東芝メディカルシステムズ

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Technical Note

2010年4月号
Abdominal Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

US−4D超音波技術によるAbdominal Imaging─肝がん治療支援への応用

嶺 喜隆
超音波事業部超音波開発部

超音波診断装置は,非侵襲でリアルタイム性があり,肝がんの診断や鑑別,穿刺や治療支援に大きな役割を果たしてきた。しかしながら,これまでの2D断層像での観察下では,腫瘍の三次元的な広がりの把握,穿刺の精度,焼灼治療時のマージンの確保や治療効果判定に制約がある。近年,振動子の機械的揺動を制御可能な4Dプローブを用いた4D超音波技術が発展している。
本稿では,肝がん治療支援を重要な目的の1つとして,プローブからアプリケーションまでの4D超音波の技術開発について述べる。


■ 4Dプローブ

4D超音波システムを肝がんの治療支援に適用する場合,従来の1Dプローブと遜色のない感度と画質が,4Dプローブに求められる。穿刺を正確に行うために,腫瘍の検出能と腫瘍の広がりや,治療効果判定のための造影感度が重要となる。今回開発された腹部用4Dプローブ「PVT-375MV」(図1 a)は,当社の腹部の標準1Dプローブである「PVT-375BT」の音響性能を目標として開発された。中心周波数は3.5MHz,視野範囲は電子走査面が73°,揺動面が75°である。図1 bのとおり,繰り返し使用できる金属製穿刺アダプタが装着可能である。
図2は,1DプローブのPVT-375BTと4DプローブのPVT-375MVのTHI(Tissue Harmonic Imaging)モードによるファントム像の比較である。Bモードの画質がほぼ同等である。


図1 腹部用4Dプローブ:PVT-375MV
図1 腹部用4Dプローブ:PVT-375MV
図2 THIモードでのファントム画像
図2 THIモードでのファントム画像

■ 4D造影機能

造影モードにより,治療する肝がんの位置や大きさを観察することができる。4D超音波システムでは,三次元データをリアルタイムに収集・表示可能である。
図3は,4D造影超音波モードのMPR(Multi Planer Reconstruction)表示の例である。図3 aに示すとおり,走査方向をA面,揺動方向をB面,体表に平行面をC面と定義する。図3 bは,ソナゾイド投与下の早期相であり,直交3断面の造影像と,右下に動脈血流のボリューム像が表示されている。
図4は,A面のMulti View表示による5mm間隔での腫瘍の造影像と,C面のMulti View表示である。三次元的に腫瘍の広がりを観察できるので,適切なマージンをもって腫瘍を焼灼可能なラジオ波焼灼療法(RFA)の針先位置を決定できる。また,治療前後の3D造影像を比較することにより,焼灼範囲の評価が可能である。


図3 超音波造影モードのMPR像
図3 超音波造影モードのMPR像 (画像ご提供:癒しの森消化器内科クリニック・小井戸一光先生)

図4 腫瘍の造影像:Multi View表示
図4 腫瘍の造影像:Multi View表示 (画像ご提供:東京医科大学・森安史典先生)

さらに,三次元の血管構造を見やすくするために,“4D-Replenish”機能と“4D-MFI(Micro Flow Imaging)”モードが搭載されている。4D-Replenish機能は,観察ボリューム内のマイクロバブルを高音圧送信にて消失させる機能である。
4D-MFIモードは,図5のとおり,replenish後に流入するマイクロバブルについて,時相の異なる同じスキャン位置のデータに対して時間方向にMaxHold処理を行う。同じスキャン位置のフレーム(1,8,9)について,フレーム1とフレーム8にMaxHold処理が行われフレーム8’が生成される。続いて,前記フレーム8’とフレーム9にMaxHold処理が行われ,フレーム9’が生成される。同様の処理はフレーム(2,7,10),フレーム(3,6,11),フレーム(4,5,12)についても行われる。逐次,フレーム(1〜4)にてボリューム像V1,フレーム(5’〜8’)にてV2,フレーム(9’〜12’)にてV3が表示される。これにより,血流をつながり良く三次元的に表示することが可能である。図6は,肝臓腫瘍のX線アンギオ像と4D-MFI像である。4D-MFI像は,さまざまな方向や任意断面にて観察することができる。


図5 4D-MFI(Micro Flow Imaging)
図5 4D-MFI(Micro Flow Imaging)
図6 4D-MFIによる腫瘍像
図6 4D-MFIによる腫瘍像
(画像ご提供:千葉大学・丸山紀史先生)

■ 4D穿刺機能

肝がんへのRFAの適用が増加している。RFA治療用の特殊な針を体外から肝がんへ挿し込み,通電することで,その針の先端部分から熱が発生し,がんを焼灼する治療法である。RFA治療では,対象の肝がん全体をマージンをもって焼灼する必要があり,そのためには,RFA用の穿刺針を適切な位置に,正確に設置して焼灼する必要がある。位置ズレによる焼灼のマージン不足は,がんの遺残部となり再発の原因となる。4D穿刺機能により,肝がんの広がりを三次元的に観察しながら,適切な位置へのRFA針のナビゲーションが可能となる。
PVT-375MVに穿刺アダプタを装着して穿刺を行う際は,画面上に穿刺アダプタに対応した穿刺ラインが表示される。図7は,4D穿刺モードにおけるファントムのMPR表示である。A面に表示された斜めの2本のラインは,穿刺アダプタの穿刺経路に対応したガイドラインである。平行した2本のラインは,穿刺経路の左右5mmに位置している。MPRのB面は,穿刺経路を交線とする直交面である。A面のガイドラインの範囲内で穿刺針が刺入されたとき,B面中央の破線上を進むことになる。そして,C面は,穿刺経路に直交する。4D穿刺モードのMPR表示では,穿刺経路に対する直交3断面が表示されるので,穿刺針の刺入時に周囲組織との関係の把握が容易である。
さらに,図7に示されるように,任意の半径の球面(ターゲットガイド)を表示することが可能で,腫瘍の広がりやRFAの焼灼範囲の目安として利用することができる。図8に,4D穿刺モードにおけるMulti View表示のファントム像を示す。B面のMulti View像(図8 a)は,穿刺経路に平行な断面の並列表示であり,C面のMulti View像(図8 b)は,穿刺経路の深さごとの断面の並列表示である。腫瘍の広がり,周囲臓器や周囲血管の位置,焼灼範囲の評価が容易である。図9は,RFA治療中の4D穿刺モード像である。ガイドラインに沿ってRFA針が刺入され,焼灼されている。ターゲットガイドの球面を目安に,焼灼状況を三次元的に観察することができる。


図7 4D穿刺モードにおけるファントムのMPR表示
図7 4D穿刺モードにおけるファントムのMPR表示

図8 4D穿刺モードにおけるファントムのMulti View表示
図8 4D穿刺モードにおけるファントムのMulti View表示

図9 4D穿刺モードとRFA焼灼像
図9 4D穿刺モードとRFA焼灼像 (画像ご提供:東京医科大学・森安史典先生)

超音波診断装置は,治療支援に最適なモダリティである。4D超音波技術は,肝臓のみならず,乳腺,甲状腺,血管,腹部臓器,子宮,前立腺などさまざまな臓器・疾患への治療支援に役立てることができると思われる。



【問い合わせ先】 超音波事業部 TEL 0287-26-5029