日本唯一のCT・MRI装置を車載化しレンタルサービスを手掛ける(株)フリールは,世界初となる「3Dデジタルマンモグラフィー装置搭載車」を開発した。
同車両に搭載させている,3Dデジタルマンモグラフィー装置は,まだ日本の医療機関でも20数台しか導入されていない最新鋭の乳がんを検査できるX線装置で,今回世界で初めて車載化された。
次世代の3Dデジタルマンモグラフィー装置搭載車を,レンタルにより医療機関が手軽に利用できるようになれば,集団検診にも使用されやすくなり,乳がん検診の精度も上がり,要精検率(精密検査に回る頻度)を下げることにより,受診者の負担,国の医療費負担も下げることができるとしている。
同社では,全国の医療機関,検診機関,健保組合などに向けて,レンタルサービスを開始する。具体的には,10月12日から医療法人 DIC 宇都宮セントラルクリニックでの使用が予定されている。
搭載車両外観
検査室内観
●次世代3Dデジタルマンモグラフィーを搭載し発見率を向上
搭載している3Dデジタルマンモグラフィー装置は,従来のマンモグラフィー撮影に加え,角度を変えて複数の方向から撮影し,データを三次元的に再構成して断層像を作成できる。従来を2Dマンモグラフィーとすれば3Dマンモグラフィーが可能となる。
これにより,従来のマンモグラフィーでは乳がんの検出率は約80%と言われていたが,3D機能を追加することにより約15%上昇し,95%以上の検出率となる。1)また日本女性に多いデンスブレスト(高濃度乳腺)でも病変を明瞭に映し出すことができ,要精検率を40%減少させることができるようになる。2)
国立がん研究センターなどからも同様の発表があり,「従来の2Dのみと比較して,3Dは検出感度で15.1%,病変に対して抽出能において32.4%の改善が認められており,非常に有用である。なかでも従来の2Dのみでは指摘し得なかった腫瘤性病変の検出,抽出能に優れている。今後の臨床への応用の可能性がおおいに期待できる」と発表されている。1)
●シーメンス社製3Dトモシンセシスデジタルマンモグラフィー装置搭載車の特徴
今回搭載しているシーメンス社製MAMMOMAT Inspiration(3D Digital Breast Tomosynthesis対応)は,画像検出器(フラットディテクタ)が精密なため,検診車では日本で初めて,下記のような対応をした。
1. 24時間の環境管理
同装置は,検査室の環境を24時間,温度20〜30度,湿度30〜75%,温度勾配10℃/h以下に管理するよう求められている。そのため検診車でありながら,大型除湿機を導入し,空調はバックアップも含め2重に設営してある。
2. 24時間遠隔環境管理モニタリングシステムを導入
人が常に車の中に常駐しているわけではないので,温度湿度を適正に保つため,24時間環境管理モニタリングシステムを導入。
車内が無人でも,異常があれば1分ごとに,メールによる報告が自動で配信されるため,早期に異常を察知することができる。また,ドライバーが運転中の場合も想定し,運転席に異常を知らせる警報機も付いている。更に,24時間移動中でも電源が必要なため,極超低騒音発電機を搭載して,電源の供給を行っている。
3. 検査室に直接外気が入らないよう,レイアウトと部屋を工夫
装置が温度湿度の変化に敏感であるため,直接外気が検査室に入らないように,検査室までに,3部屋あり,受診者が必ずドアを閉めるように更衣室の出入り口を別にしてある。
4. 検診車に完全個室の更衣室を設置
乳がん検診を受けられる女性受診者用に,プライバシーを重視した更衣室を完全個室とした。更衣室は,木製の優しいイメージ。
●次世代3Dデジタルマンモグラフィー装置搭載車レンタルによる検診・医療機関のメリット
検診機関や医療機関では,レンタルで使用することにより,
(1) 自施設の2D装置との性能を比較することで,早期購入をうながし,結果受診者に精度の高い検診を提供することができる
(2) 設備投資が要らない
(3) 装置の入れ替え時や,自施設の装置では足りない時など,必要な時に借りられる
(4) 購入前に他社メーカーと比較,試用することが可能
(5) 精密機器である3Dデジタルマンモグラフィーのコンデション維持に重要な高度な温度湿度管理とモニタリングが任せられる
(6) 搭載車の移動,設営,受診者の誘導,技師の手配,読影など煩雑な実際の運用なども任せることができる
(7) 常に最新鋭の機器が利用可能
などのメリットがある。
受診者は,3Dデジタルマンモグラフィー装置のある医療機関はまだ数が少ないが,搭載車が移動することにより,どこででも検査が受けられる。乳がんの発見率が高く,要精検率が低い精度の高い検診を受けることができるので,結果医療費の削減につながる。
●レンタル料金・内容
《基本料金》 100,000円/日(税別)
基本料金に含まれる内容
●発電機への燃料の補給ならびに保守点検 ●温度湿度管理とモニタリング
《別途料金》
●トモシンセシス機能撮影追加 2,000円/人(税別)
●運搬入諸経費 ●長期レンタルによるスタッフ諸経費
《その他》
●必要に応じ,画像診断専門医師,放射線技師の紹介も可能。
●CT・MRIなど高度高額医療機器を搭載した車のレンタルサービスの背景
(株)フリールは,日本で最初の移動検査室会社として平成4年に設立され,超音波診断装置などの医療機器を車載して医療機関などに貸与,巡回する日本唯一の「医療モバイルサービス」を展開した。平成7年からは,日本初の医療用画像診断装置であるヘリカルCTの搭載車を開発,運用を開始し,平成12年に日本初,世界最小の超電導式MRI車のレンタルサービスを開始している。平成15年3月には九州から茨城県まで全国7支店を開設し,現在ではCT車11台とMRI車10台が全国で活躍している。
平成22年6月時点の利用状況は,1ヶ月約250の病院や診療所で利用されている。「医療モバイルサービス」は高度高額医療機器を搭載した車を,必要な場所に,必要な時,必要な期間,医療機関に貸し出すことにより病院経営の負担を軽減しつつ高度医療サービスを幅広く提供するシステムとして開始したもの。
* 同装置は国立がん研究センターに2009年9月に日本1号機として導入されている。
* 同搭載車は2013年4月にパシフィコ横浜で行われるITEM 2013国際医用画像総合展で展示予定。
1)内山菜智子:乳腺デジタルトモシンセシスについて。画像情報メディカル2011;Vol.43 No.12:1006-1011
2)Poplack SP, Tosteson TD, Kogel CA, et al. : Digital Breast Tomosynthesis : Initial Experience in 98 Women with Abnormal Digital Screening Mammography.AJR 189, 616-623, 2007. |