真5)。多くの研究者が晩餐会に参加していたが,この時間は研究のことよりも,思い思いに会話を楽しんだり,学会で知り合った研究者等と交流を深めたりしていた。
4日目(本会議3日目)の最初のセッションであるOral Session 7 は,画像のセグメンテーションと分類をテーマとしており,筆者にとっては,前日に引き続き興味深いセッションであった。ここでは,レベルセットにより低コントラストの構造を抽出するための記述法,食道の自動セグメンテーション法,アトラスによる肺の全自動セグメンテーション法などの発表があった。
Oral Session 7が終わると,Coffee Breakを挟んでOral Session 8が始まった。このセッションのテーマはセグメンテーションとアトラスに基づく技術であり,時空間のアトラスなど,さまざまな最新の研究が発表された。
昼食を挟んでポスターセッションとなり,本会議3日目のe-theaterが行われた。3日目になってもポスター会場は活況を呈しており,1つでも多くのポスターを理解して研究に役立てようとする各研究者の意気込みがうかがえた。また,この時間には受賞した演題が明らかになっていたため,筆者は受賞した演題を中心に見て回った。
ポスターセッションが終わり,MICCAI2009最後のセッションであるOral Session 9 が始まった。このセッションのテーマはneuroimageの解析である。筆者の研究分野からは少し離れていたが,脳を対象とした興味深いアプローチを聴講することができた。
その後,表彰式と閉会式が行われた。閉会式では,次回(MICCAI2010)の開催予定地である北京が紹介された。そして,最後に再び,歴代のMICCAI開催地を紹介するムービーが放送され,MICCAI2009の本会議が終了した。
MICCAIは画像処理の分野としては世界最高レベルの会議であり,多くの興味深い発表を聴講できた。本会議では,モデリングの基礎分野から,ロボティック医療やモデルを使ったセグメンテーション,解析技術に至るまで,多くの分野の最新技術が網羅されていた。今回,MICCAIに参加して得られた知見をもとに優れた研究成果を挙げ,2010年のMICCAIに発表者の一人として参加できるようにしたいと思った。
インナビネット記者 林 達郎(岐阜大学) |