ホーム AZE 次世代の画像解析ソフトウェア頭蓋底外科手術における次世代型画像解析ソフトウェアを使った術前評価の有用性
【月刊インナービジョンより転載】
■頭蓋底外科手術における次世代型画像解析ソフトウェアを使った術前評価の有用性
郭 樟吾/畑岡 峻介/谷野 慎/岡田 富/宮原 宏輔 市川 輝夫/藤津 和彦
独立行政法人 国立病院機構 横浜医療センター脳神経外科
●はじめに
頭蓋底外科手術において,正常解剖を理解し十分な手術のシミュレーションを行うことは,重要かつ有用である。しかし実際の手術では,(特に腫瘍などにより)その正常構造が失われていることが多く,術前評価(手術のシミュレーション)が非常に困難である。われわれの施設では,MRI/MRA/MRVおよびCTの画像を,AZE社のワークステーション「AZE VirtualPlace Plus」で処理した三次元重畳画像(3D-multifusion image)を用いて,頭蓋底外科手術症例の術前評価を行っている。
同ワークステーションには,自動合成処理機能と3D multi-volume endoscope機能が新たに追加され,簡便にmultifusion imageを作成し,任意の方向から術野を展開できるようになった。また,腫瘍,血管,神経,骨構造との位置関係が鮮明に描出され,簡便にこれらを削除・追加・透過させることが可能なため,視覚的なイメージとして記憶に残りやすく,術者にとっての手術シミュレーションとして有用と考えられるので報告する。
●対象・方法
2009年12月〜2010年12月の期間に,当院にて頭蓋底外科手術を施行した61例を対象とした。
MRIは「Intera Achieva 1.5T」(フィリップス社製)を用いて,T1強調像(T1WI)を,echo time(TE):12ms,repetition time(TR):59ms,flip angle:80°,slice thickness:5mm,number of slice:22,NEX:2,FOV:230mm,matrix:213×304,scan time:3'46"で,heavily T2を,TE:250ms,TR:1500ms,flip angle:90°,slice thickness:0.75mm,number of slice:50,NEX:2,FOV:160mm,matrix:205×304,scan time:2'50",MRAはTE:6.9ms,TR:23ms,flip angle:17°,slice thickness:0.55mm,number of slice:150,NEX:1,FOV:220mm,matrix:166×368,scan time:4'57"で,MR venography(MRV)をTE:7.3ms,TR:12ms,flip angle:10°,slice thickness:0.7mm,number of slice:120,NEX:1,FOV:220mm,matrix:205×256,scan time:4'40"の条件で撮像した。
また,CTは「Aquilion 64」(東芝社製)を用いて,pipe voltage:120kV,pipe electric current:300mA,slice thickness:0.5mm,scan time:1.0s/roundの条件で撮影した。
なお,骨情報はCT,血管系の情報はMRA/MRV,腫瘍情報は造影MRIから閾値による抽出,神経系の情報はheavily T2から目視による範囲設定のもと抽出を行った。
これらにより得られたボリュームデータをAZE VirtualPlace Plusに転送・処理し,自動合成機能を使って異なったFOVの画像間に生じる形態的な誤差を高精度に自動で除去・合成して3D-multifusion imageを作成した。また,これらのデータをもとに,3D multi-volume endoscope機能を用いて仮想術野画像としての動画作成を行った。
●結果
全例において,腫瘍と骨・神経・動静脈の関係が明瞭に描出された3D-multifusion imageが短時間のうちに作成可能であった。また,実際の術野との比較において,血管や神経との位置関係は非常に整合性があり有用であった。
●症例提示
患者:77歳,男性 主訴:頭痛
現病歴:1年前より頭痛が出現。他院を受診し,MRIにて頭蓋底部腫瘍(鞍結節部髄膜腫)が疑われたため,当院紹介となった(図1 a,b)。
術前画像評価:腫瘍はprechiasmatic cisternに位置しており,前大脳動脈を背側へ圧排し,左嗅神経の腹側へ進展しているものと予想された(図1 c,d)。
手術所見:手術は,basal inter-hemispheric approachで行った。腫瘍はprechiasmatic cisternに局在し,左嗅神経の腹側へ進展,同部位で強い癒着を認めた。また,前大脳動脈は腫瘍の背側に圧排されており,いずれも術前の3D-multifusion imageと一致した(図1 e,f)。腫瘍は全摘出(Simpson's GradeT)され,病理所見はmeningothelial meningiomaであった。
術後経過:術後は経過順調にて,新たな神経症状もなく,16日後に独歩退院した。1.5年後の現在も,腫瘍の再発は認められていない(図1g,h)。
