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【月刊インナービジョンより転載】

■MRI心機能解析─Go back to Basics

Stanford University Medical Center Division of Cardiovascular Medicine 寺島 正浩

近年の心臓MRI撮影技術の進歩により,心臓MRIにて試行可能な心臓検査は多種多様になってきている。心機能解析から始まり,心筋パーフュージョン,心筋梗塞のscar imaging,冠動脈MRA,phase contrast法による弁膜症,先天性心疾患の逆流量解析,さらには心筋ストレイン,動脈硬化プラークイメージングなど多岐に渡っている。これにより,多くの心疾患において,心臓MRIの有用性が認識されるようになってきている。このような心臓MRIの可能性の中で,今回は一番の基本である,心機能解析に焦点を当てて,“Go back to Basics”と題して概説したい。

●心機能解析の臨床的意義

心機能は,循環器内科の臨床において非常に重要な役割を持っている。さまざまな心疾患を診断し,病型分類して,治療方針を立て,予後を推測するには,正確な心機能評価を行うことは非常に重要である1),2)。最近の臨床研究から,MRIにて解析可能な心機能解析の臨床的重要性について概説する。

1.心筋重量の臨床的重要性
心筋重量〔Left Ventricular(LV)mass〕の増加は,臨床的には心肥大(LV hypertrophy)として診断され,米国のFramingham Studyでの心電図,心エコーを用いた研究では,独立した心血管イベントの危険因子として報告されている3)。また,治療による心筋重量の低下が心血管イベントを低下させることも報告されている4)。これらの研究成果より,心筋重量の増加は,重大な心血管疾患の重要な予知マーカーと考えられている5)。ただし,これまでの臨床研究の結果は,その検査の簡便さより,心エコー法を用いた検討が多い。MRIは,より正確に,再現性高く,心室の大きさおよび形状を3次元にて計測可能である。そのために,心筋リ・モデリングの病理学的意義に関しても,より多くの情報を得ることが可能である。最近のMESA (Multi-Ethnic Study of Atherosclerosis)studyでも,約5000人の患者において,MRIによるLV mass計測を行い,心不全の発症の重要な危険因子となりうることが証明されている6)。今後,MRIを用いた高精度のLV mass測定により,心不全発症リスクの事前予知,予防が可能になることが期待される。

2.左室拡張機能の重要性
左室機能の評価は従来,収縮機能の評価に重点が置かれてきた。しかし,近年になり,収縮機能が正常であるが,拡張機能が障害されている心不全の病態が報告され,左室拡張機能が臨床上重要視されるようになってきている。最近の疫学的研究より拡張機能障害は,うっ血性心不全の原因の約50%を占めていると報告されており7)〜10),その生存率の差は,従来考えられていたほどは大きくないことが報告されている8)
これら臨床研究より,循環器の領域では,収縮不全の診断と治療以外に,拡張機能障害を診断することが重要視されているが,拡張機能障害による心不全を診断することは簡単ではない。心臓MRIによる心機能解析は,心機能解析ソフトウェアによりtime-volume curveを算出することで,ventricular volume, peak filling rate (PFR),time-to peak filling rate等の計算が可能であり,拡張機能の評価も行うことができる(図1)。さらに,高度なtagging MRIを組み合わせることにより,拡張機能障害をより正確に非侵襲的に診断できる可能性がある11)

図1 LV analysis 自動心筋輪郭トレース機能により,より簡便に心機能評価が可能となる。また,time-volume curveより,ventricular volume,peak filling rate(PFR),time-to peak filling rateが計算可能である。これらの指標は,拡張機能評価に有用である。
(ザイオソフト社製ZIOSTATION MR心機能解析2にて作成)
図1 LV analysis
自動心筋輪郭トレース機能により,より簡便に心機能評価が可能となる。
また,time-volume curveより,ventricular volume,peak filling rate(PFR),time-to peak filling rateが計算可能である。これらの指標は,拡張機能評価に有用である。


3.右室機能(RV function)の重要性
MRIによる心機能解析は,左室の機能解析にとどまらず,心エコーでは評価困難な右室機能に関しても評価可能である。近年になり,冠動脈疾患等のように,従来左室機能が重要と考えられていた疾患において,右室機能が予後推定上重要であることが報告されている12),13)。右室機能(RV mass,volumes,and function)は従来の侵襲的,非侵襲的画像診断では,その複雑な3次元構造のために,特に右室の変形や拡張のある患者では,非常に困難であった14)図2)。しかし,MRIは再現性が高く,正確に右室機能評価ができることが報告されており15),16),より正確な心機能評価(両心機能評価)の可能な画像診断法として非常に期待されている。

図2 右室形状の個人差 右室の形状には個人差が大きいが,主に上記の3群に分類される。 Wedge type:右室前自由壁が直線であり,先端の尖った三角形 Box type:右室前自由壁が直線ではなく,真中で折れ曲がった四角形 Round type:右室前自由壁がカーブしており,直線部分の存在しない丸型
図2 右室形状の個人差
右室の形状には個人差が大きいが,主に上記の3群に分類される。
Wedge type:右室前自由壁が直線であり,先端の尖った三角形
Box type:右室前自由壁が直線ではなく,真中で折れ曲がった四角形
Round type:右室前自由壁がカーブしており,直線部分の存在しない丸型

●MRIによる心機能解析

MRIによる心機能解析は,循環器臨床において,正確な左室収縮能・拡張能,ならびに右室機能評価のために重要な役割を果たすことが期待される。しかし,これらの解析には,時間と労力を要し,多忙な臨床の現場で普及するには,解析ソフトのさらなる改善が必要である。下記に,MRI心機能解析ソフトに期待される点を列記する。

