「2009年 新年・年頭所感」
(社)日本画像医療システム工業会 会長 猪俣 博
皆様、明けましておめでとうございます。平成21年の年頭を迎え、心からお慶びを申し上げます。
世界経済は、一昨年夏のサブプライムローン不良債権化に端を発し、原油、穀物をはじめ多くの原材料の高騰や環境問題が顕在化して大きく変動を始めました。昨年秋には米国を起点にした世界の株価の大暴落、金融信用不安、巨大企業の倒産など世界経済危機が起こり、各国は協調して対策を実施していますが、いまだ不透明の状況です。このような世界経済の動向は日本経済へも大きく影響し、多くの産業にとって大変厳しい事態となっています。
日本の医療の現状は、救急医療の対応力不足、産科・小児科などの医師不足、医療事故、医療施設の縮小・廃止など、いまや国民の生命と安全に対する社会問題となっています。
われわれ画像医療システム業界では、厳しい経済環境を注視し日本の医療の現状を認識しつつ、日本の医療における画像医療システムを取り巻く課題に取り組み、国民の医療の充実に寄与してまいります。
現在、JIRAは以下に述べます二つの大きな変化の只中にあり、これらより生じる種々の課題への迅速な取り組みが求められています。
その第一は画像の医療における価値認識の変化です。
近年、急速に進化する画像診断機器・システム技術が、がん・脳梗塞・心疾患などの診断精度を飛躍的に向上させ、早期診断・早期治療を可能にするなど、医療の近代化と質の向上に大きく貢献しています。このことは医療画像への価値認識を高めてきています。一方、近年、日本の医療は医療費増加と負担のバランス、診療報酬制度、医療スタッフの不足や負担の増大など、様々な課題が顕在化しています。こうした状況が、医療機関の画像医療システムの新・増設、更新の意欲を削いでいるように思われます。ここ数年、堅調に推移してきた日本の画像医療システム市場は、2007年度では前年度比11%減となり、2008年度上期においても前年同期比横ばいで回復しておりません。医療費圧縮の流れが医療画像への価値認識を下げていないかと懸念しています。
あらためて、医療画像の価値を増大させる新製品・新応用技術を創出できる環境造りを産・官・学で一層強力に推進するとともに、安全・安心、患者さんのQOL、医療効率向上など画像医療システムが寄与する幅広い社会的価値を認識していただく活動を強化します。
第二は画像医療システム産業を取り巻く環境の変化です。
政府の「骨太方針2007」に基づく「革新的医薬品・医療機器創出のための5か年戦略」、「新医療機器・医療技術産業ビジョン」など、医療機器産業に大きな影響を及ぼす施策が打ち出されています。この中で、医療機器は医薬品と異なる、その特性に即した扱いが必要と認められたことは大きな前進です。医療機器の最も大きな特性は“多種多様性”です。医薬品のように一括りした扱いではなく、医療機器はリスクレベルなど特性の違いによる幾つかに区分した扱いが必要です。施策全体の策定・推進に対して日本医療機器産業連合会はじめ関連業界団体と連携して取り組むことと並行して、画像医療システムの特性に即した施策への明確で具体的な要望・提言を示す独自の活動を強化します。
また、グローバル化の流れの中で、国際整合の進展と国際競争の激化は画像医療システム産業の構造にも影響してきています。整合化への国際会議参画、国際展示会出展や海外の関係工業会との連携活動など海外も視野にいれた活動をより積極的に展開します。
JIRAは以上の二つの変化を踏まえて、次に定めた2009年のJIRA「重点活動方針」に基づく活動を、会員が一丸となって推進していきます。
1. 「画像医療システム」の適正評価を求める活動と提言
JIRAは、従来から画像医療システムの価値に対する適正な評価を求め、色々な機会に活動を続けてまいりました。特に、医療における画像診断の価値の再認識を求め、それに基づく診療報酬評価体系のあるべき姿と再構築の方向性を提言するために、一昨年に「適正評価に架ける橋プロジェクト」を発足させました。本プロジェクトにおいて、画像医療システムは「患者やその家族」「医師やその医療機関」に対する価値提供をはじめ、「医療のイノベーション」を通して国民健康維持や医療保健財政健全化に大き貢献するということが明確にされ、画像診断の診療報酬体系における大きな方向性を明示しました。このような観点から、本年は以下の提案が具体化されるよう、関係団体とも協力しながら、行政へ働きかけていきます。
(1) 患者の安全確保に不可欠の保守・維持管理コストの明確化と明文化
「医療機器安全管理料」の画像診断機器への適用拡大を検討するか、もしくは「諸経費として所定点数に含まれる」との明文化により、コストと管理の重要性の意識付けを行い、実効性の有る安全確保に結び付けます。
(2) 診療報酬画像診断領域の新たな構成体系化における評価位置づけへの提案
