社会福祉法人聖隷福祉事業団 総合病院 聖隷浜松病院(以下聖隷浜松病院)と,聖隷健康診断センター(以下聖隷健康診断センター)は,MRI(磁気共鳴断層撮影装置)を使用する「特定健康診査・特定保健指導」(メタボ健診)を2010年4月から本格開始する。
聖隷健康診断センターは年間の受診者数が約10万例と日本でトップクラスの検診数を誇る健診センター。これまで,CT(コンピューター断層撮影装置)の撮像をもとに臍周りの内臓脂肪面積を測定し,メタボ健診に使用してきたが,4月からMRIの撮影画像を使用するメタボ健診をスタートする。CTに比べて,MRIによるメタボ健診には以下のようなメリットがある。
(1) X線被ばくのない非侵襲のメタボ健診が可能に
CTによる内臓脂肪測定の際には,平均すると約0.6mSvのX線被ばくを浴びていたが,MRIではX線を使用しないため,被ばくがなく非侵襲なメタボ健診が可能になる。
(2) 3か月ごとの「特定保健指導」で使用する臍周りの撮影画像の正確性が向上
3か月ごとの特定保健指導の際には,前回の内臓脂肪面積と比べるために,臍周りの断面像を撮影する。しかし,CTでは被ばくの問題から単一のスライスのみを撮像しそこから腹腔内の脂肪量を推定していた。それに対してMRでは腹腔内をボリュームで実際に撮像し,そこから直接計測できるのでより正確に把握できる。
聖隷健康診断センターのMRIを使用したメタボ健診の当初受付数は1日当たり約4名,1回当たりのMRI検査時間は約15分。これまでCTで測定していた内臓脂肪面積をMRIで実施するようになる以外は,健診の検査項目はこれまでと変わらない。
社会福祉法人聖隷福祉事業団 総合病院 聖隷浜松病院 放射線科の増井孝之部長は,「メタボリック症候群の基準の一つとされていたCTによる内蔵脂肪面積測定は,非侵襲的なX線被ばくのないMRIにより置き換えられます。CT,MRIは体部の同じ横断像を取得しますが,MRIの場合は,再現よく,内臓脂肪面積を測定することが困難でした。今回使用したLAVA-Flexと呼ばれる技術の応用により得られる脂肪画像など特徴的な画像を用いて,更に計算画像処理をすることにより初めて,CTと同等の結果が得られるようになりました。MRI検査は入室から退室まで,約15分程度で終了するため,簡便性においても,CTに代わる健診手段として今後の普及が期待されます」と,今回の成果について述べている。
今回,聖隷健康診断センターでMRIを使用した国内初のメタボ健診が可能になった背景には,聖隷浜松病院とGEヘルスケア・ジャパン(株)が共同で,MRIによる内臓脂肪面積の定量化に成功したことが挙げられる。
聖隷浜松病院 放射線科 増井孝之部長とGEヘルスケア・ジャパンのMR技術部は,2006年に共同研究を開始。GEヘルスケアが開発したラバフレックス(LAVA-Flex: Liver Acceleration Volume Acquisition)と呼ばれる技術を応用し,体内の水と脂肪の分離画像を自動作成する手法をもとに,必要なソフトウェアや判断基準などを約3年かけて開発し,このほどMRIによる腹腔内脂肪量の定量化に成功した(日本磁気共鳴学会,国際磁気共鳴学会などにて発表)。
また,今後の受診希望者のデータの蓄積により,肝臓脂肪含有量の定量化も技術的に可能になると考えており(日本磁気共鳴学会,国際磁気共鳴学会などにて発表,2010年4月日本放射線技術学会で発表予定),日常で遭遇することが多い脂肪肝の基準が数値として把握できるようになると期待される。繰り返し施行する健診や,メタボリック症候群での保健指導後の効果判定などの経時的な変化を,数値を用いることにより,客観的に把握することが可能になる。
聖隷健康診断センターでは今後,1日当たりの受診者数の増加や検査時間の短縮など受診者の利便性向上のほか,肝臓脂肪含有量の診断基準の明確化など各種検査の診断能力のさらなる向上を図り,2011年4月頃を目途に内臓脂肪測定に加えて肝臓脂肪含有量まで言及した,MRIを使用したメタボ健診に移行することを目指す。
[一般の方からのメタボ健診に関する予約先]
社会福祉法人聖隷福祉事業団 保健事業部
聖隷健康診断センター 予約センター
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