取材報告

2005
PETサマーセミナー2005 in 霧島

セミナー風景
セミナー風景

陣之内正史 氏
陣之内正史 氏
(写真1)

小林尚志 氏(左)と上村 明 氏(右)
小林尚志 氏(左)と
上村 明 氏(右)
(写真2)

宇野公一 氏
宇野公一 氏
(写真3)

高原太郎 氏
高原太郎 氏
(写真4)

落合礼次 氏
落合礼次 氏
(写真5)

川渕孝一 氏
川渕孝一 氏
(写真6)

泉田龍男 氏
泉田龍男 氏
(写真7)

西尾正美 氏
西尾正美 氏
(写真8)



 霧島国立公園の霧島連山の麓に位置する鹿児島県の霧島温泉郷は,標高600〜850mに位置する大小8つの温泉からなる。その中にある高千穂の峰には天孫降臨の神話が息づき,幕末には坂本龍馬が妻のおりょうとともに日本で初めての新婚旅行に訪れた土地としても知られている。この緑豊かな大自然に囲まれた温泉郷にある霧島ロイヤルホテルを会場に,8月22日(月)〜24日(水)までの3日間,「PETサマーセミナー2005 in霧島」が開催された。医療法人慈風会厚地記念クリニックの陣之内正史氏(写真1)が大会長を務め,台風が接近するなか,全国から515人の参加者が会場を訪れた。

 今回は「クリニカルPETの健全な発展を目指して」をテーマに,PETの有用性と限界,今後のめざすべき方向性を模索する内容となっている。開講式で大会長の陣之内氏は,初日のワークインプログレスから最後のパネルディスカッションまで充実したプログラムが組まれており,これからの3日間はこの霧島の地でPETについてしっかり学んで欲しいと挨拶した。


〈8月22日〉

1日目は午後2時からセミナーが開始され,ワークインプログレス,新施設紹介,夜の学校など,午後9時30分までぎっしりと講座が組まれた。

ワークインプログレスでは日立製作所,住友重機械工業,GE横河メディカルシステム,シーメンス旭メディテック,日立メディコ/フィリップス,東芝メディカルシステムズ,島津製作所,旭化成情報システム,ジェイテックの各社が,自社の最新技術やその技術を搭載した製品について参加者にPRした。

〈8月23日〉

2日目は,教育講演,一般講演,特別講演,シンポジウムなどが開催された。中でも「PETがん健診:リスクと対策」と題されたシンポジウムでは,MRIの拡散強調画像によるDWIBSに関する発表が行われるとあって,参加者の注目を集めた。“技術リスク”,“マクロ分析とリスク予測”,“経営リスク分析”の三部構成となっており,古賀クリニックの小林尚志氏(写真2左)と日立製作所の上村 明氏(写真2右)が司会を務め,5名の専門家による発表が行われた。

●シンポジウム

第一部では,はじめに西台クリニックの宇野公一氏(写真3)が,「PET陰性がん:診断限界と対策」と題して,症例を示しながら講演を行った。同院では2000年10月〜2005年3月までに,約18120人に対してFDG-PET検査を実施している。このうち,236人にがんが発見されたが,実際には約33%の78人がPETでは陰性と診断されたという。陰性となった原因には大きく分けて,1)腫瘍のサイズが1cm以下,2)増殖速度・分化度・細胞密度・壊死などの腫瘍の性質,3)G6Pase,4)生理的集積内腫瘍・体内深部腫瘍,5)横隔膜などの動き,6)血糖値,7)投与量・撮影条件・読影見落とし,の7つがあり,特に前立腺がん,乳がん,膀胱がん,胃がんの早期がんはほとんど見つかっていないことから,PETで陽性になるがんの種類は必ずしも多くはないと述べた。解決策として,FDGとアセテートを併用する,CTや超音波を併用して経過観察をする,内視鏡検査や生検を行うなど,部位に合わせてPET以外の検査法などを併用し,診断の確度を高める工夫が必要であると述べた。さらに,健康診断の増加に伴ってエビデンスを増やし,実績を出していくことが重要であるとの考えを示した。

東海大学の高原太郎氏(写真4)は,「全身MRI-DWIBSの登場が与えるインパクト」と題し,DWIBS法による腫瘍診断の仕組みとその有用性について,拡散強調画像に関する解説を交えながら発表した。拡散強調により躯幹部の腫瘍診断を行うには,大量の空気が存在することによる歪みが大きい,画像のSNRが低い,脂肪抑制が困難な部位があるなどの課題があり,これまで拡散強調画像をルーチンに用いることは難しかったという。しかし,STIRで自由呼吸下の長時間撮像を行うことにより,現在では病変の拾い上げや三次元的な病変分布の把握,経過観察,腫瘍以外の病変の検出などで良い成績を挙げられるようになっているという。また,PETとの比較においては,被ばくがない,空間分解能が高い,台数が多い,保険点数がPETの1/6である,などのメリットがあるとする一方で,全身スキャンパッケージがまだ完成しておらず方法論として確立するまでに時間がかかる,画像の歪みが多い,磁性体・空気・拍動・蠕動などによって画像が劣化する,などのデメリットもあると述べた。DWIBSが一般的に実施されるようになるためには,スキャンパッケージの完成とチャンネル数が多くSNRの高いコイルを搭載したシステムの普及が必要であるが,経過観察やPETでの不明点を確認するなど,DWIBSがPETを補完するために優れた能力を発揮するであろうとの可能性を示し,Solutionとしての高性能MRIを持たないPET施設は将来的な経営リスクにつながるだろうと述べた。

