ホーム inNavi Suite東芝メディカルシステムズ別冊付録 新。超音波診断 Vol.2 心エコーの最新動向
心エコーの最新動向
Artida™の先進の壁運動解析技術
川岸哲也(東芝メディカルシステムズ株式会社超音波開発部)
心エコーによる壁運動解析に対する期待は大きい。これまで,Tissue Doppler Imaging(TDI)による壁運動解析が行われてきたが,ドプラの角度依存性により計算されるパラメータや解析できる領域などに制限が存在した。われわれは,TDIに代わる次世代の壁運動解析技術として,超音波画像特有のスペックルパターンに着目したスペックルトラッキングを研究開発し,臨床での評価を繰り返してきた。そして今回,研究結果を臨床からのフィードバックも踏まえて製品化し,Artida上に「Wall Motion Tracking」として搭載した。
本稿では,スペックルトラッキングの基本原理と特徴,壁運動パラメータが,どのようにしてトラッキング結果から求められるかを説明する。また,数値モデルによる検証と,これまでのバリデーション評価結果について報告し,臨床適用例についても紹介する。最後に,世界初の三次元解析技術について報告する。
Wall Motion Tracking(WMT)の原理
WMTでは,局所的な心筋の動きを解析することができる。WMTのベースはスペックルトラッキングであり,パターンマッチング技術を超音波動画像に応用したものである。スペックルトラッキングでは,開始フレームで動きを解析する部分にテンプレート画像を設定する。テンプレート画像部分の局所領域が次のフレームでどこに移動したかを,テンプレート画像のスペックルパターンが最もマッチする領域を次のフレームで探索することにより推定する(図1)。
解析したい関心領域のすべてにわたってこの推定を実施すると,2つのフレーム間での心筋の動きを追随することができる。さらに,この処理を連続するフレーム間で繰り返していけば,時間とともに変化する局所の組織の位置を追跡することが可能である。
以上のように,スペックルトラッキングはBモード画像をデータ画像として使用し,ドプラ情報を用いないため,従来のTDIのような組織の動きと超音波ビームがなす角度に依存した制限がない。二次元画像を利用したスペックルトラッキングを,以降2D Tracking(2DT)と呼ぶ。
図1 スペックルトラッキング
2DTracking(2DT)によるストレインの計算とパラメトリックイメージング
ストレインとは,2点間の伸び縮みを表す指標である。速度や変位のように心臓全体の動きの影響を受けないため,局所の壁運動の評価に適していることが広く知られている。
2DTでは,基準とするフレームで,ストレインを計算する方向に2点のペアが設定される。このペアが連続する画像中でどのように動いたかを求め,定義した方向の距離変化成分を抽出し,基準フレームでのペア間の距離で規格化することによりストレインを求める(図2)。
短軸画像では,図3に示したように,内膜に垂直な壁厚方向のradial strain, 円周方向のcircumferential strainを計算することができる。また,2DTではストレインに限らず,回転を表すrotationも同時に求めることができる。一方,心尖アプローチの2ch,3ch,4ch画像では,図4に示すように,内膜に垂直な壁厚方向のtransversal strain, 長軸方向のlongitudinal strainを求めることができる。
こうしたストレインやrotationの値はカラーコード化され,パラメトリックイメージングとして心筋のBモード像に重畳して表示することが可能である。図5に,実際の2DTによるストレイン解析・表示例を示した。また,ASE,AHAで定められているセグメントごとの各パラメータの平均値についての時間変化をグラフ表示することも可能である。
さらにWMTでは,後述するようにストレインなどの最大値到達時間をカラーコード化して表示する機能“Dyssynchrony Imaging(DI)”も備えている。表1に,WMTで求めることができるパラメータとDI表示可能なパラメータをまとめた。
図2 スペックルトラッキングによるストレインの計算
図3 短軸画像で定義されている壁運動パラメータ |
図4 心尖二腔,三腔,四腔画像で定義されている壁運動パラメータ |
図5 パラメトリックイメージングとグラフ表示(radial strain)
表1 WMTによって計算される壁運動パラメータ
数値モデルによる検証とこれまでのバリデーション評価
2DTは,これまでの壁運動解析と非常に良好な相関を示すことが確認されており1),われわれは数値モデルを使った検証も実施し2),パラメータ計算の精度について確認した(図6)。さらに,MRIのタギングとの比較によるバリデーション評価を実施中であり,図7にこれまでの結果を示した。2DTがMRIと良好な相関を示していることがわかる。
図6 二次元数値モデルによる検証
図7 2DTとMRIタギングとの相関
10ボランティアの60セグメントを解析(画像ご提供:筑波大学・瀬尾由広先生)
臨床応用
WMTの臨床応用はさまざまなものが考えられるが,最も強く期待されているものとして,心筋虚血の検出3)と,cardiac resynchronization therapy(CRT),4)への応用が考えられる。虚血については前稿で詳しく述べられているので,ここではCRTのためのdyssynchrony評価について紹介する。
図8は,左脚ブロック(LBBB)症例に対する2DTの適用結果であり,収縮拡張運動のdyssynchronyを評価することができる。さらに,専用のパラメトリックイメージングとして,ストレインなどの壁運動パラメータが最大値に到達する時間をカラーコード化することができる(図9)。健常例(図10 a)に適用すれば,左室全体にわたって同一色(緑)で色付けされ,収縮のピークが同期していることが示される。一方,LBBBへの適用結果(図10 b)では,収縮早期では中隔の異常な早期収縮が青色で示され,収縮末期から拡張期にかけては,中隔の遅れた再度の収縮の動きが赤色として示されている。壁運動のdyssynchronyが明瞭に示されているのがわかる。
