(株)日立製作所は,このたび,従来方式の二重散乱体方式に加え,スポットスキャニング照射技術を適用したビーム走査方式にも対応可能な「陽子線治療システムPROBEAT-III」(以下,PROBEAT-III)に関して,厚生労働省より薬事法に基づく医療機器の製造販売承認を2011年1月27日に取得した。同社は今回の承認を受けて,国内初となるスポットスキャニング照射技術を適用した「陽子線治療システムPROBEAT-III」の販売を開始する。
陽子線治療は,がん治療における放射線治療法のひとつであり,水素の原子核である陽子を加速器で加速させ,ビーム状に取り出した陽子線を患部に照射することでがん組織を集中的に治療するもの。陽子線は,体内に進入した直後は線量が小さく,陽子の持つエネルギーの強さに応じた深さで最大の線量を放出(ブラッグピーク)し,その後は急激に線量が減少するという特性を持っている。このような陽子線の特性を利用し,ピンポイントで患部に線量を付与することにより,がん細胞を壊死させ,あるいは増殖能力を失わせることができる陽子線治療は,近年注目されている技術である。
同社が今回国内で販売を開始するPROBEAT-IIIは,患者体内の固形がんおよび脳腫瘍に対して,高エネルギー陽子線を照射する治療システムであり,従来方式の二重散乱体方式に加え,スポットスキャニング照射技術を適用したビーム走査方式にも対応が可能。スポットスキャニング照射技術を適用したビーム走査方式は,均一な品質をもった陽子ビームを取り出す技術と,陽子ビームを高い精度で制御する技術を発展させることで可能になったもので,(1)従来方式の二重散乱体方式に比較して複雑な形状のがんにも精度よく陽子線を照射することができ,周囲の正常な細胞への影響を抑えることが可能(ただし,体幹部の呼吸性移動を伴う部位を除く),(2)患者ごとに準備が必要であった装置(コリメーター,ボーラス)が不要,(3)陽子ビームの利用効率が高く不要な放射線の発生が少ないなどの特長を備えている。また,PROBEAT-IIIは,従来法である二重散乱体方式においても,照射野が国内最大級の最大250mm×250mm(有効直径換算で約280mmΦ相当)となる照射装置を採用することにより,大きながんなどで行われているパッチ照射を極力少なくすることが可能になる。
同社はこれまで,電力システム事業を通じて,加速器や陽子線照射・制御技術に関する豊富な技術・ノウハウを生かし,陽子線治療システムの開発を進めてきた。2007年12月にスポットスキャニング照射技術を採用した陽子線治療システムとしては世界で初めて米国食品医薬品局(FDA : Food and Drug Administration)の販売認可を取得し,さらに,2008年5月には,世界最大級のがん専門病院である米国のM.D.アンダーソンがんセンターに,一般病院としては世界で初めて同技術を採用したシステムを納入した。
日立は,スポットスキャニング照射技術を国内でも展開するため,厚生労働省に薬事法に基づく製造販売の申請を行っていたが,このたび,2011年1月27日に承認を取得した。今回の製造販売承認の取得は,国内でスポットスキャニング照射技術を採用した治療装置としては初めての案件である。 |