(株)フィリップスエレクトロニクスジャパンは2月7日(土),グランドプリンスホテル高輪・プリンスルーム(東京・港区)において,「Philips Innovations Academy」を開催した。CTとMRIに関して,同社の製品を用いた臨床報告や最新技術の解説が行われた。
同社は,昨年CTの新製品として,256スライス,世界最速0.27秒回転のハイエンド装置「Brilliance iCT」を発表した。講演会開催時点で,全世界で50台,日本国内で3台が稼働している。また,MRIに関しては,RSNA 2008において,これまでの3T MRIの画質を飛躍的に安定化し,腹部領域への適用も容易にするMultiTransmitを紹介。同時にこの技術を採用した装置も発表した。今回は,これらの製品,技術をテーマにしている。開会に先立ち挨拶した,同社ヘルスケア事業部常務執行役員マーケティング本部長の中辻 博氏は,Brilliance iCTについて「CTの新しい時代を切り開く装置と自負している」と自信をのぞかせた。また,MultiTransmitについては,「3T MRIの利点を生かし切れていなかった領域への成果が期待できる」と力強く述べた。
第1部のCTのセッションでは,東京大学教授の大友 邦氏が座長を務め,2題の講演があった。まず,桜橋渡辺病院画像診断科長の小山靖史氏が,「心臓CTを用いた包括的診断〜心機能解析〜」と題して講演した。小山氏は,Brilliance iCTについて,64スライスCTと比較して,高速撮影とワイドカバレッジによる心臓CTへの有用性が高いと説明。Eclipse DoseRight collimatorにより従来から30%の低被ばくを実現するなど,情報量と被ばく量のバランスがとれた多列化CTであると評価した。その上で,CT画像の情報を最大限に引き出し診療に生かすという考えのもと,同装置1台で,1回の撮影により形態診断と機能診断を行うという包括的心臓画像診断を紹介した。小山氏は,石灰化プラーク,非造影心筋性状,非石灰化プラーク,造影心筋性状,心機能解析について解説して,包括的診断により,効率的に精度の高い診断ができ,コストや患者負担の軽減にも結びつくと述べた。
続いて,「新しい多列化CTによる胸腹部疾患での可能性」と題し,浜松医科大学准教授の竹原康雄氏が講演した。竹原氏は,Brilliance iCTによって時間分解能が向上したことに加え,Z 軸方向の空間分解能が上がったことで,心臓の壁運動や冠動脈,慢性閉塞性肺疾患(COPD)におけるsmall-airwayの評価に有用であるとして,症例画像を提示しながら説明した。また,3Dボリュームデータが得られることで,定量性,客観性,再現性のある情報が得られ,EBM時代の画像診断に適しているとの見方を示した。竹原氏は,CTの将来像についても触れ,X線分光CTにより元素特異性,組織特異性情報が得られる可能性があると述べた。
第2部のMRIのセッションでは,東海大学教授の今井 裕氏が座長を務めた。先に,MultiTransmitの開発に携わったPhilips Healthcare, BestのPaul Harvey Ph.D.が,「MultiTransmit technology for Achieva 3.0T」と題して講演した。Harvey Ph.D.は,MultiTransmit開発の理由について,3T MRIで問題となるRF波の不均一性を解決するためだと説明。20年近い歳月をかけて開発を進め,2003年から製品化を進めてきたと述べた。このMultiTransmitは,従来の誘電効果対策であったBody Tuned CLEARのように見かけ上の画像の均一性を高める技術とは異なり,誘電効果を低減させ画質の最適化を図るものである。画像信号の均一性,SNRが向上するほか,local SARの低減により撮像時間が約40%短縮する上に,flip angleの自由度が上がり,コントラストも良くなる。
Harvey Ph.D.の次に講演した同社ヘルスケア事業部マーケティング本部アプリケーションスペシャリストの諏訪 亨氏は,「MultiTransmitにより臨床結果について」と題し,ドイツ・ボン大学で撮像された症例画像を提示しながらこれらの特長を解説した。同社ではMultiTransmitを現行機種の「Achieva 3.0T」のオプションとしても提供することを検討しているという。他社よりも3年早く開発できたというこの技術が,臨床の場にどのようなメリットをもたらすのかが注目される。 |