独立行政法人国立病院機構 長崎医療センターと富士通(株)は,共同で,被災時にも地域における診療を継続するためのバックアップシステムを構築し,本格運用を開始した。
このバックアップシステムは,富士通のプライベートクラウド型の医療機関向け災害対策ソリューション「HumanBridge (ヒューマンブリッジ)BCPソリューション」を利用したもので,作業開始からわずか1カ月で構築を完了した。これにより長崎医療センターは,電子カルテシステムと医事会計システムのデータをオンラインで,遠隔地の堅牢なデータセンター内のバックアップシステムに保全している。また,本ソリューションには電子カルテの参照ビューワを装備しているため,被災時には避難所や他の医療機関から診療データを参照して診療活動を迅速に立ち上げることができ,メモ機能を使って現場での診療記録も残すことができる。
長崎医療センターは県内最大規模の病院であり,高度総合医療施設。県外からの患者も受け入れており,年間の入院患者総数は約12,800名,一日の外来患者数はおよそ800名にのぼるす。この地域の拠点病院としての役割を果たすため,電子カルテ,地域医療連携「あじさいネットワーク」への参加など,積極的にICTを活用して医療の高度化と効率化を図っている。さらに,被災により病院内のシステムが壊滅し,全ての診療データが喪失してしまうリスクを回避し,かつ,他の医療機関や避難所から過去の診療データを参照して,診療を継続できるような仕組みの整備を検討していた。
2004年に長崎医療センターの電子カルテシステムを構築し,運用と保守を行ってきた富士通は,地域医療連携「あじさいネットワーク」の支援も行いながら,企業などでのBCP策定の実績をもとに,富士通のデータセンターに,長崎医療センターの災害対策用バックアップシステムの構築を提案した。
今回活用した「HumanBridge BCPソリューション」は,医療情報の分野では標準規格となっているSS-MIX標準化ストレージを用意しているため,電子カルテの種類にこだわらず適用可能。このソリューションを利用することにより,長崎医療センター1医療機関のバックアップシステムではなく,地域医療全体のバックアップシステムへと拡大していくことができる。
災害対策ソリューションのイメージ
●災害対策の概要
<通常時のバックアップ>
本バックアップシステムは,高度なネットワークテクノロジーと信頼性の高いセキュリティ,あらゆる災害対策を装備した富士通のデータセンターに構築され,24時間365日ノンストップで運用管理されている。長崎医療センターの電子カルテシステムの診療データは,リアルタイムで,電子カルテの標準フォーマットであるSS-MIX準拠のデータ形式で抽出され,データセンター内のバックアップシステムに保管される。並行して,1日に1回,電子カルテシステムおよび医事会計システムのバックアップデータがデータセンターに送信される。
<被災時の診療データ参照>
長崎医療センターの電子カルテシステムが利用できなくなった場合,避難所や他の医療機関など,日本国内であれば,パソコンをインターネットに接続して認証を行うことにより,医師や看護師などの診療スタッフは,患者の同意を前提にデータセンターに保管された診療データを参照できる。また,参照だけでなく,メモ機能を使って現場での診療記録を残すことも可能です。過去の診療データや基本的な情報(血液型,既往歴,アレルギー情報など)の参照が可能となるため,他地域から応援に来た医師や看護師などのスタッフも,信頼のおけるデータを参照した上で診療を行うことができる。
<システム復旧>
長崎医療センター内のICT基盤が再構築された後は,電子カルテサーバにデータセンターのバックアップデータを戻し,電子カルテシステムを復旧する。被災時にメモ機能を使って入力された診療記録は,災害時診療記録として電子カルテシステムから参照可能。 |