図8 LBBBでのストレイン解析結果
(画像ご提供:筑波大学・瀬尾由広先生)
図9 タイミングのカラーコード化
図10 スペックルトラッキングによるDyssynchrony Imaging(画像ご提供:筑波大学・瀬尾由広先生)
三次元の壁運動解析
以上のように,2DTは臨床応用も確立され始めており,ルーチンも含めて臨床に浸透していくと期待される。一方,心臓の動きは三次元であり,三次元的な動きそのものを評価すべきであるとの臨床ニーズは強い。われわれは,このニーズに直接応えるべく,Artidaで三次元画像データを用いる3D Tracking(3DT)を開発した。3DTでは,テンプレート画像として二次元画像ではなく立方体画像を使用する。2DTと同様に,この立方体テンプレートが次の三次元画像中のどの部分の三次元スペックルパターンと最もマッチするかを三次元的に探索し,局所の三次元的な動きを求める(図11)。この三次元画像マッチングを全空間について実施し,全時系列データにわたって繰り返すことにより,局所的な三次元運動解析を心臓全体にわたって実施することが可能となった。3DTの基本原理はトラッキング技術の二次元から三次元への拡張であるが,このとき指数関数的な計算時間の増大が起こる。われわれは,Artidaの新プラットフォームSmartCore Engineを用いることにより,3DTの計算時間を1心拍あたり10秒未満にまで短縮し,実臨床で使用可能な性能を実現した。
これらの方法を用いることにより,2Dエコーで収縮異常を認めない症例においても心筋虚血を診断可能であり,胸痛患者の診断において非常に有用な方法と考えられる。
図11 三次元画像での三次元スペックルトラッキング
3DTのパラメトリックイメージング
3DTでは,1つの三次元画像からストレインなどのすべての壁運動パラメータを左室全体について一度に求めることが可能であり,2DTと同様に数値モデルを使用して精度を検証した5)(図12)。 二次元画像を使用して計算されたtorsionでは,複数の短軸画像間の距離を正確に計測するのが困難であり,なおかつ,同一心拍の画像を用いることができないなどの原理的な制限があった。しかし,3DTではこういった制限なく,アルゴリズム内部で各短軸断面のrotationと断面間の距離を同時に求めtorsionを計算することが可能である。
さらに,3DTではパラメータを求める際の自由度が広がった。図13のように,最初にradial方向に設定したペアが,心臓の動きとともに三次元的に方向を変えながら伸縮するストレインを求めることが可能であり,これを3D strain機能として実装した。
図14に,実際の3DTによる壁運動の解析例を示した。3DTでは,さまざまな壁運動パラメータを,目的に応じて異なる種類のパラメトリックイメージング(ワイヤーフレーム,モーションベクター,ポーラーマップ,MPR)で表示することが可能である。
図12 三次元画像中のストレイン
図13 三次元画像中の壁運動パラメータ
図14 3Dトラッキングによるパラメトリックイメージング
おわりに
2DTと3DTは,角度依存性のない新しい壁運動解析として臨床に浸透していくものと期待される。これらは,通常のBモード画像をデータとして扱うため,安定性を保つには画質そのものが非常に重要である。Artidaの新映像技術による高画質をベースにしたWMTが,より客観的な診断に貢献していくと期待する。
●参考文献 | |
1) | Ogawa, K., Hozumi, T., Sugioka, K., et al. : Usefulness of automated quantitation of regional left ventricular wall motion by a novel method of two-dimensional echocardiographic tracking. Am. J. Cardiol., 98・11, 1531〜1537, 2006. |
2) | Ohuchi, H., Abe, Y., Kawagishi, T., et al. : Accurate myocardial tracking to assess transmural strain gradient using new 2D speckle tracking system. 日本超音波学会誌, 2008(inpress). |
3) | Ishii, K., Sakurai, T., Kataoka, K., et al. : Detection of postischemic regional left ventricular diastolic dyssynchrony after exercise-induced ischemia in patients with stable effort angina by using strain image derived from 2D speckle tracking. J. Am. Soc. Echocardiogr., 20・5, 561, 2007. |
4) | Tanabe, M., Suffoletto, M. S., Pinsky, M. R., et al : Validation of novel echocardiographic speckle tracking radial strain to assess ventricular dyssynchrony ; Comparison with angle corrected tissue doppler strain imaging. J. Am. Coll. Cardiol., 49・9, 806〜808, 100A, 2007. |
5) | Abe, Y., Kawagishi, Y., Ohuchi, H., et al. : Accurate detection of regional contraction using novel 3-dimensional speckle tracking technique. J. Am. Col. Cardiol., 50・10, A116, 2008. |