古賀病院21の落合礼次氏(写真5)は,「MRI(DWIBS)vs PET:PETセカンド!?」と題して,多数の手術例についてPETとDWIBSの画像を比較しながら,DWIBSの有用性を述べた。比較は,PETで撮影した症例についてDWIBSでも撮像するという方法で行われた。その結果,PETで描出できる腫瘍はDWIBSでも描出することができ,DWIBSは良性でも悪性でも腫瘍を検出する能力が高いことがわかったという。結論として,T1,T2強調画像などで質的診断まで可能である,造影剤が不要で被ばくもない,MRIの方が安価で全国に普及している,などの理由から,すべてにおいてDWIBSの方がPETよりも優位であると判断したと述べた。

第二部では,東京医科歯科大学の川渕孝一氏(写真6)が,「PET普及と過当競争」と題して,PETの普及に伴うファイナンシャルリスクについての考えを述べた。現在,FDG-PETの保険点数は,紹介による共同利用をした場合は7500点であり,1台当たり年間2000人の患者が利用するという条件下で計算した場合,1施設で3台以上のPETを稼働させなければ原価割れを起こしてしまうとし,PET台数を増やしても患者数の確保ができるかどうかという疑問が残るとの問題点を指摘した。その上で,PET検査を安価で提供するためには,FDGの効率的・広域的な供給システムの構築が必須であるとの考えを示した。一方で,PETをさらに普及させていくための課題として,1)PET装置の計画的配置が必要,2)放射性医薬品を取り巻く数多くの規制の整理が必要,3)核医学専門スタッフの確保,4)PET装置に関わる廃棄コストの問題を解決する,などを挙げた。PETは経済学的に見ると普及が難しいとされる状況だが,実際には急激に普及している。今後は,他のモダリティとの比較や,検査費用と医療費削減との関係をエビデンスベースで分析することが,わが国には非常に求められているのではないかと述べた。

第三部では,日立製作所の泉田龍男氏(写真7)が,「産学協同事業と経営リスクの低減」と題して,病院経営で収益を上げていくためにメーカーとして何ができるか,などについて述べた。PET施設を運営していくためには,複数の病院とメーカーとが情報一元化システムのネットワークを構築するなど,病院の効率的運営を目的とした協力体制を築くことが重要であると述べた。また,同社が開発した機器トラブルや放射線被曝を低減するためのシステムなどを紹介し,健診の拡大や悪性腫瘍などの治療計画への適用拡大,分子イメージング研究の重要なツールとして,PETの将来は明るいとの考えを示した。

講演後のパネルディスカッションでは,第一部の内容に質問が集中し,PETとDWIBSが補完し合うものになるのか,敵対するものになるのか,などをテーマに活発に意見が交わされた。DWIBSについては現状ではまだエビデンスが不足しており,MRIがPETをしのぐモダリティになるとまでは言えないものの,PETを補完し診断の確度を上げるためには大変有用であるとの意見が多く述べられた。また,PET-CTに次いでPET-MRIの登場が待たれるとの声も上がった。

〈8月24日〉

3日目は,「PET/CT徹底討論」をテーマとしたパネルディスカッションが行われ,メーカー同士の討論やPETの使用経験,読影のポイントなどに関する講演が行われた。

セントラルCIクリニックの塚本江利子氏,獨協大学の村上康二氏が司会を務め,第一部では,セントラルCIクリニックの越智伸司氏が,「各機器の特徴のブリーフィング」と題した発表を行い,続いてGE横河メディカルシステムの関口康晴氏,シーメンス旭メディテックの渡部一雅氏,東芝メディカルシステムズの本村信篤氏,日立メディコの萱沼伸行氏,島津製作所の天野昌治氏が,それぞれのPET,PET-CTの特徴を紹介した。その後行われたメーカー同士の討論では,互いの製品に関する質問が出され,白熱した意見が交わされた。

第二部では,国立がんセンター東病院の佐藤 敬氏が「GEの経験」,獨協大学の関 昌哉氏が「シーメンスの経験」と題し,それぞれの使用経験について述べた。

第三部の「読影のポイント,新しい応用法」では,セントラルCIクリニックの塚本江利子氏が,「読影のポイント〜GEのWSを使って」と題して,PETとPET-CTの読影の違いや読影の仕方,注意点,CTの線量の決め方などについて発表した。また,獨協大学の村上康二氏は,「新しい応用法〜3D,治療計画など」と題して,PET-CTの3D画像の応用として,PET-CT下のインターベンションやPET-CTAの可能性を示唆した。
第四部の「保険について」では,京都大学の中本裕士氏がFDG-PETの保険適用要件や,PET-CT検査における保険適用について,診療報酬が支払われる条件などについて述べた。

閉校式では,今回の施設代表者委員会において新しい規約が承認され,PETサマーセミナー協議会が誕生したとの報告がなされた。常設の運営委員長に先端医療センターの千田道雄氏が就任し,今後は協議会がセミナーの運営を行っていくという。また,「PETサマーセミナー2006」は名古屋放射線診断クリニックの西尾正美氏(写真8)が大会長を務め,医療法人大雄会との共催により名古屋で開催されるとの発表があり,盛会の内に幕を閉じた。