1.自動心筋輪郭トレース
心機能評価をより正確に,再現性高く短時間で行うには,自動輪郭トレース機能が重要である。近年,1方向のshort axis imageだけでなく,long axis imageなどを組み合わせることにより,さらに正確に心機能評価が行えるとの報告も見られる17)。さまざまな条件を組み合わせることで,より正確な自動トレース機能が開発されることが期待される。

2.定量的心室壁運動解析機能
心室壁運動は従来,定性的評価により行われてきた。これが,心エコー法でも,壁運動評価に観察者によるvariabilityが発生する大きな原因であり,より客観的な定量評価法の開発が期待される18)

3.心筋ストレイン自動定量解析
心筋ストレイン画像は,myocardial taggingなどの撮像法により得られるが,その定量的解析は非常に困難である。本稿では詳細を解説しないが,心筋ストレインの情報は,上記の左室拡張機能の評価とも密接に関連し,今後の重要な心機能解析法となりうる可能性を秘めている。これら,心筋ストレインの情報を定量的に自動解析できるようになれば,循環器臨床の現場での心筋ストレイン情報の利用が推進されると期待される。

●まとめ

心機能解析は,画像診断技術の進歩と共に多くの点で見直され,循環器臨床での重要性が再認識されている。本稿では,その中から特に,心筋重量(LV mass),左室拡張能,右室機能に重点を置いて,その臨床的意義を概説した。MRIは,高分解能で再現性高く心機能評価を行える可能性を秘めており,臨床現場でのさらなる活用が期待される。ただし,その解析には時間と労力がかかるのが現状であり,それを解決するための優秀な解析ソフトの開発が待たれる。

●参考文献
1) Hamer, A.W., Takayama, M., Abraham, K.A., et al : End-systolic volume and long-term survival after coronary artery bypass graft surgery in patients with impaired left ventricular function. Circulation, 1994 ; 90 : 2899-2904.
2) Brener, S.J., Lytle, B.W., Casserly, I.P., et al. : Predictors of revascularization method and long-term outcome of percutaneous coronary intervention or repeat coronary bypass surgery in patients with multivessel coronary disease and previous coronary bypass surgery. Eur Heart J., 2006 ; 27 : 413-418.
3) Levy, D., Garrison, R.J., Savage ,D.D., et al. : Prognostic implications of echocardiographically determined left ventricular mass in the Framingham Heart Study. N Engl J Med., 1990 ; 322 : 1561-1566.
4) Devereux, R.B., Wachtell, K., Gerdts, E., et al. : Prognostic significance of left ventricular mass change during treatment of hypertension. JAMA., 2004 ; 292 : 2350-2356.
5) Gardin, J.M., Lauer, M.S. : Left ventricular hypertrophy: the next treatable, silent killer? JAMA., 2004 ; 292 : 2396-2398.
6) Bluemke, D.A., Kronmal, R.A., Lima, J.A., et al. : The relationship of left ventricular mass and geometry to incident cardiovascular events: the MESA(Multi-Ethnic Study of Atherosclerosis)study. J Am Coll Cardiol., 2008 ; 52 : 2148-2155.
7) Persson, H., Lonn, E., Edner, M., et al. : Diastolic dysfunction in heart failure with preserved systolic function: need for objective evidence:results from the CHARM Echocardiographic Substudy-CHARMES. J Am Coll Cardiol., 2007 ; 49 : 687-694.
8) Owan, T.E., Hodge, D.O., Herges, R.M., et al. : Trends in prevalence and outcome of heart failure with preserved ejection fraction. N Engl J Med., 2006 ; 355 : 251-259.
9) Bursi, F., Weston, S.A., Redfield, M.M., et al. : Systolic and diastolic heart failure in the community. JAMA., 2006 ; 296 : 2209-2216.
10) Bhatia, R.S., Tu, J.V., Lee, D.S., et al. : Outcome of heart failure with preserved ejection fraction in a population-based study. N Engl J Med., 2006 ; 355 : 260-269.
11) Paelinck, B.P., Lamb, H.J., Bax, J.J., et al. : Assessment of diastolic function by cardiovascular magnetic resonance. Am Heart J., 2002 ; 144 : 198-205.
12) Bleasdale, R.A., Frenneaux, M.P. : Prognostic importance of right ventricular dysfunction. Heart, 2002 ; 88 : 323-324.
13) Mehta, S.R., Eikelboom, J.W., Natarajan, M.K., : Impact of right ventricular involvement on mortality and morbidity in patients with inferior myocardial infarction. J Am Coll Cardiol., 2001 ; 37 : 37-43.
14) Fritz, J., Solaiyappan, M., Tandri, H., et al. : Right ventricle shape and contraction patterns and relation to magnetic resonance imaging findings. J Comput Assist Tomogr., 2005 ; 29 : 725-733.
15) Alfakih, K., Plein, S., Bloomer, T., et al. : Comparison of right ventricular volume measurements between axial and short axis orientation using steady-state free precession magnetic resonance imaging. J Magn Reson Imaging, 2003 ; 18 : 25-32.
16) Mooij, C.F., de Wit, C.J., Graham, D.A., et al. : Reproducibility of MRI measurements of right ventricular size and function in patients with normal and dilated ventricles. J Magn Reson Imaging, 2008 ; 28 : 67-73.
17) Kirschbaum, S.W., Baks, T., Gronenschild, E.H., et al. : Addition of the long-axis information to short-axis contours reduces interstudy variability of left-ventricular analysis in cardiac magnetic resonance studies. Invest Radiol., 2008 ; 43 : 1-6.
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(2009年8月号)

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