初期診断に供される「一般撮影」と主に詳細診断に供される「CT、MRI、RI等」とで大きく評価体系が異なります。「一般撮影」では「アナログ撮影」と「デジタル撮影」の特性に応じた評価体系が必要で、「デジタル撮影」に関しては「デジタルX線撮影料(仮称)」という概念の新設を要望します。
(3) IT化促進を踏まえたイノベーション評価
画像診断機器の技術革新は単なる「もの」という段階から「医療技術としてのソフトウエア」により、より一層の臨床価値や診断精度管理を担保できるようになってきました。IT化によるイノベーションの評価は、今後の医療技術として評価すべきと考えます。
2. 行政施策への提言と対応
政府の「骨太方針2007」に基づき、2007年4月に「革新的医薬品・医療機器創出のための5か年戦略」が発表され、2008年9月に「新医療機器・医療技術産業ビジョン」が示されました。この中で、医療機器は医薬品と異なる、その特性に即した扱いが必要であり、医療機器は単に「もの」ではなく「医療技術」であることが認識されたことは大きな変化です。
「革新的医薬品・医療機器創出のための5か年戦略」については、<1>研究資金の集中投入、<2>ベンチャー企業育成等、<3>臨床研究・治験環境の整備、<4>アジアとの連携、<5>審査の迅速化・質の向上、<6>イノベーションの適切な評価、に取り組むものとなっています。JIRAは日本医療機器産業連合会に設立された“5か年戦略推進WG”へ委員を送り、関連団体との連携を強化し行政への提言と施策への対応を推進してまいりました。また、これらの活動を推進するために、「JIRA5か年戦略推進WG」を新設しております。このWGでは、医療機器の研究開発促進策として、研究開発促進税制の上限枠撤廃など各種税制対策を国に求める活動や、薬事未承認機器の臨床使用に係る諸問題、特に画像医療システムなど低リスク医療機器への規制緩和について事例調査を行い、課題解決に向けた行政への積極的な提言を各団体と連携して行ってまいります。
「新医療機器・医療技術産業ビジョン」の策定に当っては、JIRAも「医療機器産業政策の推進に係わる懇談会」をはじめ、ヒアリング、パブリックコメント等を通して提言をして参りました。その結果、全般的にほぼ反映されたと評価しております。具体的には、医療機器は医薬品と異なり多種多様であることや、既存製品から改良や異なる技術と融合することによって新しい医療機器が生まれる特徴があることが認識されました。また、「改良・改善」による医療機器のイノベーションに配慮した施策や、低リスク、高リスクなどの多様な医療機器の特徴にも考慮した制度等の必要性も理解されました。一方で、残された課題も多々あり、特に医療機器・医療技術の適正評価や、低リスク医療機器の承認手順の簡素化等に関して、今後もJIRAとしての意見が反映されるよう、活動を強化してまいります。
3. 医療機器の「安全・安心」への取り組み促進
平成17年4月の改正薬事法施行から4年目を迎え、この間、医療法の一部改正施行により薬事法と医療法の整合が図られ、医療機器を正しく使用するための法体制整備は行われてきました。しかし、JIRAが実施した「画像医療システム等の導入状況と安全確保状況に関する調査」結果では、保守点検実施率や買換え年数の増加等からの医療機器の使用実態は「安全・安心」の観点からは十分とはいえない状況にみえます。
「安全・安心」への取り組みにおいて、JIRAは、第一に「装置引渡しガイドライン」の作成を推進していきます。「装置引渡しガイドライン」は装置ごとにガイドラインを作成していますが、新規作成でJIRAの扱う装置を広くカバーすることと併せて、すでに作成した「装置引渡しガイドライン」の内容をそれぞれの装置の技術動向の進歩に適合させる更新整備も推進します。
第二に、GVP省令で定められた「医療機器情報担当者」は、医療機器の性能・特徴・特質を知り、医療機器を正しく使用するための情報提供・情報収集が責務ですが、その育成にJIRAは独自の取り組みを行います。教育テキストなどの作成、研修会開催による教育レベルの平準化、均等化を図り「医療機器情報担当者」の育成強化を支援します。
第三に、医療機器を安全にご使用いただくために、「安全管理情報」の提供を強化します。また、医療機関側の医療機器の使用にあたって、医療機器点検技術者による、始業・終業点検表を基にした医療機関それぞれの日常点検表の作成支援や保守点検計画作成への支援活動・コミュニケーションを進め、医療機器の保守点検・定期点検による“予防保全”への取り組みを推進します。
4. 国際活動の強化
海外の関係工業会(欧州:COCIR、米国:NEMA-MITA、中国:中国医療器械行業協会、韓国:韓国医療機器産業協会、韓国医療機器工業協同組合)と交流を深めながら、医療機器に関わる通商問題、診療報酬、国際標準化、環境問題等の規制の国際的整合、市場データの交換等、多面的な国際活動を行い、JIRAのプレゼンスを高めるとともに昨今伸長著しいアジア諸国、特に中国、韓国の医療機器に関する法規制動向を調査し会員企業への情報提供を行っていきます。
