(社)日本放射線技師会は7月4日(日),国立保健医療科学院(東京)で講演会「放射線診療の安全のために―第1回診療放射線技師の責任と果たすべき役割」を開催した。2002年に立ち上げた日本放射線カウンセリング学会と日本放射線公衆安全学会をはじめ,日本医用画像管理学会,日本消化管研究会が共催している。英国の医学誌“LANCET”に掲載された医療被ばくに関する論文や,放射線治療での過剰照射の事例が全国紙で大きく取り上げられ,防護に対する関心が高まっている昨今,本会では,医療被ばくを最重要テーマとして掲げ,放射線診療で感じる日常の疑問や患者に対する説明の方法など,8人の演者による講演が行われた。
はじめに,座長を務めた山森和美氏(日本放射線技師会常務理事)が,「“医療被ばくガイドライン”の意義と放射線技師の役割」について述べた。同氏は,ガイドライン(平成12年10月に会告)への対応方法を挙げた上で,ガイドラインを実践するためには,「放射線診断にかかわるすべての医療人は,放射線が発がんのリスクを増やす可能性があることを正しく認識し,撮影条件,照射範囲,撮影回数などに留意し,可能な限り線量低減に努力すること」とした。
次に,諸澄邦彦氏(日本放射線公衆安全学会)が,「新聞報道にみる放射線被ばくについて―職業被ばくと医療被ばく」について,最近報道された医療被ばく事例を紹介。マスコミも含めた医療被ばくについての説明責任への認識を高く持つことの重要性を述べ,自施設における放射線検査に伴う被ばく線量を把握すること,説明のためのデータおよび資料をまとめておくこと,などの対処方法を示した。
続いて,工藤安幸氏(日本消化管画像研究会)が,「消化管X線検査における被ばく線量の把握と被ばく相談の対応について」と題して講演。装置形式や撮影手技によって被ばく線量の格差が大きく,1検査当たりの入射表面線量を算出して臓器線量を推定することが重要だと述べた。また,防護の最適化の実践方法を提示した上で,被ばく管理の主体は診療放射線技師であるという自覚を持つことを促した。
4題目の「社会が抱くリスクイメージと放射線カウンセリング」では村井均氏(日本放射線カウンセリング学会)が,カウンセリングの概要を解説。カウンセリング基本となる傾聴では,クライエント(相談者)との信頼関係を築き,価値観を押しつけることは決して行わないことなどの注意点を挙げて,カウンセリングへの基本姿勢を示した。
次に,奥田保男氏(日本医用画像管理学会)が,「医療被ばく―医用画像管理の立場から」について述べた。同氏は,画像管理の観点から被ばくを考えるとき重要なのは,特にDICOM規格のサービスクラスであるMWMやMPPSを利用することにより,システム間の患者基本情報の整合性が保たれるとともに,被ばく線量などを電子的に管理することだとした。一方で,「照射録」は照射した行為の記録であり,医事会計への伝達ツールの一部でないことを確認を込めて強調。誤って照射した歴も正しく保存されるべきとの見解も示した。
続く渡辺浩氏(日本放射線公衆安全学会)は,「医療被ばく低減施設認定システムについて」と題し,日本放射線技師会から日本放射線公衆安全学会に研究委託された「低減施設認定システム(案)」の基本設計と将来展望について解説。同システムは国民の新たな病院選択基準となるだろうとした。
最後に「医療被ばくの低減のための手帳配布とその運用方法について」として,地主明弘氏(日本放射線カウンセリング学会)が,国民が放射線検査や治療を受ける際に病院に提出する(任意)「記録手帳システム」について説明。医療被ばく記録手帳が広く普及し,医療用放射線利用の安心の支えとなることをめざしているとした。
最後に,コメンテーターとして山口一郎氏(国立保健医療科学院生活環境部)が加わった総合討論では,多数の参加者が出席した会場からも率直な意見が出され,活発な意見交換が行われた。
(*本講演内容は,日本放射線技師会雑誌,第51巻,第7号,通巻621号別冊,「医療被ばく特集号」に掲載されている)
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