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次世代の画像解析ソフトウェア

【月刊インナービジョンより転載】

■胸部食道がんの術前シミュレーションのための3D-CT画像

佐藤 広崇/梁川 範幸/澤田 晃一/入江 亮介  千葉大学医学部附属病院放射線部
首藤 潔彦  千葉大学大学院医学研究院先端応用外科学


●はじめに

MSCTの空間分解能,時間分解能は向上の一途をたどり,64列MSCTでは,0.5mmの等方性のボリュームデータが広範囲かつ短時間で得られるようになった。また,ワークステーションの性能の飛躍的な向上により,ストレスの少ない膨大なスライスデータの読み込みや処理が可能となり,さらに,ボリューム編集ツールの精度向上などによりVR像やfusion画像の作成が簡便にできるようになった。
本稿では,「AZE VirtualPlace雷神」(AZE社製)でマルチボリューム画像を作成し,術前シミュレーションに有用であった胸部中部食道がんの一例(図1〜5)について紹介する。

●胸部中部食道がんについて

気管・気管支や肺動静脈・大動脈など,重要臓器と接触を密にしている食道がん手術では,適切な剥離操作や確実なリンパ節郭清が要求される。温存すべき組織と切除すべき組織が局所に集中しており,特に大動脈弓下では,両者が入り組んで存在する。温存すべき左右気管支動脈には破格走行が多く,気管支動脈の切除は,術後肺炎や気管壊死などの合併症につながりやすい。また,間隙に存在する周囲リンパ節には高頻度で転移が見られるため,リンパ節の温存は早期再発につながる。
そのため,これら立体解剖を術前に把握することは重要であり,ひいては患者予後に反映する。通常,当施設では周囲圧排性に発育する胸部中部食道がん症例においては,本例のように3D画像を作成し,術前シミュレーションとして手術に役立てている。

●撮影条件

CT撮影は,「Aquilion ONE」(東芝社製)を用い,表1の条件で行った。

表1 撮影条件
表1 撮影条件

●画像の作成法

今回は,臓器や血管を抽出するために2つのボリューム編集ツールを用いた。
1つ目は“ドリル・ハンマー”である。このツールでは,画像表面を球体として削る,修復するといった加工を行う。特長は,2D画像もしくは3D画像上で血管をマーキングしていくだけで,その血管と連続性のある血管のみを抽出できることである。自動抽出では難しい,細かい血管や分岐した血管の抽出に有用である(図1)。2つ目は“セミオート描出”である。これは,何枚かのスライス上で輪郭を設定することで,各スライス間を自動で補完し,ボリュームのマスクを得るツールである。
われわれは,気管支動脈などの細かい血管の抽出にドリル・ハンマー,食道,リンパ節を抽出するために,セミオート描出のフリーハンドモードを用いて,動脈相画像より,6つのVR像(動脈,気管支動脈,気管,非がん部食道,造影効果の高い食道がん,リンパ節)からなるマルチレイヤー画像を作成した(図2〜5)。作成時間は15〜20分程度である。最も煩雑な作業は気管支動脈の抽出であるが,ドリル・ハンマーを用いることで,必要な血管のみをかなり細部まで簡便に抽出可能である。

図1 胸部中部食道がん症例:修復ボタンによる血管抽出の経過画像
図1 胸部中部食道がん症例:修復ボタンによる血管抽出の経過画像

図2 胸部中部食道がん症例:各VR像
図2 胸部中部食道がん症例:各VR像

図3 胸部中部食道がん症例: 正面(左)および左斜位の尾側(左)から見たマルチレイヤー画像
図3 胸部中部食道がん症例:
正面(左)および左斜位の尾側(左)から見たマルチレイヤー画像
図4 胸部中部食道がん症例:術者側から見た手術視野の マルチレイヤー画像
図4 胸部中部食道がん症例:
術者側から見た手術視野の マルチレイヤー画像

図5 胸部中部食道がん症例:VR像と術中写真 VR像と実際の術中画像を比較する。腫瘍と気管支動脈,周囲リンパ節の位置関係が同じであることがわかる。
図5 胸部中部食道がん症例:VR像と術中写真 VR像と実際の術中画像を比較する。
腫瘍と気管支動脈,周囲リンパ節の位置関係が同じであることがわかる。

●画像説明

本症例では,左右気管支動脈(赤色)が下行大動脈(肌色)より分岐し,主腫瘍(紫色)近傍を取り囲むように走行しており,気管(青色)周囲リンパ節(黄緑色)が描出されている(図3,4)。特に図4は,開胸操作時の術者側から見た手術視野であるため,左右気管支動脈の温存とリンパ節郭清に非常に有用であった。

●さいごに

今回の3D画像は,胸部中部食道がんの術前シミュレーションとして,左右気管支動脈の温存とリンパ節郭清に非常に有用であった。また,ワークステーションの機能向上により作成時間も短縮できた。
画像作成で大切なことは,標本対象を忠実に描出することと,臨床医が求めている視野からの画像を提供することである。優れた3D画像を作成するための元画像を得ることは,われわれ診療放射線技師の責務であり,常に再現性良く得られるようなプロトコールの確立も重要である。そのためにも,日ごろから画質向上を心掛け,臨床医とのコミュニケーション大切にし,臨床的な価値の高い画像の提供により最終的にはそれが患者さんの利益につながるように努めなければならない。
われわれは,装置(ワークステーション)を最大限に活用できるように日々精進し,臨床医からのさまざまな要望に応えられるように心掛けたい。

【使用CT装置】 Aquilion ONE(東芝社製)
【使用ワークステーション】 AZE VirtualPlace雷神(AZE社製)

(2011年12月号)

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