富士フイルム(株)と静岡県立静岡がんセンター(以下 静岡がんセンター)は,人工知能の技術を用いて医師の画像診断をサポートする世界で初めての「類似症例検索システム」の開発に成功した。富士フイルムは,本システムを本年秋に発売する予定。まずは,肺がんを対象とし,類似CT画像検索機能を提供する。
なお,本システムは,平成24年4月13日からパシフィコ横浜にて開催される「国際医用画像総合展(ITEM2012)」富士フイルムブースで技術展示される。
肺がんは,がんの中で最も死亡数が多い疾患であり,胃がんや大腸がん,肝臓がんに比べて進行が早いため,発見初期の段階で正確な診断が要求される疾患。通常,胸部X線検査などで肺がんの疑いがある患者に対してCT検査を行う際,画像診断を専門に行う医師には,陰影の大きさや性状などから肺がんの可能性が高いか否かを正確に判断する読影能力が求められている。年々,CT装置は高性能になり,よりきれいな画像が得られる一方,読影する検査画像も増えており,画像診断を担う医師の負担は増加している。さらに,今後,CTを用いた肺がん検診の普及も予想される。
日常の診療で蓄積される大量の検査画像や診断結果を活用して,医師の画像診断をサポートするという本システムの開発コンセプトは,高度な画像処理技術を持つ富士フイルムと医療現場の豊富な経験を持つ静岡県のファルマバレープロジェクトとの議論の中で生まれた。
このシステムの開発は,富士フイルムの人工知能の技術に,静岡がんセンターの約1000例の確定診断のついた豊富な症例データベースを組み合わせて実現した。なお,国内トップシェアを誇る富士フイルムの医用画像情報システム(PACS)「SYNAPSE(シナプス)」上で使用できる。
本システムは,CT画像の読影を行う際に,組み込まれた症例データベースから,病変の特徴が類似した症例を瞬時に検索し,似ている順に複数表示する。医師は,表示された画像を参考にして,検査画像と比較しながら画像診断を行うことができる。さらに,導入施設ごとに蓄積された過去の症例を追加登録することで,症例データを充実させることも可能。また,検索・表示された類似症例の診断結果を元に,読影レポートの作成を効率的に行える機能も備えている。
静岡がんセンターの読影実験による検証では,類似症例の検索は,約9割の確率で適切な症例が表示され,それを参考にして読影レポートの作成時間も短縮することができた。肺がん診療に携わる医師のみならず,研修医の教育用途などで幅広く活用できる。
富士フイルムと静岡がんセンターは,平成17年2月に国内初となる高度先端医療機関と企業間での包括的な共同研究契約を締結し,「次世代医療用画像診断ネットワークシステム」の実用化に向けた研究に取り組んできた。
今回開発したシステムには,肺がんの複雑かつ多様な画像パターンに対し,医師の観点に基づいて画像の類似性を定量化する新たな技術が組み込まれている。今後は,肺がん以外の画像診断にも活用いただけるよう対象疾患を拡大していく予定。
●主な特長
(1) 肺がんの類似症例を瞬時に検索
病変の特徴が類似した症例画像を瞬時に検索し,似ている順番に複数の画像を表示する。医師は,表示された正確な診断がついている画像から,参考としたい症例を選択し,検査画像と比較しながら画像診断を行うことができる。
(2) 充実した症例で医師の画像診断を強力にサポート
導入時から静岡がんセンターの肺がんを含む約1000例の豊富な確定診断のついた症例が活用できる。
また,症例データベースには,導入施設ごとに蓄積された過去の症例を追加登録することで,データをより充実させることができる。
(3) 読影レポートを効率的に作成
検索された症例の診断結果を元に,読影レポートの作成を効率的に行える機能を備えている。
(4) 教育・自己学習に最適
過去の診断症例・読影レポートを,一度に比較しながら参照することができ,専門医でなくとも多くの症例に接することで効果的な画像診断の学習が可能となる。 |