平成20年は中国の代表的な医療機器展示会である中国国際医用機器設備展覧会(CHINA-HOSPEQ)、中国国際医療機器博覧会(CMEF)春季大会・秋季大会の3展示会にJIRAのブースを出展し、JIRAの活動を紹介するとともに会員企業の関連機器製品の展示を行いました。また昨年、国際展示WGを編成し、RSNAに初めてJIRAブースを出展し、JIRAの紹介と会員企業、特に関連機器部会の会員企業のRSNAへの参加をサポートしました。本年はRSNAへの出展をはじめ、特に発展要素の大きいアジア地区、とりわけ中国への出店を充実させ、JIRAのプレゼンスの向上と会員企業のサポートを続けて行きます。
RSNA2008の期間に開催されたDITTA会議ではグローバルな医療機器の市場動向や各種規制について議論を行いました。JIRAはDITTAメンバーと国際整合を図りながら、アジア地域で積極的に活動をしてまいります。
また、DITTAやGHTF、HBD会議等の国際整合会議へ継続的に参加し、医療機器に関する規制について整合化され調和のとれた有効なものになるよう活動を行っていきます。最近ではアジアを中心に結成されたAHWPにも参加し、近隣諸国へのサポートを行っていきます。
5. コンプライアンスの徹底
変動の時代にあって、コンプライアンスは事業活動のバックボーンです。“コンプライアンス(法令順守)があなたを守る”をキャッチフレーズに、会員各社が公正にして秩序ある事業活動を行うために、倫理綱領、コンプライアンス宣言、医療機器業プロモーションコードおよび公正競争規約の順守を推進してまいります。
昨年は、工業会活動の一部を自粛するという事態も経験したことを深く反省し、公正取引に関しては、「公正で自由な競争」がより高い透明性で求められていることを、会員各社に、くり返し徹底するとともに、医療機関・従事者へも周知活動を行ってまいります。
6. JIRA基盤稼働の強化
平成20年度にJIRAの事務局機能強化、情報発信・交換機能の強化や部会・委員会活動の効率化を図るために、ITインフラの整備、拡充を行いました。従来、会員各社個別に連絡していたID/PWに加え、部会・委員会所属の委員個々にID/PWを付与しました。これによりセキュリティを確保しつつ、インターネットで会議支援システム、JIRAカレンダー、ホームページの会員ページなどへアクセスできます。これらは平成21年度以降に効果を発揮することになります。
平成18年より始めた「継続的研修」は平成20年には他の3団体の協賛を得て、全国7会場で9回開催し、1,563名が研修を完了しました。JIRAは今年も「継続的研修」を主催し、より充実した研修とします。「JIRA市場統計」は新たな方式に変更して3年目に入り、統計登録企業も80社に増え、市場統計の付加価値も増大しています。平成21年には市場統計システムを電子入力のデータ転送による自動集計システムを導入して、ミスを防止しセキュリティを確保したシステムに移行します。
「画像医療システム等の導入状況と安全確保状況に関する調査」は昭和63年より始め、5年ごとに実施してきましたが、平成18年調査から毎年実施することにしています。調査結果は医療機器の「安全・安心」への取り組みなど多くの提言のエビデンスとして役立っています。
経産省策定の「国際標準化目標」や内閣府取り纏めの「イノベーション25」で「標準化活動の国際展開」が策定される等、近年とみに国際標準化への注目度が拡大しています。JISの基となるIEC原案作成活動への従来以上の積極的参加を通し、JIRA主張の国際規格への反映に力を注いでいきます。標準化・規格化への参画はJIRAの最も基盤となる活動です。
JIRAは国際医用画像総合展、日本磁気共鳴医学会大会併設機器展示会、日本核医学会学術総会併設展示会の運営を行っています。今年の国際医用画像総合展(ITEM2009)は4月17日〜19日にかけ、パシフィコ横浜において日本ラジオロジー協会(JRC)主催でJIRAが運営します。
JIRAホームページの拡充を進め、会員向け「JIRAニュース」、「JIRA会報」の定期発行、さらに「画像診断機器関連産業2009」の編集発行を行い、会員企業への情報提供と連携強化を推進していきます。
JIRAでは、平成13年9月に公表したJIRAの「21世紀プロジェクト」の提言に対し、現在の対応状況の評価とJIRAを取り巻く環境の変化を踏まえ、JIRAはどうあるべきかを検討する「JIRA将来構想プロジェクト」が作業中です。この提言を受け、平成21年は名実ともにJIRAが変わる第一歩の年にしたいと思います。
以上、昨年の活動成果を含め、今年の重点活動方針について説明しました。
これらの活動が成果に結びつくにはJIRA自らの活動はもとより、行政・関連学会・関連業界団体からのご理解と連携が必要です。皆様のご理解とご支援をお願い申し上げます。 |