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取材報告

2009
日本超音波医学会第82回学術集会が開催

■ 日本超音波医学会第82回学術集会
■ ライブセッション
■ 機器展示


ライブセッション会場風景
ライブセッション会場風景

機器展示会場
機器展示会場

 日本超音波医学会第82回学術集会が5月22日(金)〜24日(日)の3日間,東京国際フォーラムで開催された。会長は,京都大学大学院医学研究科教授の椎名 毅氏。

 超音波診断装置は,非侵襲性,リアルタイム性,簡便性が特長であり,近年,プローブや信号処理技術の進歩により,活用の場が大きな広がりを見せている。診断と治療の融合はもちろん,他のモダリティとの技術的な融合も視野に入れた開発が進められており,新しい“Innovation”への期待を込めて,「超音波診断・治療におけるInnovationとFusion」がメインテーマとなった。それに伴い,本学術集会では,光音響イメージングと組織弾性イメージングをテーマとした招待講演や,異分野融合および診断・治療支援に関するシンポジウムなどが行われた。また,その他のシンポジウムおよびパネルディスカッションでは,3Dの使い方,造影剤,精度とアーチファクト,専門医と検査士の育成問題といった領域横断的な12の共通テーマが設けられたほか,領域別の19テーマが設けられ,超音波医学の基礎から最先端分野まで幅広く網羅できる内容となった。

 23日に行われた会長講演では,椎名氏が,「音で触れる―Elasticity Imagingの開発の道のりと展望」と題して,組織弾性イメージングの原理や有用性などについて述べた。1990年代には,組織弾性イメージングの研究が世界中で進められていたが,椎名氏らを中心とする筑波大学と日立メディコの共同研究グループがいち早く実用化に成功し,2003年に世界に先駆けて発表した。講演で椎名氏は,組織弾性イメージングの主な有用性として,組織診断が可能なため早期診断ができる,組織型による鑑別診断が可能,硬さの情報を利用したがんや動脈硬化,肝硬変の診断が可能,などを挙げた。また,さらなる可能性として,がんの治療効果判定や,見かけ上組織が硬くなったような状態になる心筋梗塞の診断への応用などが検討されていると述べた。さらに,現在実用化されている組織弾性イメージングの2大手法としてStatic methodとDynamic methodを挙げ,それらの特徴について詳述した。

 このほか,機器展示会場においては,フロンティアテクノロジーやライブセッションのコーナーが設けられ,最新の超音波機器の機能や使い方を実感できる多彩な発表が行われた。

  次回の第83回学術集会は,近畿大学消化器内科の工藤正俊氏が会長を務め,2010年5月29日(土)〜31日(月)の3日間,京都国際会議場にて開催される予定である。



ライブセッション


宮本幸夫氏(東京慈恵会医科大学)
宮本幸夫氏
(東京慈恵会医科大学)

中田典生氏(東京慈恵会医科大学)
中田典生氏
(東京慈恵会医科大学)

ライブセッション風景
ライブセッション風景

参加者の様子
参加者の様子

 5月22日(金)には,機器展示会場内にあるライブセッション/フロンティアテクノロジー会場において,東京慈恵会医科大学放射線医学講座の宮本幸夫氏中田典生氏がオーガナイザーを務めるライブセッション1「超音波診断装置の人間工学的デザインについて―超音波ベンダーの各装置の比較検討」が行われた。

 デジタル機器の増加に伴い近年,コンピュータのモニタをはじめとする表示機器の長時間の操作に伴う心身の障害であるVDT(visual display terminal)障害や,作業関連運動器障害(work-related musculoskeletal disorders:WRMSD)が問題となっている。厚生労働省の「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」にも「画像診断検査等」という項目が設けられているが,超音波診断装置においても,VDT障害への対策が求められている。そこで,本セッションでは,各社の据え置き型超音波装置を会場の正面に並べ,実際のデザインを確認しながら,聖マリアンナ医科大学病院臨床検査部超音波センターの桜井正児氏,国立スポーツ科学センタースポーツ医学研究部の土肥美智子氏,工業デザイナーの平井直哉氏が,問題解決に向けてそれぞれの立場から提言した。

 はじめに中田氏が,本セッションのアウトラインとして,エルゴノミクス・デザインの観点から見たコントロールパネルやモニタ,探触子,椅子などの要件を示した。また,VDT障害防止のための対策として,ドライアイを予防するモニタの配置や,同じ姿勢をとり続けないこと,体幹をねじらないで検査を行うことなどの重要性を述べた。