図1 頭蓋底部腫瘍(鞍結節部髄膜腫)症例(77歳,男性)
●考察
頭蓋底外科手術は,一般脳神経外科医が経験できる数が限られる上に,侵襲性や難易度が高いため,少ない経験の中で最大限の手術成績を残せるよう工夫を講じる必要がある。その1つとして,われわれの施設ではAZE VirtualPlace Plusで処理した次世代型3D-multifusion imageを用い,頭蓋底外科手術症例の術前評価を行っている。3D-multifusion imageを使った術前シミュレーションの有用性は,これまでにも報告されているが1)〜7),頭蓋底外科手術での報告4)は非常に少ない。
AZE VirtualPlace Plusには,従来のソフトウェアにない新たな機能として,自動合成処理機能が追加された。その特長として,合成する際に異なったFOVの画像間に生じる形態的な誤差を,各画像間の相関係数をもとにソフトウェア上で自動で統一して高精度に除去し,同じ拡大率をもって画像に反映させるため,解剖学的な正確性を保つことが可能となる。これにより,腫瘍,血管,神経,骨構造の位置関係を鮮明に描出し,解剖学的に正確性の高い3D-multifusion imageを簡便に作成できる。さらに,新たに追加された3D multi-volume endoscope機能は,複数のモダリティで作成された解剖学的に精密な合成画像をもとに,任意の方向から動画作成できることが特徴的であるため,作成された内視鏡的な動画は仮想手術として十分に利用できる(図2)。
図2 鞍結節部髄膜腫術前の3D-multifusion image動画コマ
三次元シミュレーションの画像は,cadaver dissectionから得られる正確で詳細な正常解剖の知識には及ばないが,簡便に短時間で,実際の症例に沿った解剖学的知識が得られるという意味では,今後も発展していくツールと思われる。
3D-multifusion imageにおける今後の展望として,われわれは,作成された仮想内視鏡画像を顕微鏡内にpicture in pictureできるようなシステム構築を考えている。
〈謝辞〉本稿の作成にあたり,ご協力いただいた株式会社AZEの関係各位に深く感謝申し上げます。
●参考文献 | |
1) | 加藤正仁, 会田敏光,清水友樹・他 : multi-volume法による圧迫血管の画像化─神経血管減圧術の術前評価. CI研究, 30, 35〜38, 2008. |
2) | Kockro, R., Stadie, A., Schwandt, E., et al. : A collaborative virtual reality environment for neurosurgical planning and training. Neurosurgery, 61(ONS Suppl. 2), 379〜392, 2007. |
3) | 森崎訓明, 藤澤睦夫, 片木良典 : 脳神経外科手術における3D MR Volume rendering画像の有用性について. CI研究, 30, 143〜149, 2008. |
4) | 大石 誠, 福多真史, 吉田賢造・他 : 根治切除を目指すための画像評価と, 計画した摘出範囲を安全かつ確実に切除するための3次元局所解剖手術シミュレーションの活用. 脳外速報, 20, 1026〜1035, 2010. |
5) | Satoh, T., Onoda, K., Date, I., : Preoperative simulation for microvascular decompression in patients with idiopathic trigeminal neuralgia ; Visualization with three-dimensional magnetic resonance cisternogram and angiogram fusion imaging. Neurosurgery, 60, 104〜114, 2007. |
6) | Satoh, T., Omi, M., Nabeshima, M., et al. : Severity analysis of neurovascular contact in patients with trigeminal neuralgia ; Assessment with the inner view of the 3D MR cisternogram and angiogram fusion imaging. Am. J. Neuroradiol., 30, 603〜607, 2009. |
7) | 佐藤 透, 尾美 賜, 鍋島睦栄・他 : 上錐体静脈単独の圧迫による三叉神経痛 ; 3D MR cisternogram/angiogram multi-fusion imagingによる術前画像評価. 脳外速報, 19, 812〜818, 2009. |
【使用MRI装置】 Intera Achieva 1.5T(フィリップス社製)
【使用CT装置】 Aquilion 64(東芝社製)
【使用ワークステーション】 AZE VirtualPlace Plus(AZE社製)
(2011年9月号)