2004年7月24(土),25日(日)の2日間,「第2回化学放射線治療科学研究会(弥生研究会)」が,東京大学医学部附属病院大会議室で開催された。この研究会は,がん治療用の加速器開発に欠かせない医学と工学の共同研究が希薄であるという現状を踏まえ,昨年結成された。薬剤投与と放射線照射の最適化を図る化学放射線治療科学をテーマに議論することで,放射線治療における各分野の要素技術を有機的に組み合わせ,それぞれの分野に技術をフィードバックさせることを目的としている。また,活動を通じ,小型で高性能な放射線治療装置の開発と普及を進め,日本における放射線治療のレベル引き上げを目指すという。第2回の研究会では,今年度から2年間の予定で活動する茨城県サイエンスフロンティア計画「医療用小型加速器開発研究会」が新たに共催に加わり,2日間で18の演題が発表されたほか,総合討論も行われた。
初日に,開会の挨拶を述べた上野照剛氏(東京大学大学院医学系研究科生体物理医学専攻長)は,挨拶後,放射線医学講座,医用生体工学講座,疾患生命工学センターで構成される東京大学の生体物理医学専攻について,研究内容と体制を紹介した。これに引き続き,「医療用加速器開発における雑感」と題し,放射線医学総合研究所顧問の平尾泰男氏が発表した。平尾氏は,今年臨床応用開始10周年を迎えた世界初の医療用重粒子加速器「HIMAC」の成果を示した上で,施設の小型化,治療法の合理化,診断法の高度化,情報の共有と公開などが普及への課題であると説明した。
研究会初日には,このほか,司会を務めた中川恵一氏(東京大学医学部附属病院放射線科助教授)から,放射線治療の安全性と現状についての発表があった。中川氏は,放射線治療がほかの治療法に比べ非侵襲的で安全だというメリットを挙げた。その上で,治療件数が増え,経営上黒字にはなっているが,専門医が足りず,物理専門家もほとんどいない上に,ライナックの国産メーカーがないといった問題点を指摘した。
この中川氏の発表を引き受ける形で,上坂 充氏(東京大学大学院光学系研究科附属原子力工学研究施設教授)らが参加し,「全日本医療用ライナックを目指して」をテーマにした総合討論が行われた。討論では,医療用ライナック開発のために,国が一体となった体制を築き,欧米諸国と競争していく必要があるとの意見が述べられたほか,人材の育成,特に,医学物理士が不足しており,その雇用をどのようにすべきかが議論された。また,放射線治療の発展のためにも,市民講座などのPR活動を積極的に行っていくべきとの声も上がった。
本研究会では,総合討論で意見の出た市民講座についても,8月3日(火)〜8日(日)に東京ビッグサイトで開かれた「か・ら・だ博」のなかで,「進化するがん治療」と題したセミナーとシンポジウムを主催するなど,積極的な活動を展開している。近い将来,5人に1人が放射線治療を受けると言われているだけに,装置の開発など,医工連携の研究には大きな成果が期待されている。それだけに,本研究会の活動は,日本における放射線治療の進歩と普及に重要な役割を担っていると言えるだろう。
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