取材報告

2005
第3回化学放射線治療科学研究会 開催

会場風景
会場風景


 第3回化学放射線治療科学研究会(東京大学大学院工学系研究科附属原子力工学研究施設弥生研究会)が2月12日(土),東大病院入院棟A15階大会議室にて開催された。共催は,茨城県サイエンスフロンティア計画「小型ライナック医療応用研究会」ならびに日本原子力学会加速器・ビーム科学部会。

 わが国におけるがんの罹患率と死亡率が増加の一途を辿る状況下,放射線治療を受ける患者数は増え続け,10年後には2人に1人が受けると予測されている。そこで問題になっているのが,放射線治療の専門家の不足である。米国と日本の比較では,治療医は500人対2300人,医学物理士は40人(総数125名のうち)対5000人と,大きな違いがある。これは最近,相次いで報告されている放射線治療関連事故の原因の1つであることは明らかであり,早急な対策が求められている。司会の中川恵一氏(東京大学医学部附属病院放射線科助教授/緩和ケア診療部長)は冒頭,このような現状を踏まえて,今回は“放射線治療における人材育成”をテーマにしたと挨拶した。

 まず,遠藤真広氏(放射線医学総合研究所医学物理部長)が「放射線治療品質管理士と医学物理士」と題し,日本医学放射線学会,日本放射線技師会など関連4学会・1団体で組織される「放射線治療の品質管理に関する委員会」で検討している安全対策の骨子を報告した。2004年10月に出された提言(中間報告)では,1)治療品質管理組織を病院に設置,2)治療品質管理を専らとする者の配置,3)第三者機関による監査,およびそれらに対する診療報酬上の対応などが盛り込まれ,2)については「放射線治療品質管理士」と名付け,認定機構を設けて認定を行う。認定のための資格は,診療放射線技師で5年以上臨床業務に従事し,試験で認定された認定技師,および医学物理士がベース。現在,第1回目の認定講習会はすでに実施され,第2回目ともあわせて,350名以上が認定される見込みという。わが国では医学物理士の数がきわめて少ないため,当面,認定技師が放射線治療品質管理士の資格をとるケースが増えると思われるが,医学物理士を増やす方策も実行していくとのことだ。

 人材育成というテーマの関連では,「東京大学における医学物理教育」について上坂 充氏(東京大学大学院工学系研究科附属原子力工学研究施設教授)が,「アメリカにおける医学物理 ─教育・臨床─」と題して渡辺洋一氏(コロンビア大学病院放射線科医学物理士)が報告。「人材育成の大学・研究機関協力について」をテーマにパネルディスカッションも行われ,議論された。とりあえず,専門家育成に向けたさまざまな取り組みが始まったことで,今後の動向が注目される。

 そのほか,群馬県と名古屋における重粒子線治療施設の計画など,新しい動きについても報告された。

 2003年12月に発足した本研究会が,放射線治療の進歩と普及にますます貢献することを期待したい。

●プログラム
・「放射線治療品質管理士と医学物理士」
   遠藤真広
(放射線医学総合研究所)
・「東京大学等における医学物理教育計画」
   上坂 充
(東京大学)
・「群馬大学における重粒子線治療装置の建設計画」
   中野隆史
(群馬大学大学院腫瘍放射線学教室)
・「名古屋における民間活力による重粒子線治療施設設立プロジェクト」
   田中良明
(日本大学医学部放射線医学教室)
・「Heidleberg+GSI+Siemensによる粒子線治療装置」
   中川恵一
(東京大学)
・ パネルディスカッション
   ―人材育成の大学・研究機関協力について―
・「アメリカにおける医学物理 ―教育・臨床―」
   渡辺洋一
(コロンビア大学病院放射線科医学物理士)


●問い合わせ先
 〒319-1188 茨城県那珂郡東海村白方白根2-22
東京大学大学院工学系研究科附属原子力工学研究施設
事務局:吉井康司
TEL 029-287-8473, 8470 FAX 029-287-8471