取材報告

2005
第6回本郷緩和ケア研究会が開催される

会場
会場には一般から約200名が参加し,緩和ケアへの関心の高さがうかがえた。


中川恵一 氏
中川恵一 氏
(東京大学医学部附属病院
放射線科助教授,
緩和ケア診療部部長)


日野原重明 氏
日野原重明 氏
(聖路加国際病院理事長)




 第6回本郷緩和ケア研究会が3月23日(水),東京大学医学部鉄門講堂で開催された。2010年には,2人に1人ががんで死亡すると予測されている現在,“限りある命をどう生きるか”ということが問われており,終末期を迎えたがん患者と向き合う医療の現場では,患者のQOLを高めるための対応が課題となっている。このような現状を踏まえて,今回は日本のホスピス医療の先駆者であり,執筆・講演活動などを精力的に行っている聖路加国際病院理事長の日野原重明氏を迎え,講演会が行われた。

 同会は初めて一般に公開され,幅広い分野で活躍中の日野原氏が講演されるとあって,定員いっぱいの200名が会場を訪れた。はじめに,2004年12月にBSジャパンで放送された『「自分を生ききる」日本人のがんと緩和ケア』と題したVTRが上映された。この中で、東京大学名誉教授・北里大学教授の養老孟司氏と,本会の世話人で,2003年に東大病院内に緩和ケア診療部を立ち上げた中川恵一氏(東京大学医学部附属病院放射線科助教授,緩和ケア診療部部長)が,緩和ケアの重要性について対談している。上映後の中川氏の講演では,「東大病院で緩和ケアをすること」をテーマに,現状について具体的に解説。東大病院には,たった4床だが緩和ケア病棟があり,2003年の開設からこれまでに約90人の患者を受け入れている。ほとんどの方が亡くなっているが,その現場に学生らが立ち会うことで,終末期の患者の思いを学ぶことができ,教育的見地からも意味を持っているという。患者のQOLを高めるためには,放射線やモルヒネによる疼痛緩和が欠かせない。WHOでも,程度に応じたモルヒネなどの使用が効果的として基準を設けているが,医療従事者でさえ理解が進んでいないという。東大病院で行われた,疼痛緩和に関するアンケートでは,WHOの基準について,「よく知っている」と答えた人が1割にも満たなかったことから,中川氏は,まずは緩和ケア病棟から,ひいては東大病院全体で理解を深めることが求められるとの考えを示した。

 続いて,日野原重明氏が「限りあるいのちと緩和ケア」のテーマで,日本における緩和ケアの歴史や現状について諸外国と比較しながら語った。欧米でのホスピスの定義が,“あらゆる病気の末期の人のQOLを高いものにする”というものであるのに対し,日本では保険適用をがんとエイズの患者のみに限定していることから,ホスピスに対する政府の意識の低さを指摘した。国内では,ホスピスの数が少なく,がんで亡くなる人のごくわずかしか利用することができない。どんな医療機関でも患者に愛を持って接することが理想であるとしながらも,特に大学病院などでは患者を研究対象として見てしまいがちであるという問題点を指摘。総合病院のホスピス的なサービスをする病棟として緩和ケア病棟が位置づけられるが,それらが徐々に増えていくことで,患者のQOLを高めねばならないと述べた。さらに,患者が幸福感を持って生きるためにも,英語の“ターミナル”を“末期”と訳すのは不適切であるとし,“末期がん”ではなく“緩和期にあるがん”という表現が広がる必要があると述べた。

 現在93歳の日野原氏は,年齢を感じさせない様子で,時折ユーモアを交えながら約1時間半にわたり講演した。一般の参加者も,緩和医療の現状が理解できると同時に,QOLへの理解が深まったのではないかと思われる。


〈世話人〉
・東京大学医学部麻酔科・痛みセンター教授 花岡 一雄氏
・東京大学医学部精神神経科教授 加藤 進昌氏
・東京大学医学部放射線科助教授 中川 恵一氏
・戸田中央総合病院緩和治療科部長 小野 充一氏
・北里大学医学部第4内科教授 東原 正明氏

共催:本郷緩和ケア研究会,東京大学医師会,大日本製薬株式会社

●問い合わせ先
東京大学医学部付属病院放射線科
TEL 03-3815-5411(内線33681) FAX 03-5800-8935 
http://www.h.u-tokyo.ac.jp/