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【月刊インナービジョンより転載】

■Slab MIPで心臓CTを診る!

大阪大学大学院医学系研究科先進心血管治療学寄附講座 角辻 暁

●はじめに

皆さんは“Slab MIP”と聞いて,その内容,使い方がおわかりでしょうか?
本稿では,Slab MIPを使えば心臓CTがここまで簡単に,わかりやすく理解できる,という話を述べます。

●Slab MIPはここがすごい!

Slab MIPのすごい点を挙げると,
(1) ワークステーションに精通していなくても心臓CTを診ることができる,(2) 他の解析のようにいろいろな前処理を行うことが不要,(3) アンギオがわかっている人なら理解することが容易,(4) それでいてプラーク情報など,アンギオでわからないことが把握可能,ほかにも (5) 技師さんが慣れていない状況でも,良いフェーズさえ選択できていれば診断可能,であったり,(6) だからこそ,夜中の緊急症例にも心臓CTが使えたり,(7) 自分でCT画像を操作できるから,自分のPCI治療に直結した情報として心臓CT情報を使えるようになるなど,本当にさまざまな“すごい点”があります。

●なぜSlab MIPを勧めるのか?

心臓CTを自分で評価し始めたのは今から約5年前,最初はワークステーションでボリュームレンダリングやcurved MPR像を自分で作っていました。その後には,より冠動脈造影様のアンギオグラフィックビューという画像も作成可能になりました。確かにある程度の診断はできるし,全体像をつかむことができて,心臓CTの有用性を感じることはできましたが,どうも結果がしっくりこない,納得できない,理解しづらい,という感覚が残りました(図1)。今から考えれば,それまで冠動脈造影や左室造影,心エコーとして得てきた心臓に関する情報と前述の心臓CT情報が違っていたため,直感的に理解できなかったことがその原因であったと思います。
さらに,手間がかかることが問題でした。上記の画像を作るためにはワークステーションでさまざまな処理を行う必要があり,手間と時間が必要でした。それまで冠動脈造影・左室造影所見をチェックするときには不要であった手間・時間を費やすことは,いかに重要な情報を得るためとはいえ非常に大きなストレスでした。
そこでなんとか時間をかけずに直感的に理解できる情報入手の方法がないか,ワークステーションを使いながら試行錯誤した結果,たどり着いたのがSlab MIPでした。Slab MIPだったら,余計な手間や時間をかけずに,欲しい情報を直感的にわかる情報として得ることができる,自分にはこの方法以上のものはないだろうと確信できる方法でした。

図1 心臓CTで得られるさまざまな画像 この中で最も簡便かつ理解しやすい画像がSlab MIPであった。
図1 心臓CTで得られるさまざまな画像
この中で最も簡便かつ理解しやすい画像がSlab MIPであった。

●Slab MIPの原理

●Slabとは?
Slabとは厚みを持った板状のものを意味します。Slab MIPにおいては,Slabの形のCT情報を基に画像を作る,ということになります。図2を見ると,そのイメージがわかりやすいと思います。

図2 Slab MIPの原理 Slab MIPとは,Slabと言われる厚みを持った板状の範囲を投影し,最もCT値の高い情報から作られる画像である。
図2 Slab MIPの原理
Slab MIPとは,Slabと言われる厚みを持った板状の範囲を投影し,最もCT値の高い情報から作られる画像である。


●MIPとは?
MIPの正式名称はMaximum Intensity Projectionです。つまり,ある方向からの投影像として,その投影部分の最もCT値の高い値を採用して投影像を作る,ということです。
ここで大切なことは“投影像”です。何が大切か? それは,血管造影像・左室造影像も“投影像”だという点です。この点から,MIP像と造影像は基本的に似た画像になる必然性があるのです。
造影像は投影された情報の“平均値”で像を作成することになると思われますが,造影剤とその他の部位のX線吸収度の差が非常に大きいためMIP像と似た像になり得ます。

●Slab MIPとは
図2は,CTにおけるSlab MIP像のイメージです。心臓の関心領域を含むSlabを設定してそのSlabに含まれるCT情報を投影して,画像を作ります。
この原理からSlab MIP像は単なるMIP像とはまったく違う画像になります。画像そのもの,画像から利用できる情報が,Slab MIP像とMIP像では大きく異なることが理解していただけると思います。

●Slab MIP,どうすればいいの?

では実際に,Slab MIPを利用して心臓・冠動脈を観察するためにどうすればいいのでしょうか? 高価な装置やソフトウェアが必要でしょうか? Slab MIPで心臓を評価するために時間はどれぐらいかかるのでしょうか? 観察できるようになるために長い間トレーニングをする必要があるのでしょうか?

