医療放射線防護連絡協議会は3月12日(金),江戸川区総合区民ホール(東京)で,「医療放射線の安全利用研究会」フォーラムを開催した。18回目となる今回は,「予定されている放射線障害防止法の改正について─医療分野における改正点とその対応─」と,「なぜ日本のX線診断の被ばくが高い─安心できるX線診断を求めて─」がテーマ。2つめのテーマは,日本のX線診断被ばくによる発がんリスクが3.2%で他の国に比べ高いという,英国の医学誌「LANCET」に発表されたオックスフォード大学のグループの研究結果が,全国紙の1面で取り上げられ,医療被ばくへの社会的関心が高まっていることから急遽設けられた。「CT検査を中心に考える」,「X線診断の医療被ばくで,がんのリスクを言う場合について考える」,「医療被ばくの防護を考える」の3セクションと総合討論で構成された。
初めのセクション1では,片田和廣氏(藤田保健衛生大学)が,CTは高い診断能を持ち,他のX線検査を省略できうるメリットがある反面,安易な適応に結び付いていると指摘。また,安価な検査単価なども検査数増大を招いていると述べ,問題の解決には,医療従事者の努力と医療体制,社会体制の改善が必要だとまとめた。続いて発表した佐々木武仁氏(東京医科歯科大学名誉教授)は,CT検査が診断,治療に有用でなければならず,個々の患者に行う検査の正当性を確保する必要があると述べた。その上で,適正画質と低線量を図るための検査方法の個別化,診断参考レベル(DRL)の導入,適切な機種の選定を行うといった最適化に取り組むべきとした。さらに佐々木氏は,一般医師向けのガイドラインと医学部・歯学部の学生への教育が重要だとの見解を示した。
この後のセクション2では,まず,酒井一夫氏((財)電力中央研究所低線量放射線研究センター)が,低線量影響研究の立場から発表した。酒井氏は,オックスフォード大学のグループが用いた「直線しきい値なし仮説」について取り上げ,高線量での被ばくリスクを,低線量の場合にも適用することが妥当ではないと言及。低線量の影響について研究を進め,その情報を医療関係者,患者,マスコミに提供していくことが大事だと訴えた。また,「LANCET」の論文を紙面で取り上げた読売新聞医療情報部の中島久美子氏は,報道の経緯を報告。その後の読者,医師からの反響などを紹介し,放射線診断が今後も重要な役割を果たしていくためには,エビデンスを明確にし,それを社会に広めていくことが重要であると述べた。3番目の発表者である金子正人氏(放射線影響協会)は,低線量放射線の健康への影響について,世界各国で行われてきた研究成果を紹介した。金子氏は,これらの研究を踏まえ,放射線診断における患者の被ばく量は,通常100mGy以下で,心配するものではないとし,患者に不信感を抱かせないようにすることが大切だとまとめた。
続くセクション3では,日本医学放射線学会の立場から協議会会長の古賀佑彦氏が,新聞報道が一般市民に対し医療被ばくの問題を認識させるとともに不安をかき立てる結果になったとし,医療被ばくを国の危機管理体制の問題としてとらえていくべきと述べた。また,日本放射線技術学会の立場から粟井一夫氏は,技術学会としての被ばく低減への取り組みと,新聞報道後の対応を説明した。さらに,医療提供者に線量評価の意識が欠如していることを指摘し,患者被ばく線量の把握の重要性を訴えた。この後,長瀧重信氏(日本アイソトープ協会)が,オックスフォード大学の発表を受けて「LANCET」に投稿した論文(未採択)について報告した。長滝氏は,医療被ばくは国際的な問題であり,学会,医師会,行政,市民,マスコミがともに取り組んでいかなければならないと述べた。
最後の総合討論では,各セクションの発表者全員が参加。会場も交えて活発に議論が行われた。最後に総合司会を務めた菊地透氏(自治医科大学)が「これをきっかけに,医療関係者,行政,マスコミがこの問題を考えていくことが重要だ」とコメントし,総合討論を締めくくった。
(本誌82〜85ページ掲載の関連企画をご参照ください)
問い合わせ先
医療放射線防護連絡協議会
〒113-8941
東京都文京区本駒込2-28-45 日本アイソトープ協会内
TEL 03-5978-6433 FAX 03-5978-64340
http://www.fujita-hu.ac.jp/~ssuzuki/bougo/bougo_index.html
|