東芝メディカルシステムズ

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Technical Note

2008年4月号
Abdominal Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

CT−東芝におけるCT Colonography技術について

宮谷 美行
CT事業部

わが国におけるマルチスライスCTを使ったCT Colonography(CTC)の臨床応用が本格的に始まった1)。すでに術前診断における深達度評価では,CTCの優位性が確認され2),3),現在では検診を含めたスクリーニングへの応用が始まっている4)。高い消化管画像診断能を誇るわが国においては,adenomaを主な発生機序(Adenoma Carcinoma Sequence)とする欧米のCTCシステムとは異なる発想でのシステム構築が重要と考えている。
本稿では,CTCを行う上で有効とされる16列以上のCT5)を中心に,より細かな病変を描出するための検出器技術,低線量下でも描出能を維持するためのノイズ低減化ソフトウエア技術,そして,1m以上とされる長い大腸を正確かつ効率的に読影するための読影システムについて紹介する。

■ 病変の描出能

高い消化管画像診断能を得るためには,高分解能の画質を得ることと,その分解能がFOVの中心・周辺にかかわらず均一に得られることが重要である。前者については撮影スライス厚が大きく寄与し,より微細な粘膜の変化をとらえるために薄い撮影スライス厚を用いることが求められ,後者については体軸中心から離れた部位を走行する盲腸から下行結腸と,体軸中心付近を走行するS状結腸・直腸が等しい分解能であることが要求される。
東芝は0.5mmという非常に薄い撮影スライス厚を実現しており,病変の描出能や粘膜面の細かな凹凸の描出を向上させている(図1)。また,この性能を最大限に生かすべく,FOVの中心と周辺部との体軸分解能の差が少ない画像再構成法であるTCOT(True COne Beam Reconstruction)を搭載し,全結腸において高い分解能を得ることが可能である。


図1 撮影スライス厚の違いによる病変描出能の変化
図1 撮影スライス厚の違いによる病変描出能の変化
Miyatani, Y., Hirano, Y. : Effects of slice thickness on visualization of the digestive tract using virtual endoscopy. European Congress of Radiology, 2006.

■ 被ばく低減

肝臓などの実質臓器を読影対象とせずに,大腸内腔だけを診断することを前提とした場合,撮影線量を大幅に低減させることが可能であるが,病変の描出能は線量に関係して低下するため6),描出能を維持した撮影条件の最適化が求められる。
東芝は世界に先駆けて,画質を維持しながら被ばく低減を図るという新しい概念「DEI(Dose Efficiency Index)」を提唱し,2003年のJRCにて,DEIの研究発表を行い銅賞を受賞した。この概念を臨床技術に応用したのが量子ノイズ低減フィルタ(以下,量子フィルタ)である。量子フィルタは被写体構造物を認識し,CT値の変化が大きい部分をエッジとして抽出した後,平滑化,先鋭化処理を行うことで量子ノイズの低減を図る。CTCにおける超低線量撮影では,大腸粘膜近傍から毛羽立ちのようなノイズが発生するが,量子フィルタを使用することにより,病変の描出能を劣化させることなくこれらのノイズが低減される(図2)。
また,CTCの前処置緩和を目的として,バリウムなどで標識した残便や残水をソフトウエアで消去するDigital Cleansing法においても,低線量化下でのクレンジングの精度確保に本技術が有効であると考えられる(図3)。


図2 超低線量撮影(5mAs)での量子フィルタの応用
図2 超低線量撮影(5mAs)での量子フィルタの応用
Hirano, Y., Miyatani, Y. : Evaluation of Virtual Endoscopy at Extremely Low Exposure Dose. European Congress of Radiology, 2005.

図3 低線量下におけるDigital Cleansing法の精度維持を目的とした量子フィルタの応用
図3 低線量下におけるDigital Cleansing法の精度維持を目的とした量子フィルタの応用
Miyatani, Y., Hirano, Y., Shichinohe, K., et al. : Effects of X-ray Exposure Dose on Accuracy of Digital Cleansing in CT Colonography. European Congress of Radiology, 2008.

■ 高精度かつ高スループットな画像表示

薄い撮影スライス厚でデータを収集し,緻密な再構成法で処理された画像をより正確かつ効率的に読影するシステムの構築も重要な要素である。
東芝がザイオソフト社と共同開発した大腸画像表示法「VGP(Virtual Gross Pathology)」は,大腸展開画像の問題とされてきた大腸の歪みを仮想バネ法を用いて可能なかぎり排除した(図4)。さらに,VGP画像で病変と指摘された部位を,Virtual Endoscopy画像にMPR像を組み合わせた3D MPR像(図5)で表示することにより,粘膜面以外の情報を加味して診断を行うことができ,死角が多いとされる大腸を効率的に読影することが可能となった7)


図4 VGP再構成手法の違いによる歪みの違い
図4 VGP再構成手法の違いによる歪みの違い

図5 VGP画像と3D MPR像:2型進行がん
図5 VGP画像と3D MPR像:2型進行がん

高い消化管画像診断能を誇る日本を母国とする東芝の,消化管CTの技術開発について紹介させていただいた。より高い診断能,より低線量,そしてより患者さんにやさしいCTC検査を実現すべく,今後も機器メーカーとしてハード・ソフトの両面からのチャレンジを続けていくつもりである。


●参考文献
1) 飯沼 元:国立がんセンターにおけるCT Colonography. INNERVISION, 23・1(Suppl.), 3, 2007.
2) 遠藤俊吾, 工藤進英, 永田浩一・他:3D-CT―CT-enemaを用いた大腸癌の深達度診断. 手術, 58・1, 85?89, 2004.
3) 小泉浩一, 小倉敏裕, 高津一朗:CT Colonographyの現状と展望―大腸ポリープ・癌の描出. 胃と腸, 37, 1395〜1402, 2002.
4) 山崎通尋, 野々垣秀彦, 原 浩二・他:Multi-slice CTを用いた大腸スクリーニング検査の有用性の検討. 日本放射線技術学会誌, 61・6, 852〜860, 2005.
5) 平野雄士, 佐々木一晃, 飯沼 元・他:CTコロノグラフィが有用な検査になるための条件. 新医療, 33・8, 122〜125, 2006.
6) Van Gelder, R.E., et al.:CT colonography;Feasibility of substantial dose reduction―Comparison of medium to very low doses in identical patients. Radiology 232・2, 611〜620, 2004.
7) 田中政道, 唐澤英偉, 宮谷美行・他:VGPを用いた64列MDCTによるCT Colonographyの試み. 日本消化器病学会雑誌, 103, 875, 2006.


【問い合わせ先】 CT事業部