東芝メディカルシステムズ

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Technical Note

2012年4月号
Abdominal Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

MRI−腹部領域におけるMRI最先端技術 ─より安定した高画質のために

淀 健治
営業本部MRI営業部

腹部領域におけるMRIの進歩は著しく,MRIの必要性はますます大きくなっている。本稿では,東芝最新型MRIに搭載された新しい技術について,その概要を説明する。

■Multi-phase Transmission

図1 最新型MRI装置「Vantage Titan 3T」
図1 最新型MRI装置「Vantage Titan 3T」

3T MRIでは,1.5T MRIと違い人体が挿入されると,RF磁場(B1)の体内分布形状が大きく崩れてしまう。この問題を解決するために開発された技術が,“Multi-phase Transmission”である。
Multi-phase Transmissionは,位相差と振幅を最適にコントロールすることで,RF磁場(B1)の不均一を改善する。これによって画像の信号強度ムラがなくなり,躯幹部でも3Tによる日常的検査が可能になっている。
単純に送信RFの位相と振幅を変化させるだけでは,完全に信号強度ムラをなくすことはできない。送信アンプの台数と,送信コイルに電力を供給するポイントの数が大きなカギとなる。送信コイルに電流を加えている給電ポイントの近傍では,RF磁場(B1)は意図した位相・振幅の状態になっている。給電ポイントから離れるに従って,挿入された人体の電気的な干渉や波長の影響により,RF磁場(B1)は意図した位相・振幅からずれてしまう。この現象が信号強度ムラの原因に加わってしまう。そこで給電ポイント数を増やすことで,人体が挿入された場合のRF磁場(B1)の位相・振幅をより意図したものに近づけることが重要である。東芝最新型3T MRI装置「Vantage Titan 3T」(図1)は,2chの独立したアンプで4ポイントから給電することで,より最適な状態での送信を可能としている。
躯幹部の検査において,2ch.4ポイント送信のMulti-phase Transmissionは不可欠な技術と言える(図2)。Multi-phase Transmissionは,Vantage Titan 3Tに標準搭載されている。

図2 2ch.4ポイント送信の“Multi-phase Transmission”により,濃度ムラの少ない均一な画像を得ることができる。
図2 2ch.4ポイント送信の“Multi-phase Transmission”により,濃度ムラの少ない均一な画像を得ることができる。

■高精度脂肪抑制 Enhanced Fat Free

腹部MRI撮像における重要な項目に脂肪抑制法がある。脂肪抑制法は,MRIの特性を生かした撮像として,日常臨床で幅広く使用されている。しかし,撮像部位によっては局所的な磁場の不均一等が原因で,均一に脂肪成分が抑制されないことがあった。東芝は,このような課題を克服するため,新しい脂肪抑制法であるEnhanced Fat Free法を開発した。
Enhanced Fat Free法の仕組みを簡単に説明する(図3)。Enhanced Fat Free法は,2つのパルスを使用する。1st FatSATパルスにより,脂肪成分のみを90°以上励起する。1st FatSATパルスの後,傾斜磁場にて横磁化成分を分散させる。これにより,脂肪成分が縦磁化成分のみとなる。再度,脂肪成分のみに2nd FatSATパルスを加え,残った脂肪信号を横磁化にする。続いて,残った横磁化の脂肪成分を傾斜磁場にて分散させ,脂肪信号を抑制する。

図3 Enhanced Fat Free法の仕組み
図3 Enhanced Fat Free法の仕組み

図4 Enhanced Fat Free法による腹部脂肪抑制画像(VR像)
図4 Enhanced Fat Free法による腹部脂肪抑制画像(VR像)

1つのパルスによる脂肪抑制法では,局所的な磁場の不均一や,緩和時間の微妙な違いで脂肪成分が抑制できない場合があった。Enhanced Fat Free法は,2つのパルスを使用するため,1st FatSATパルスで脂肪成分を抑制できない場合でも,2nd FatSATパルスにより脂肪成分を抑制することが可能になる(図4)。このように,Enhanced Fat Free法は,2つのパルスを使う大変斬新な脂肪抑制法である。
高精度な脂肪抑制を提供するEnhanced Fat Free法は,高性能なハード構成による撮像環境があるからこそ,実現できる脂肪抑制法である。Enhanced Fat Free法は大変有用な脂肪抑制法である。

■非造影MRA

体幹部の血管を非造影で描出する技術は,ますます進化している。門脈,肝動脈,腎動脈など,さまざまな血管を細かな分枝レベルまで描出することが可能である。また,背景信号を抑制し,見たい血管だけを選択的に描出するTime-SLIP法が開発され,すでに幅広く使用されている(図5)。さらに,Time-SLIP法で,TI時間を変化させ複数回の撮像をすることにより血流動態まで描出できるようになった。形態診断から,非侵襲的な機能イメージングが実現された。これらの画像は,術前のプラン構築から,術後の長期間にわたるフォローアップまで,すでに幅広く臨床に使用されている。また,腎性全身性線維症(NSF)の問題から,造影剤を使用せずに行える撮像法として世界的に大きな注目を集めている1)〜3)。さらに最近では,MRCPへの応用など,血管以外への展開も期待されている4)

図5 Time-SLIP法による腹部非造影MRA画像
図5 Time-SLIP法による腹部非造影MRA画像

●参考文献
1) Miyazaki, M., Isoda, H. : Non-contrast-enhanced MR angiography of the abdomen. Eur. J. Radiol., 80・1, 9〜23, 2011.
2) Miyazaki, M., Lee, V.S. : Nonenhanced MR angiography. Radiology, 248・1, 20〜43, 2008.
3) Miyazaki, M., Akahane, M. : Non-Contrast Enhanced MR Angiography ; Established Techniques. J. Magn. Reson. Imaging, 35・1, 1〜19, 2012.
4) Ito, K., Torigoe, T., Tamada,T., et al. : The secretory flow of pancreatic juice in the main pancreatic duct ; Visualization by means of MRCP with spatially selective inversion-recovery pulse. Radiology, 261・2, 582〜586, 2011.
   
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