研究会会場風景
質疑応答で参加者の質問に答える中川恵一 氏(左)と斉藤史郎 氏(右)
斉藤史郎 氏
(写真1)
中川恵一 氏
(写真2)
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一般市民を対象とした「前立腺がん放射線治療研究会」が6月12日(火),東京大学医学部鉄門記念講堂にて開催された。前立腺がんの基本的な説明や最先端の治療法などについて,東京医療センター泌尿器科医長の斉藤史郎氏(写真1)と,東京大学医学部附属病院放射線科准教授の中川恵一氏(写真2)による講演が行われた。
東京医療センターは,早くからイリジウムによる小線源治療に取り組み,2003年9月には日本初の125Iシード線源永久挿入療法の施設認可を受けた。2006年11月までの3年間で,約650例の治療実績を誇る。斉藤氏は,これらの経験を踏まえて,「前立腺がんの小線源治療」と題して講演し,前立腺がんの検査法や小線源治療についてわかりやすく説明した。前立腺がんにはいくつかの診断法があるが,特に有効な方法として,前立腺に特異的なタンパク質の一種である前立腺特異抗原(prostate
specific antigen:PSA)を用いた検査法がある。PSAと前立腺がん発見率には明らかな相関が見られるとし,群馬大学が行った前立腺がんの検診に関する調査結果を紹介した。それによると,直腸診,経直腸的超音波断層法,PSAによる検査を比較した結果,有病正診率はそれぞれ48.1%,44.2%,80.8%であり,PSAの発見率が有意に高いと述べた。次に,前立腺がんの治療法である,125Iシード線源永久挿入療法を中心とする小線源療法について,前立腺全摘除術,内分泌療法,化学療法と比較しながら詳しく紹介した。小線源療法は,線源を前立腺の内部に挿入するため,外照射と比べて,(1)前立腺の移動の影響を受けず,優れた線量分布が得られるため周囲臓器の放射線障害が少ない,(2)前立腺内部には高線量の照射が可能である,などのほか,全摘 除術と比べて,(1)性機能が高率に維持 され尿失禁など排尿への影響が少ない,(2)低浸襲であり合併症が少ない,(3)入院期間が短い,などのメリットがあると述べた。一方,デメリットとしては,(1)外照射に比べて前立腺被膜外での線量が極端に低いため浸潤巣では効果がない,(2)線源留置のための穿刺に伴う侵襲があり入院が必要になる,(3)全摘除術以上の治療効果が望めない,などと指摘した。しかしながら,125Iシード線源永久挿入療法は現在,国内では72施設で実施されており,今後さらに身近な治療法となっていくことが期待されると述べた。
続いて中川氏は,「前立腺がんのIMRT治療」と題して講演を行った。がんの完治には手術もしくは放射線治療が必要であり,特に前立腺がんの治療法として,放射線の外照射は手術,小線源治療に比べて,病期を問わず効果があると述べた。また,照射線量によっては,全摘除術よりも高い非再発生存率を示すなどのメリットがあるとした。一方,従来から行われてきた原体照射法では,正常組織にも高線量域が生じてしまうとした上で,最先端の治療法である強度変調放射線治療(intensity
modulated radiation therapy:IMRT)について紹介した。IMRTのメリットとして,任意の線量分布の作成が可能なため,正常組織を避けて凹型の高線量域を作成し,前立腺部分のみに放射線を照射することができると述べた。IMRTについては,2007年6月から江戸川病院(東京都江戸川区)において,東京大学医学部附属病院放射線治療部門が全面的にサポートし,IMRT専用装置のトモセラピーによる前立腺に特化した放射線治療が開始されている。トモセラピーは,ヘリカルCTの技術を応用した装置で,位置照合用のCTと放射線治療装置が一体となっている。同一寝台上で放射線治療の直前にCT撮影を行うことができ,寝台を移動させながら,放射線を360°方向から照射可能である。中川氏は,トモセラピーはすべてのがんを対象に使用できるが,前立腺の構造や,前立腺がんに対する放射線治療の特性から,前立腺がんの治療に最も有効だと述べた。
講演終了後の質疑応答では,参加者が自身の症状や放射線治療について熱心に質問する姿が見られ,前立腺がんに対する関心の高さがうかがわれた。
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