●装置・ソフトウェア
Slab MIPの有利な点に撮影装置・ソフトウェアに依存しない,という点があります。つまり,どの装置で撮った画像でも,古いワークステーションでも,いくつかの無料で入手できるソフトウェアでも,Slab MIPを利用して心臓を観察することが可能です。
最近では,われわれが共同開発している「zioTerm2009」というソフトウェアが無料で入手・利用できます。このソフトウェアは,Slab MIPを簡単に使える設定があらかじめ用意されています。
zioTerm2009はザイオソフト株式会社のホームページ(http://www.zio.co.jp)から無料で入手できます。

●評価にかかる時間
評価にかかる時間は,CTの画質・症例状況・病変状況によって大きく異なるので,一概に何分ということはできません。当然,悪い画質やCABG症例など複雑症例,石灰化病変など評価困難病変では時間がかかります。
それでも,現在の64列以上のCT装置で心拍数をコントロールできた状況であれば,臨床的に容認できる検査結果を得るために必要な時間は10〜15分程度です。
この特性を生かすことによって,緊急時にも心臓CTを活用することができるようになります。

●Slab MIP習得に要する時間
これも,どのワークステーションを使うかによって違いがあります。しかし,上記のzioTerm2009やZIOSTATIONを使用しているわれわれの施設では,循環器を始めたばかりの若い先生や研修医は,1〜2週間もあれば心臓CTを診て評価することができています。
もちろん,診断精度という面ではさらなる研鑽を積む必要があります。ただ自分自身,5年間経過した今でも,いまだに血管造影など他の画像診断結果と比較することで研鑽を積んでいるとも言えます。
自分でSlab MIPを使ってCT評価をしているからこそ,冠動脈造影やPCI結果と心臓CT所見を照らし合わせることができ,さらに信頼度の高い診断ができることになります。

●実際の観察方法
実際の観察方法については,使用するソフトウェアによって詳細は異なりますが,基本的には関心領域:冠動脈であれば観察しようとする部位,左室であれば多くの場合,左室中央に中心点を置き長軸方向・短軸方向に観察面(Slabの面)を合わせる,厚みは冠動脈を長軸方向に観察する場合は5mm,左室の壁運動を左室造影的に評価するときは5〜10mm,厳密に言えばSlab MIPではなくなるが,冠動脈短軸や左室壁性状を評価するときには厚みを最も薄い状態(通常表示として0mm)にして観察します。
通常,観察しているポイントは,(1) 冠動脈狭窄,(2) 動脈硬化病変性状,(3) 左室壁運動,(4) 左室壁性状ですが,冠動脈起始異常など解剖学的な情報を得ることもできます。
(1) の冠動脈造影を観察する場合には,上記のとおり5mmのSlabを用い,長軸方向に観察します。Slab厚を増すほど冠動脈の観察範囲は長くなりますが,より高いCT値の情報が混入することによって評価困難になる場合が多いため,経験的に5mmが最も観察しやすい厚さとなっています。注意すべき点は,MIP像なので血管造影像のように“造影の濃淡”という情報がないため,偏心性病変を見逃す可能性があることです。これを避けるためには,画像を回転して多方向から観察することが必要です。さらに多くのソフトウェアで,冠動脈を観察する最適な方向を血管造影の方向として表示可能です。心臓CTの観察方向を通常の冠動脈造影の方向に合わせるのではなく,逆に心臓CTで把握された最適な病変観察方向に透視方向を合わせることによって,CT情報をより有効に使うことができます。
(2) の動脈硬化病変性状を観察する場合には血管短軸にSlab方向を合わせ,厚みは最薄厚にして評価します。われわれが通常評価しているポイントは,PCI治療でのトラブルにつながる「末梢塞栓に関連するlipid coreの可能性のあるプラーク」と「治療困難や拡張不良につながる可能性のある石灰化」の存在です。前者はCT値をカラーマップ(上記zioTerm2009などで可能)で“−1000〜0”を赤,“1〜50”を黄,“51〜250”を緑に色分けした際の“血管内に存在する黄で囲まれた赤”をチェックし,後者はウインドウ幅とレベルを調整,もしくはカラーマップで“600〜2000”をピンクに色分けし,画像調整後の石灰化像またはカラーマップでピンクが血管全体を占めるものをチェックしています。これらのチェックポイントに合致する病変では,PCI治療のトラブルが高くなるため,配慮が必要になります。
(3) の左室壁運動は,左室の長軸・短軸にSlab方向を合わせて,1心拍を5〜10分割したフェーズを連続的に動かすことで評価ができます。さらにCTでは,心エコーでは低画質画像しか得られない症例でも安定して良好な画像が得られ,左室造影のように限られた方向の投影像でなく,完全に360°いずれの方向からの投影像・断面像でも観察が可能です。
(4) の左室壁性状は,左室の短軸に合わせた方向の最薄像で観察しています。左室壁全体が菲薄化している状況,心内膜側側のみCT値が低下しているものの左室壁厚は保たれている状況など,さまざまな情報が得られます。さらに,その左室壁の性状変化と冠動脈の同時評価も可能です。
各ソフトウェアの使用方法は説明書・操作手引きを参考にしてください。上記のzioTerm2009やZIOSTATIONについてはザイオソフト社のWeb上で操作方法を説明する画像も紹介していますので,見ていただくと参考になると思います。いずれにしても,複雑な操作は必要ありません。"習うより慣れろ"の姿勢で取り組めば,短時間での習得は十分可能です。