 これらを踏まえ,桜井氏が実際の検査において,どのような体勢・検査が負担になるかを実演した。その上で,コントロールパネルの可動域が現状よりも大幅に広がれば,負担軽減につながるとの期待を述べた。また土肥氏は,現状での対策として,ストレッチやトレーニングの有用性を指摘。同時に,プローブがより小さく,軽くなれば,負担軽減につながると提言した。一方,宮本氏が,超音波装置の開発においては患者さんとのコミュニケーションを妨げないことも考慮されるべきとの考えを示すと,平井氏は工業デザインの観点から,天吊り型や壁への埋め込み式など,まったく新しい超音波装置の発想を提案した。



機器展示(順不同)

日立メディコ / GE横河メディカルシステム / 東芝メディカルシステムズ / 持田シーメンスメディカルシステム /
富士フイルムメディカル / アロカ / フィリップスエレクトロニクスジャパン


日立メディコ
日立メディコブース
最新のデジタル技術を駆使して開発されたHI VISION Preirus
最新のデジタル技術を駆使して開発されたHI VISION Preirus

日立メディコは,2009年1月に販売を開始した「HI VISION Preirus」のみに製品を絞って展示を行った。日立グループの総力を結集し,新しい発想と最新のデジタル技術を駆使して開発されたHI VISION Preirusは,まったく新しい超音波装置となっている。探触子,装置のハードウエア,ソフトウエアのすべてを一新し,単結晶探触子と,超音波装置に特化したデジタル信号処理回路“Ultra BE”(Ultrasound Broadband Engine)の開発によって高画質化を実現した。さらに,検査を行う医師,技師のニーズを豊富に取り入れて人間工学的な側面からも操作性を分析。大型液晶モニタには世界に先駆けてタッチパネルを組み込み,画像観察中にもモニタから目を離さずに操作できるほか,モニタとパネルを1回の動作で同時に移動させ,さまざまな検査姿勢に対応した位置調整が簡単に行えるなど,使いやすさを追究している。外観デザインには,温かみのあるスマイルイエローを採用し,患者さんにもやさしい装置となっている。

 

世界で初めて実用化に成功した半導体プロセスによる医用超音波探触子 Mappie
世界で初めて実用化に成功した半導体プロセスによる
医用超音波探触子 Mappie

また,今回の展示のもうひとつの目玉として,同社が世界で初めて実用化に成功した半導体プロセスによる医用超音波探触子「Mappie」が紹介された。圧電セラミックスなどを使用した従来の探触子では,人体と振動子の間に音響インピーダンスの大きな差があり,介在層により音響インピーダンスの整合をとる必要があった。しかし,シリコンウエハ上に微小な太鼓を多数形成して電気的に太鼓を振動させ,超音波の送受信を行う“cMUT”(capacitive Micro-machined Ultrasonic Transdusers)では,音響インピーダンスが原理的に人体に近いため,介在層を必要とせず,効率良く人体に超音波の送受信を行うことができる。このcMUT技術によって,Mappieは従来に比べて広帯域特性を有し,より高分解能な画像が得られるようになった。まずは乳腺領域向け探触子としての発売が予定されている。

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■「CHANGE the World〜世界を変えるモノづくり魂〜」
   代表執行役執行役専務 三木一克氏 インタビューはこちらから


GE横河メディカルシステム
GEブース

“GE for All”をコンセプトに掲げたGEブースでは,同社の超音波装置が幅広いケアエリアのすべてに対応していることをアピールした。従来のようなブランド別のコーナー分けではなく,今回はAbdomenを中心に,Breast/Thyroid,Cardiac,Vascular,Obgyn(obstetrics and gynecology)など,領域別のわかりやすいコーナー展開を行ったほか,テクノロジーパビリオンでは同社の開発の方向性を示した。

汎用型のLOGIQシリーズの新製品 LOGIQ E9
汎用型のLOGIQシリーズの新製品
LOGIQ E9

また,汎用型のLOGIQシリーズと,循環器専用のVividシリーズに,それぞれのフラッグシップモデルとなる新製品が登場した。「LOGIQ E9」は,新開発のビームフォーマーによって,表在から深部までの均一な高精細画像の描出が可能となったほか,CTやMRIの画像を同一画面上に表示してリアルタイムな比較を可能にする“Volume Navigation機能”,病変の位置を追跡して常に一目で把握できるようにする“GPS機能”などが搭載され,画質・診断精度・操作性の向上と患者の負担軽減の融合をより高い次元で実現した。

