31st Annual International Conference of the IEEE Engineering in Medicine and Biology Society (EMBC 2009)が9月2日(水)〜6日(日),米国ミネソタ州ミネアポリスのHilton Minneapolis Hotelにて開催された。EMBCは生体工学に関する参加者の多い国際学会で,過去4年間はバンクーバ,リオン,ニューヨーク,上海で開催された。
投稿原稿はpeer-reviewed(同分野の専門家により評価)され,今年度は5000を超える投稿の中から最終的に約1800の論文が通過し,発表が行われた。プログラムは12の大分類(Theme)からなり,それぞれ4〜12の小分類(Track),合計100の分野で構成され,会場となるHiltonホテル(写真1)では毎日,18の部屋で各Trackが並列して開催された。各Trackは1演題15分で5,6演題から構成される。そのほかにもPlenary Lecture 3題,Keynote Lecture 10題,Special Symposia 4題,Minisymposia 7題,Special Sessions 7題が行われた。
今大会は「Engineering the Future of Biomedicine」というテーマが掲げられた。3日(木)のオープニングセレモニーにて,生物医学の将来に工学がどのように寄与できるか,その方向性について大会長のBin He氏(ミネソタ大学教授)が持論を展開した。実際には開会に先立ち,2日(水)にはPre-Conferenceとして5つのワークショップが開催されていた。最終日を除く会期中の一日のプログラムの流れは,朝8時半からのKeynote LectureもしくはPlenary Lecture,その後,口述セッション,ポスターセッションで午前が終了し,午後は口述セッション,ポスターセッション,口述セッションとなっており,18時10分に演題発表が終了する。
筆者は2日(水)にミネアポリスに到着し,レジストレーションのみを行った。国際学会には多いネームプレートに加え,バッグ,辞書のような予稿集,CD-ROMが配布される(写真2)。このような大規模な国際学会では事前にプログラムをチェックし,興味のある演題をピックアップし,予定を組んでおかなければ効率良く参加できない。上述のとおり,同時に18の部屋で発表が行われるため,興味があっても参加できない場合が少なくなく,その場合は後にCD-ROM等で発表内容をチェックする。
筆者はRSNA(北米放射線学会)等の国際学会への参加経験があるため,初日に自分の参加日程を組んだ。3日(木)はオープニングセレモニーに続いてPlenary Lectureに参加した。この講演はGrand Ballroomという大きなホール(写真3)で行われ,Glover, Gary H. 氏(スタンフォード大学)がMR画像を使用した脳機能解析について発表を行った。このPlenary Lectureは立ち見が出るほど人気であった。
この講演が終了すると,いよいよテーマ別の演題発表となる。筆者はBiomedical Image Registrationのセッションに参加した。このセッションが終わると会場ロビーではドリンクとスナックが用意され,それらを手にポスターセッション会場の部屋へ入室する。初日午前は7つのテーマ別に掲示され,約90分の意見交換が可能である。会場は非常に活気にあふれ,各ポスター前には常に人が絶えることがなく,すれ違うのがやっとという状況であった(写真4)。そこで,次の日からゆっくり議論を交わしたいポスターについては,各セッションの間にポスター会場をのぞき,質問するという方法にした。
ポスターセッションが終わると昼食である。昼食時には会場外のレストランを利用する参加者や,会場内で販売されるランチボックス等を利用する人に分かれる。筆者は行程中の多くを会場で食事をした。会場内で食事をすることの利点は,オープニングセレモニーが行われた大きなホールに円卓が用意され,そこで研究者同士の会話が楽しめるからである。ここでは研究の話はもちろん,互いの国の文化や研究環境等についての話など,気軽なコミュニケーションが行えるので筆者はよく利用した。
同日午後はBiomedical Image Processingのセッションに参加した。ランダム・ウォーク理論を用いた神経細胞の枝を認識する演題など,他分野の理論を画像処理に応用するといったような発想がおもしろい研究が多くあった。その後,午前同様にポスターセッションである。ここでは,リハビリテーションやヘルスケアに関するポスター中心に見て回った。ほかにも,信号解析やハードウェアに関わるものも多いのが特徴であった。
同日最後のセッションでは,新しいバイオマーカーに関する医用画像セッションに参加した。これは,筆者の研究とは直接は関係ないが,臨床からの観点で新しいイメージング技術に関する発表がなされており,新技術への期待の高さと課題について議論された。
4日(金)も,朝のKeynote Lectureに参加した。Andrew Zachary Fire氏(スタンフォード大学)のナノテクノロジーを用いたDNAの解読について聴講した。次に,超音波などを用いた肝臓の弾力性を計測する研究発表を聞くため,Acoustic Imagingのセッションに参加した。
その後,2日目のポスターセッションである。この日も生体信号解析やマルチスケールの生体モデルについての発表を中心に聞いて回った。前日同様,活発な議論が行われ,ポスター会場は満員であった。午後は,ポスターセッションで筆者の発表があるため,最初のセッション前にポスターの掲示を行った。そして,ポスターセッション中には自身のポスターの前で質疑応答があるため,他のポスターをチェックできないことが予想されるので,掲示されているポスターのチェックと議論の時間とした。その後,ポスターセッションが始まり,筆者のポスターにも多くの参加者が訪れ,研究のアドバイスなどをいただくなど,有意義な時間を過ごすことができた。
その後は,最終セッションで画像誘導治療に関するセッションに参加した。これは,手術支援に近く,筆者らの支援診断とも関連する内容であった。
5日(土)の朝はPlenary Lectureがあった。Douglas A. Lauffenburger氏 (マサチューセッツ工科大学) が生体工学の学問の今後のあり方について,ジョークを交えながら話された。
その後,生体工学におけるモデリングのセッション,ポスターセッションではCADについて,午後のセッションでは画像解析,セグメンテーションに関する2つのセッションに参加した。
6日(日)の最終日は朝の講演はなく,すぐに各テーマのセッションが始まった。腫瘍の画像解析に関するセッションと画像の可視化やボリュームレンダリングに関するセッションに参加した。ここでは,前日ポスターセッションで筆者と議論を交わした方々と再会することができ,セッション終了後にも関連する話題について語り合うことができた。
以上でIEEE EMBC 2009の全日程が終了した。本大会は画像や信号などの生体情報の検出法,それらの情報の加工,応用のテーマからなり,生体情報に関する幅広い分野で構成されていた。特に,遺伝子レベルの研究,生体マーカー等の研究から,新たなハードウェアの開発による信号の検出法,ロボティック医療など,多くの専門分野の有機的な結合が不可欠と改めて認識できた。自身のコンピュータ支援診断に関する研究についても,目前の課題の解決のみに集中すると一方的な視点になって間違いがちであるが,多くの分野に目を向け相互発展を目指さなければならないと思った。
次回の第31回大会 EMBC 2010は,2010年8月31日(火)〜9月4日(土)にアルゼンチンのブエノスアイレスにて開催予定である。テーマは「Merging Medical Humanism and Technology」,大会長はRicard L. Armentano氏(Favaloro大学)である。2010年以降は,ボストン(2011),サンディエゴ(2012),大阪(2013)で開催予定である。
インナビネット記者 神谷直希(岐阜大学) |