●実際にSlab MIPを使って心臓CT情報を利用した実例

図3に,冠動脈情報と動脈硬化病変性状情報を心臓CTから得ることのできた症例を示します。distal RCAに高度狭窄病変が存在することが,CTの冠動脈長軸方向のSlab MIP像で明瞭に描出され,その部位の血管短軸に合わせた最薄のSlab MIP(実際はMPR像と同じ)では,カラーマップによってlipid coreを疑う動脈硬化病変を認めます。実際この症例では,バルーン拡張後に一時的ではありましたが,明らかなslow flowになってしまいました。

図3 冠動脈造影像とIVUS像,血管長軸方向のSlab MIP像と血管短軸方向のSlab MIP(最薄なので実際にはMPR)のカラーマップ像 血管短軸のカラーマップ像で黄に囲まれた赤のlipid coreの可能性のある動脈硬化病変を認める。
図3 冠動脈造影像とIVUS像,血管長軸方向のSlab MIP像と血管短軸方向のSlab MIP(最薄なので実際にはMPR)のカラーマップ像
血管短軸のカラーマップ像で黄に囲まれた赤のlipid coreの可能性のある動脈硬化病変を認める。

図4には,石灰化病変を血管長軸・血管短軸のSlab MIPで観察した症例を示します。左に示すLAD病変では,石灰化部が左上と右下の2か所に分かれていること,少なくとも血管に対し同心円状になっていないことがわかり,右に示すdistal RCA病変では,石灰化が血管に対し同心円状となっていることがわかります。PCI治療の結果が上段に示されていますが,LAD病変は良好に拡張されているのに対し,distal RCA病変は高圧拡張でも拡張できず,治療不成功で終了せざるを得ませんでした。

図4 石灰化病変をSlab MIPで評価 石灰化評価には必ず,血管短軸最薄Slab MIP(MPR)像を用いる。
図4 石灰化病変をSlab MIPで評価
石灰化評価には必ず,血管短軸最薄Slab MIP(MPR)像を用いる。

図5には左室壁運動および左室壁性状を検討した結果を示します。左に左室長軸・右に左室短軸像を10mmのSlab MIPで示し,上段に拡張期・下段に収縮期像を示すことによって壁運動を示しています。一見してわかるように,前壁心筋梗塞症例で前壁中隔の心筋の菲薄化,壁運動の低下が把握できます。さらに,よく見ると冠動脈も描出されており,左室壁と冠動脈の同時評価ができることがわかります。

図5 左室壁性状・左室壁運動もSlab MIPで容易に評価可能
図5 左室壁性状・左室壁運動もSlab MIPで容易に評価可能

図6に,緊急症例の心臓CTをSlab MIPで評価したことによって,素早く左主幹部病変であることを診断,冠動脈造影で確認し引き続きPCI治療を行うことができた症例を示します。この症例では,心電図は左室肥大所見があるものの,緊急的な心筋虚血があるとは思われず,血液検査でも白血球数・HFABPを含め異常値を認めず,心エコーでも異常が指摘できませんでした。もしSlab MIPが使えなければ夜中の緊急心臓CTも行えず,この左主幹部の高度狭窄病変に気付かないままであった可能性は非常に高いと思われます。改めて,Slab MIPの重要性を再確認した一例でした。

図6 緊急症例に対するSlab MIP像を用いた心臓CT評価法の有用性 心電図・血液検査・心エコーで急性冠症候群を疑わせる所見を認めなかったが,心臓CTが左主幹部病変を指摘できた症例。
図6 緊急症例に対するSlab MIP像を用いた心臓CT評価法の有用性
心電図・血液検査・心エコーで急性冠症候群を疑わせる所見を認めなかったが,心臓CTが左主幹部病変を指摘できた症例。

●まとめ

とにかくSlab MIPを使ってみることが,理解への一番の早道だと思います。そして1週間,もしくは20例,我慢してSlab MIPで心臓を見てみてください。それでも利点を感じられなかったら,諦めてもらってもいいです。でも間違いなく何かを感じてもらえると思います。
何事も新しいことを習得するときには,努力と多少の挫折は避けられません。しかし,その後に得られるものは計り知れないものがあります。
自分が診ている,治療する患者さんの冠動脈だけでなく,心臓全体を自らの手で把握するその快感を味わってほしいと思います。

(2009年10月号)

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