米国クックメディカル社は,閉塞性動脈硬化症(末梢動脈疾患:PAD=Peripheral Artery Disease)の治療を対象とする心臓冠状動脈以外では初の薬剤溶出ステントの日米独同時臨床試験(第2相)の被験者登録が完了したことを発表した。業界初となるクック社のZilver® PTX 薬剤溶出ステントのランダム化比較試験(www.zilverptxtrial.com)の被験者として,米国,日本,ならびに,ドイツで治療を受けている420人の閉塞性動脈硬化症の患者が登録を終了した。
日本では,足の血管が閉塞し,歩行障害などの原因となる閉塞性動脈硬化症の発生率は高いものの新しい治療方法の開発が進んでいない。第3回Japan Endovascular Symposiumにて,日本での治験責任担当医師を務める慈恵会医科大学の大木隆生教授(外科学講座統括責任者,血管外科講座教授)により,この疾患に対する同デバイスの重要性を再確認し知識を共有するため,ランダム化比較試験の最終被験者のライブサージェリー(公開手術)が行われた。
大木教授は「閉塞性動脈硬化症に苦しむ多くの日本の患者さんにとって有益であることが期待されている革新的なZilver® PTX 薬剤溶出ステントの治験に,日本の治験責任担当医師として,クック社と共同で取り組むことができて名誉に思います」と語っている。さらに大木教授は,「クック社は腹部大動脈瘤治療用のステントグラフトを日本に初めて導入した企業であるとともに,日本を含めた世界の患者さんの健康向上を目指し,常に画期的技術の最前線にいる企業です。この飛躍的な医療技術が日本へ早期導入できるよう,今回の日米独同時臨床試験が,厚生労働省の遅滞のない薬事承認に必要なエビデンスを示してくれることを期待しています」と述べている。
クックメディカルのペリフェラル・インターベンション事業部国際事業部長であるロブ・ライルズ氏は,「これは,クックメディカルにとって歴史的な日といえます。クックメディカルはこれまで,多くの冠動脈疾患の患者さんに薬剤溶出ステントの利益をもたらすという点で先んじてきました。この日米独同時臨床試験の被験者登録の完了は,患者数がさらに多い閉塞性動脈硬化症の患者さんにも恩恵をもたらし,当社が末梢血管治療の領域においてもリーダーシップを発揮することを意味しています。中間結果に基づき,Zilver® PTX ステントの安全性と有効性が世界の関係当局により認められることになると考えています。他に類を見ないこの最先端医療技術が,近い将来,日本の患者にも用いられることになると期待しています」と語っている。
バルーン形成術およびステント留置による治療を受けた閉塞性動脈硬化症の患者でも,時間の経過に伴い動脈の再狭窄が起きるため,バイパス手術などに比べ低侵襲性となるインターベンションによる足の血管への血流を復活させる治療が必要となる場合が多くみられる。Zilver® PTX 臨床試験は,クック社のZilver ステントとパクリタキセルの塗布の組合せにより,時間が経過しても,浅大腿動脈(SFA)をはじめとした末梢血管の再狭窄を予防することができるか否かを立証することを目的としていた。
臨床試験の国際責任担当医師であるバージニア大学ヘルス・システムの放射線・内科・外科学部の教授で同大学放射線学科主任を務めるマイケル・デーク教授は,「この種のデバイスとしては世界初となる臨床試験の国際責任担当医師に選ばれたことを非常に名誉に思っています。Zilver® PTX ステントは,近年増加している閉塞性動脈硬化症の患者さんのQOL(生活の質)を改善させうる,画期的なデバイスになるものと思っています。私は,このように重要な技術を提供することに注力するクックメディカル社を高く評価しており,私どもが既に発表した第一相試験の良好な結果が,今後集計していくこの第2相臨床試験の最終結果でも再現されることを期待しています」と語っている。
クック社は,Zilver® PTX の安全性と有効性を評価するための臨床試験に対し,欧州連合,カナダ,および韓国で既に780人の被験者を登録している。これらの治験データは,欧州でこのデバイスを販売するためのCE認証取得の申請で用いられたことに加え,その他の市場においても,承認取得を申請するため関係当局に提出されています。さらに,この画期的なステントは,ニュージーランド,香港およびシンガポールで既に当局の承認を取得しており,これらの諸国では閉塞性動脈硬化症の患者の治療に用いられています。
クック社のロブ・ライルズ氏は,「Zilver® PTX のように,医療機器と医薬品を融合させる技術は,21世紀の医療の主役になることが期待されています。クック社では,今後も患者さんのQOL(生活の質)を高めるため邁進していきます」と述べている。
クック社のZilver® PTX は,心臓の冠状動脈疾患においてステント再狭窄のリスクを軽減するために使用される細胞増殖抑制剤パクリタキセルを,独自に開発したポリマー(高分子化合物)を使用しない技術を用いて,ステントに塗布 した次世代ステントである。このクック社独自の技術は,他社のポリマーを塗布したステントが直面したアレルギー反応やステント血栓症を回避できる可能性を秘めており,大きな期待を集めている。クック社は,ペリフェラルステントおよび心臓冠動脈以外の疾患治療への医療デバイスに対するパクリタキセルの使用許諾権を,カナダのブリティッシュ・コロンビア州バンクーバーのアンギオテック・ファーマシューティカルズ社から受けている。
6月に米国で開催された米国血管外科学会総会(SVS)でデーク教授により発表された中間結果では,Zilver® PTX による治療を受けた患者群において,卓越した耐久性(ステントの耐破断性),高い安全性(EFS) ならびに,極めて低い再手術の必要性(TLR)という,臨床面での改善が証明された。本学会でデーク教授は米国の血管外科医に対して,今回の中間結果のデータが,Zilver® PTX は安全で,有効性についても期待できる結果を示していると報告した。
閉塞性動脈硬化症(末梢動脈疾患:PAD) は,心臓から脚部,および腎臓などの他の身体部分につながる血管に影響を及ぼす。これらの血管がコレステロールなどの沈着物(アテローム)のために閉塞した場合,血流が不足することになる。治療されないまま放置された場合,PADは歩行中の痛み(間歇性跛行)を生じさせるだけでなく,壊疽や下肢の切断につながることもある。閉塞性動脈硬化症の患者は世界的に増加傾向にありながら,有効な治療法が存在しないのが現状。
※インディアナ州ブルーミントン発 |