循環器専用のVividシリーズの新製品 Vivid E9
循環器専用のVividシリーズの新製品
Vivid E9

一方,「Vivid E9」は,三次元画像のリアルタイム表示に最適化された新開発の“ボリュームフォーマー”によって,世界で初めて,1心拍での心臓全体のデータ収集とリアルタイムの三次元画像表示(4D心エコー)が可能となった。



東芝メディカルシステムズ
東芝ブース

東芝ブースでは,「Artida」,「Aplio XG」,「Viamo」の3製品が展示された。

循環器専用システムのArtida
循環器専用システムのArtida

循環器専用システムのArtidaは,同社超音波診断装置の最上位機種。Cardiac 4Dイメージングや3D Trackingによるさまざまな解析機能のほか,新たに心筋の内外分離評価が可能な2D Trackingが搭載された。心筋の動態解析が可能で,特に虚血の診断に優れた有用性を発揮する。

汎用型のAplio XG
汎用型のAplio XG

汎用機のAplio XGについては,特に腹部・表在を中心に紹介された。“プレシジョンイメージング”という新しい描出法を搭載したことで,より細かいものを明瞭に描出できるようになり,臓器実質に埋もれた病変や辺縁の視認性が向上した。そのほか,以前から搭載されていた,肝臓内の微細な血管を可視化するMicro Flow Imaging(MFI)機能に加えて,新たに呼吸による動きの影響を受けにくい描出法である“スタビライザー”が追加された。

新製品のポータブル型装置 Viamo
新製品のポータブル型装置 Viamo

Viamoは,2009年に販売が開始されたポータブル装置。コンパクトでありながら,プレミアムクラスの基本画質性能が搭載されており,優れた画質を誇る。検査室にとどまらず,病棟,外来はもちろん,心臓カテーテル検査室や手術室でも活用することが可能で,さまざまな取り付け状態を想定して設計されている。操作系にはタッチパネルが採用されており,より簡便に使用できるようになった。

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持田シーメンスメディカルシステム
持田シーメンスブース

ボリュームイメージングをテーマに展示を行った持田シーメンスメディカルシステムは,循環器専用装置の最上位機種として新製品の「ACUSON SC2000」と,超音波装置「ACUSON S2000」と組み合わせて使用する乳がん検診用超音波自動ボリュームスキャナー「Automated Breast Volume Scanner(ABVS)」を中心に展示を行った。

循環器専用装置の新製品 ACUSON SC2000
循環器専用装置の新製品
ACUSON SC2000
ACUSON S2000
ACUSON S2000

ACUSON SC2000は,心臓全体の3D画像を,従来の2Dと同じように連続的にリアルタイムで観察できる“Full Volume Imaging”を可能にした。従来は,90°×90°の広い視野角を得るために,狭い視野角の4心拍分のデータをつなぎ合わせて使用していたが,呼吸の影響によってつなぎ目にアーチファクトが生じるなどの課題があった。しかし,ACUSON SC2000では,1心拍で90°×90°の広い視野角が得られるため,重症の心不全などのために呼吸コントロールが難しい患者さんにおいても,短時間でFull Volume Imagingを得ることができる。そのため,高画質と優れた時間分解能の両立が実現した。

乳がん検診用超音波自動ボリュームスキャナー ABVS
乳がん検診用超音波自動
ボリュームスキャナー ABVS

ABVSは,スタンド,アーム,タッチパネル,14MHzのトランスデューサーで構成されており,ACUSON S2000と組み合わせて使用する。ABVSで必要な範囲設定を行えば,超音波で自動的に乳房のボリューム撮像ができるため,乳がん検診時の検査スループットが大幅に向上する。また,ACUSON S2000については,音響放射圧を利用した新しい原理による組織弾性イメージング“Elasticity Imaging”が紹介された。

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富士フイルムメディカル
富士フイルムメディカルブース

富士フイルムは,新たに“CONVERTIBLE CONSEPT”を掲げ,FAZONE M Brainを中心としたFAZONE M Familyの展示を行った。

軽量・小型の携帯型超音波装置 FAZONE M Brain
FAZONE M Brain

同社は,2008年に軽量・小型の携帯型超音波装置としてFAZONE M Brainを発表したが,この装置を,用途に応じて数種類のカートと組み合わせ,「FAZONE M Mini」(日本国内薬事未承認)「FAZONE M Smart」,「FAZONE M Ultra」(日本国内薬事未承認)として使用可能なコンバーティブルシステムとして紹介した。FAZONE M Brainを頭脳とするため,基本的な機能はどれも共通しており,いずれのタイプにおいても高機能,高画質を得ることができる。さらに,使用する領域に応じて,例えば循環器の診断に特化した機能や外部モニタなどをオプションで搭載することも可能。カートにバッテリーが搭載されているため,救急時には電源につながなくても約2時間使用できるなど,有用性が高い。

