米国クック メディカル(日本法人: Cook Japan(株)[以下,クック ジャパン])は,大腿-膝窩動脈領域におけるPAD(末梢動脈疾患)の血管内治療用デバイス「Zilver® (ジルバー)PTX® 薬剤溶出型末梢血管用ステント」の製造販売承認を2012年1月24日付で取得した。この承認は,大腿-膝窩動脈領域を適用とするステントとして日本初であるばかりでなく,PADに対する薬剤溶出型のステントとしても日本で初めて承認された製品。本製品は,日本を含めた国際共同治験が実施された後,日米同時に申請された。欧州を始めとする各国での承認に続き,このほど米国に先駆けて日本で承認された。
PADは下肢の血管を含む末梢血管が,動脈硬化により狭窄又は閉塞することにより,虚血を引き起こす疾患の総称。糖尿病,腎臓病,高脂血症,高血圧症の方や,喫煙される方,65歳以上の方の発症率が高い疾患で,世界で2,700万人以上が罹患していると言われている。日本でも,食生活の欧米化や高齢化を背景に潜在患者数が増加傾向にある。
PADの患者では下肢の血管にとどまらず,心臓から脳,腎臓など全身の血管において動脈硬化が進んでいる場合がある。これらの血管がコレステロールなどの沈着物(アテローム)のために狭窄や閉塞した場合,血流が不足し,脳に発症した場合は脳梗塞,心臓に発症した場合は心筋梗塞を起こす。下肢に発生した場合,治療しないまま放置すると歩行中の痛み(間歇性跛行)を生じさせるだけでなく,壊疽(えそ)や足の切断につながることもある。
現在日本ではPADの治療として,生活習慣の改善,運動療法,薬物治療およびバルーンPTAなどの血管内治療,外科的バイパス術などが行われているが,再狭窄(血管が再度詰まってしまうこと)が課題となっている。Zilver® PTX®薬剤溶出型末梢血管用ステントによるカテーテル治療は,再狭窄しにくい低侵襲治療('メスで切らない治療')である。
●主な特長
再狭窄リスクを低減する薬剤溶出タイプ
ステント治療においては,血管平滑筋細胞がステント内で増殖することにより,広げた血管が再び詰まってしまうという再狭窄が課題であった。Zilver® PTX® 薬剤溶出型末梢血管用ステントは,細胞増殖抑制剤であるパクリタキセルを,ステントに塗布している。早期PTA不成功後にステントを留置した患者の1年後の血管の開存率は,ベアメタルステント(薬剤を塗布していないステント)を留置した患者では72.9%であったのに対し,Zilver® PTX® 薬剤溶出型末梢血管用ステントを留置した患者では90.2%という成績を示した。これにより,追加的な治療率が低くなり,患者様の負担軽減につながる。
パクリタキセルコーティングの特徴
Zilver® PTX® 薬剤溶出型末梢血管用ステントはステントの外面にパクリタキセルがコーティングされているが,他社の薬剤溶出型のステントと異なり,コーティングのためのポリマーや接着剤等が使われておらず,これらの剤によりもたらされる可能性のある有害な影響の懸念がない。
すぐれた耐久性
Zilver® PTX® 薬剤溶出型末梢血管用ステントは,そのステントの構造と電解研磨した表面からフラクチャー(破損)に強い特性を有し,動きの多い浅大腿部での使用に対して,十分な耐久性と柔軟性を備えている。
●デバイスラグ解消への画期的な第一歩
デバイスラグとは,製造販売承認されるタイミングが欧米に比べて遅く(もしくは日本では申請もなされず),欧米ではすでに承認されている医療機器が使えない状況をさす。今回,承認を受けたZilver® PTX® 薬剤溶出型末梢血管用ステントは,厚生労働省,独立行政法人医薬品医療機器総合機構と,米国食品医薬品庁(FDA)が,審査の迅速化と質の向上のために,試行的に行った承認審査に係る両国間の情報交換の対象品目として初めて選定された品目で,その後,承認審査を経て承認を得た。
クックメディカル副社長兼ペリフェラル・インターベンション(PI)事業部国際事業部長であるロブ・ライルズ氏は次のように述べている。「Zilver® PTX®を,タイムリーに日本の皆様にお届けできることを大変光栄に思います。本製品は,革新的な特徴を持っており,今後,日本のPAD治療の主流になり得るものと信じております。本製品の治験や審査等,承認に至るまでのプロセスにご協力いただいた全ての皆様に感謝申し上げます。」
クック ジャパン副社長 兼 PI事業部事業部長の浅見光雄氏は次のように述べている。「この度の Zilver® PTX®の承認取得により,日本の患者様と医療従事者の皆様へ最新の治療技術の提供が可能となり,患者様のQOL(生活の質)向上に貢献できることを大変嬉しく思います。今後も,PADに対する安全で低侵襲の治療技術の向上に寄与できるよう,医療従事者の皆様のサポートに努めてまいります。」
今回の国際共同治験は日本の他,アメリカ,ドイツで行われ,日本では2007年6月より以下の4施設が参加した。
・ 京都大学大学院(京都府京都市)医学研究科循環器内科学 教授 木村剛先生
・ 小倉記念病院(福岡県北九州市)末梢血管インターベンション部 主任部長 横井宏佳先生
・ 東京慈恵会医科大学(東京都港区)外科学講座統括責任者・教授 大木隆生先生
・ 奈良県立医科大学(奈良県橿原市)放射線医学教室教授 吉川公彦先生
(施設名五十音順)
本製品は保険収載後,(株)メディコスヒラタを通じて正式販売を開始予定。 |