NECは、臨床検査センター国内最大手である(株)エスアールエル(以下,SRL)と「病理画像診断支援システムe-Pathologist」の実用化に成功した。同社とSRLは,2009年4月より,日本人に最も多い胃がん(がん罹患数 2003年度)の生体組織検査(生検)に対応した病理診断支援システムの実証実験を行ってきたが,このほど本実験を終了し,実用化に成功したもの。SRLは同社の羽村ラボラトリーに同システムを設置し,病院などの医療機関からの依頼に基づいて病理医・検査技師をサポートする形で病理検査での新運用を開始する。
このたび実用化した「病理画像診断支援システムe-Pathologist」は,デジタルスキャナを用いてデジタル化された病理組織画像中の組織および細胞の特徴から,がんと思われる領域の自動抽出,治療法選択のための免疫染色画像の特徴量計測などを高精度・高速に行うものである。
病理診断は,手術その他の治療法を決定するための確定診断となる重要なプロセスであり,コンピュータを援用した診断サポートが検討されてきた。
本システムを従来病理医が顕微鏡にて行ってきた診断ワークフローに組み込み,病理医をサポートすることにより,病理診断の迅速化,追加チェックによる診断品質向上,病理診断の均一化の促進,最適治療法選択における精度向上が期待される。更に,今後のネットワークの進展により,病理画像や数量化情報の医師間の共有によるチーム医療の向上や遠隔医の普及などにも貢献することができる。
同社が今般SRLの協力を得て実用化した本システムは,胃組織を対象とし,H&E(ヘマトキシリン&イオシン)染色スライド画像から胃がんと思われる部位を自動抽出する機能を有するもの。両社は,昨年4月より,SRLが保有する膨大な病理サンプルを用いて,同社の機械学習アルゴリズムを「教育」し,病理診断ワークフローに組み込んだシステムの実証実験を行ってきた。
SRLでは,病理スライドを用いた病理専門医の診断結果を報告書にする際,臨床検査技師らにより症例情報との一致,検査依頼内容などの再チェックを行うことにより,高い検査品質を維持してきた。今回,デジタルスキャナにより撮影した病理スライドのデジタル画像を用いた本システムの画像データベースの組織画像,判定結果などを再チェックに併用することとし,迅速化とさらに高い検査品質を実現する。
同社は従来から,中央研究所とNEC北米研究所(プリンストン)において,病理画像診断支援システムの研究開発,国内検査センター等との実験を進めてきた。今回のSRLとの実用化と,昨年秋のマサチューセッツ総合病院との乳がんに関する実験を契機に,「病理画像診断支援システムe-Pathologist」の名称で,北米,欧州,日本を含むアジアなどグローバルな事業展開を図る。
●病理画像診断支援システムe-Pathologistの構成
本システムは,画像データを管理する病理画像管理サブシステムと病理画像を解析する病理画像解析サブシステムの2つのサブシステムから構成されている。
病理画像管理サブシステムは,バーコード付き病理スライドから画像取得装置(デジタルスキャナ)によりデジタル化された画像の蓄積・管理,病理画像解析サブシステムの実行管理,ラボの病理ワークフローに基づくバッチ処理の運用管理,解析結果の表示・レポート作成などを行う。
病理画像解析サブシステムは,胃,乳腺,前立腺等の組織種毎に,それらの画像解析を行い,がん部位抽出などを行う。
●システムの特長
病理医の判断プロセスを模したヒューリスティックと,機械学習技術の組み合わせにより,高い認識精度を実現する。
低倍率での構造解析と,高倍率での細胞核評価などの組み合わせによるがん部位抽出が可能。 |