FAZONE M Mini(日本国内薬事未承認)
FAZONE M Smart FAZONE M Ultra(日本国内薬事未承認)
FAZONE M Mini
(日本国内薬事未承認)
FAZONE M Smart FAZONE M Ultra
(日本国内薬事未承認)

FAZONE M Brainと外部モニタ
FAZONE M Brainと外部モニタ


アロカ
アロカブース

2009年4月1日から社名ロゴのデザインが新しくなったアロカブースでは,新キャッチコピーとして「illuminate the change〜見えないものを見る,変化を照らす」を掲げ,領域別のコーナーを設けて製品をアピールした。

 

“循環器/血管分野”では,主力製品の「プロサウンド α7」のほか,新製品として,ラップトップ型の「プロサウンド C3」シリーズの循環器用システムである「プロサウンド C3cv」を展示した。15.4インチのワイドディスプレイを搭載した最新のノートパソコンをバックエンド部として採用し,コンパクトでありながらも高性能・高画質を実現している。また,“消化器分野”でも,「プロサウンド α10」を中心にプロサウンド C3が展示された。

循環器/血管分野のプロサウンド α7(左)と新製品のプロサウンド C3cv(中央)
循環器/血管分野のプロサウンド α7(左)と新製品のプロサウンド C3cv(中央)
プロサウンド C3cv
プロサウンド C3cv
消化器分野のプロサウンド α10(右)と新製品のプロサウンド C3(左奥)
    消化器分野のプロサウンド α10(右)と新製品のプロサウンド C3(左奥)

“女性医療”については,“乳腺分野”と“周産期・婦人分野”の2つのコーナーが設けられた。乳腺分野では,乳腺専用スキャナの「ASU-1004」が注目を集めた。乳房の自動スキャンが可能であり,両側乳房の撮像を約2分で行うことができる。技師の技量を問わず,いつでも同じクオリティの画像が得られるため,検診などで有用性を発揮する。また,周産期・婦人分野では,「プロサウンド SSD-3500SX」,「プロサウンド α2」のほか,超音波骨評価装置「AOS-100NW」が展示された。音速だけでなく減衰量も測定できるため,骨折リスクをより正確に評価できるほか,放射線を使用しないため,若年者や妊産婦の測定に適している。

女性医療/乳腺分野に展示された,乳腺専用スキャナ ASU-1004(中央) 女性医療/周産期・婦人分野に展示された,超音波骨評価装置 AOS-100NW
女性医療/乳腺分野に展示された,
乳腺専用スキャナ ASU-1004(中央)
女性医療/周産期・婦人分野に展示された,
超音波骨評価装置 AOS-100NW
ネットワーク情報システム
ネットワーク情報システム

このほか,血流をベクトルで表示する血管フローマッピング機能を搭載したネットワーク情報システムが紹介された。

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フィリップスエレクトロニクスジャパン
フィリップスブース

フィリップスエレクトロニクスジャパンは,循環器用の「iE33」と汎用型の「iU22」のほか,循環器用超音波装置の新製品として,「CX50」「HD15」を展示した。

循環器用装置のiE33 汎用型装置のiU22
循環器用装置のiE33 汎用型装置のiU22
循環器専用装置の新製品でポータブル型のCX50 循環器専用装置の新製品 HD15
循環器専用装置の新製品で
ポータブル型のCX50
循環器専用装置の新製品 HD15

iE33は,経食道プローブによるリアルタイム3D経食道心エコーが可能となっている。骨や肺などに遮られることなく,術野と同じ方向から心臓の僧帽弁などを観察することができる。
ポータブル型のCX50は,同社超音波装置の中で最も小型だが,同社のハイエンド装置と同様の技術が採用されており,心臓の解析処理はすべて行うことができる。iE33でしか使用できなかった,世界初の単結晶プローブ“ピュアウエイブクリスタル”を搭載しており,優れた画像とドプラ感度を得ることができる。
同じく循環器に特化したHD15も,同様にピュアウエイブクリスタルが搭載された。HDシリーズの最上位機種として位置づけられており,心臓だけでなく,血管領域から腹部・表在まで幅広く使用することができる。
汎用装置のiU22については今回,腹部・表在を中心に紹介された。



●問い合わせ先
(社)日本超音波医学会事務局
TEL 03-6380-3711
http://www.jsum.or.jp/