ホーム inNavi Suite 東芝メディカルシステムズ Technical Note心筋SPECT検査におけるSSPAC法による減弱アーチファクトの低減
2011年4月号
Cardiac Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点
心筋SPECT検査において,生体内での吸収・散乱の影響により,下壁・中隔領域の画素値が低下することが問題とされてきた。最近ではワークステーションの処理能力の向上により,外部入力した減弱マップを用いた減弱補正が可能となってきている。外部入力する減弱マップの1つとして,CT画像のX線の吸収値を,γ線の吸収値に変換した画像を用いる方法が挙げられるが,通常心筋SPECTの減弱補正用のCT撮影は,自由呼吸もしくは呼気息止めで行う。しかし,短時間で撮影するCT画像と自由呼吸下で数十心拍を平均化する心筋SPECT画像では,心筋と肺や横隔膜の位置関係が同一にならない。このように,CT画像を使ったSPECT減弱補正では,CT画像とSPECT画像のmisregistrationにより,アーチファクトを生じるケースが見受けられ,SPECT-CTのように同一寝台を用いて撮影されたCT画像を使った減弱補正が行えるハイブリッド装置においても,この問題は解消されていない1)。
■SSPAC法について
前述のとおり,CT画像を用いた心筋SPECT減弱補正では,呼吸の影響などによる問題が残っており,さらにSPECT-CTのような一体型装置で補正を行う場合には,設備投資や維持費用が必要となる。こうした背景から,SSPAC(Segmentation with Scatter and Photopeak window data for Attenuation Correction)法が,藤田保健衛生大学の前田らにより開発された。SSPAC法の主な特長は,以下のとおりである。
・コンプトン散乱画像などを用いて減弱マップを作成するため,SPECT-CTなどの特殊な装置を必要としない。
・補正用のTCTやCT画像を得るための,患者さんへの付加的な被ばくがない。
・減弱補正の対象となる心筋SPECT画像と同時に撮像したコンプトン散乱画像から減弱マップを推定するため,呼吸による影響を受けにくい。
・99mTc製剤および201Tlに対応可能である。
SSPAC法は,通常のSPECTイメージングに使用されるPhoto-peak領域のデータとコンプトン散乱領域のデータを利用して,SPECT画像から減弱補正マップを作成し,心筋SPECT減弱アーチファクトの低減を行うことができる。収集方法としては,Photo-peak windowに加え,低エネルギー側のコンプトン散乱領域にSub windowを設定して収集を行う(図1)。Sub windowから得られたコンプトン散乱データの再構成画像から,体輪郭,肺外縁の抽出を行う。得られた体輪郭・肺外縁の画像に,あらかじめ用意しているモデル縦隔を貼り付ける。一方,Photo-peak画像から心臓および肝臓を抽出し,同じくあらかじめ用意したモデル胸椎と一緒に貼り付ける。
図1 SSPAC法のデータ収集におけるエネルギー設定
各部位に減弱係数の割り付けを行い,SPECT位置分解能と同等の分解能劣化フィルタ処理をかけることによって,各スライス面での減弱補正マップを得ることができる。つまり,SPECT収集データから直接減弱補正マップを作成できるため,CT画像を用いた減弱補正等で問題となる画像間の位置ズレは,原理上生じないことになる(図2)。
図2 SSPAC法による減弱補正マップ作成の概念図
SSPAC法による効果をPolar Map表示により,補正なしと外部線源法(TCT法)と比較した(図3)。補正なしではInferior(下壁)からSeptum(中隔)における画素値低下のアーチファクトが生じているが,SSPAC法による減弱補正後の画像では,これが低減されており,TCT法と比較しても同等の補正結果画像が得られている。
図3 外部線源法(TCT法)との比較:99mTc-tetrofosminでの正常例
(データご提供:藤田保健衛生大学様,三重大学様)
図4に,201Tlの正常例における補正なしと,補正ありの画像を示す。201Tlのようにエネルギーの低い核種では,左側の矢印(↑)の指す領域において特に減弱の影響を大きく受けるが,右側のSSPAC法による補正結果画像では均一な分布に補正されている。また,99mTc-tetrofosminを用いた正常例の平均データにおいても,SSPAC法で減弱補正を行った結果,補正なしと比較して心筋全体での均一性が向上したという報告がある2)。
図4 201Tl正常例におけるSSPAC法による減弱補正
(データご提供:藤田保健衛生大学様,三重大学様)
さらに,図5に示すように,SPECT-CT装置で心筋SPECTの減弱補正を行った場合と,SSPAC法で減弱補正を行った場合を比較してみると,SPECT-CT装置を用いた補正では心尖部のカウントが低下しているのに対し,SSPAC法では,より均一な補正結果が得られた。
図5 SPECT-CTのCT画像を使った減弱補正とSSPAC法による減弱補正の比較
(データご提供:金沢大学様)
最近では,CCTA(冠動脈造影CTアンギオ)と心筋SPECT画像を3次元的にフュージョンし,形態画像と機能画像を同時に観察することで,狭窄血管の虚血領域への支配関係を観察することが行われている。このようなフュージョンによる画像観察を行う場合にも,SSPAC法により減弱補正を行った心筋SPECT画像を用いることで,虚血部位をより正確に把握することができるのではないかと考える。
●参考文献 | |
1) | McQuaid, S.J.,et al. : Sources of attenuation-correction artefacts in cardiac PET/CT and SPECT/CT. Eur. J. Nucl. Med. Mol. Imaging, 35・6, 1117〜1123, 2008. |
2) | Okuda, K., et al. : Attenuation correction of myocardial SPECT by scatter-photopeak window method in normal subjects. Ann. Nucl. Med., 23, 501〜506, 2009. |