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ホーム の中の inNavi Suiteの中の 東芝メディカルシステムズの中の Seminar Reportの中の脳卒中診療における脳SPECT/PETの活用と課題  黒田  敏 北海道大学医学研究科脳神経外科診療准教授

Seminar Report

第51回日本核医学会学術総会,第31回日本核医学技術学会総会学術大会 ランチョンセミナー9
脳神経外科医が必要とする 脳血流SPECT画像とは

第51回日本核医学会学術総会,第31回日本核医学技術学会総会学術大会,第5回日中韓核医学会議が2011年10月27日(木)〜29日(土)の3日間,つくば国際会議場(つくば市)にて開催された。29日に行われた東芝メディカルシステムズ(株)共催のランチョンセミナー9では,岩手医科大学脳神経外科学講座の小笠原邦昭氏が座長を務め,札幌麻生脳神経外科病院放射線科の小倉利幸氏と,北海道大学医学研究科脳神経外科の黒田敏氏が講演した。

脳卒中診療における脳SPECT/PETの活用と課題

黒田 敏(北海道大学医学研究科脳神経外科診療准教授)

黒田  敏 北海道大学医学研究科脳神経外科診療准教授
黒田  敏
1986年北海道大学医学部卒業後,同大学病院脳神経外科。89年国立循環器病センター脳神経外科。95年スウェーデン・ルンド大学研究員。98年北海道大学病院脳神経外科助手,2005年同講師を経て,2008年より現職。

SPECTやPETは,CTやMRIなどの形態学的な画像情報では知ることのできない病態を,客観的に評価可能な手法である。患者の予後の正確な判断や的確な治療方針の決定,周術期の合併症予防や治療の安全性の向上にも役立っている。本講演では,脳卒中診療におけるSPECT/PETの活用と課題について述べる。

■脳卒中診療におけるSPECT/PET

脳卒中診療において,脳神経外科医がSPECT/PETに求めるのは,高い解像度と高い定量性の両立であるが,特に定量性,再現性に優れていることが重要である。われわれは主に,内頸動脈や中大脳動脈などの閉塞性脳血管疾患のバイパス術(STA-MCAバイパス術)や,内頸動脈狭窄症における内膜剥離術(CEA)およびステント留置術(CAS),もやもや病におけるSTA-MCA anastomosis & Indirect bypassなどの際に,SPECT/PETを施行している。
当院におけるSPECT/PET診断プロトコールは次の通りである。術前に,まずは123I-IMP SPECTにて安静時の血流測定を行う。安静時血流が低下している患者の場合,ダイアモックス負荷テストは必須ではないと考えているため,負荷試験は別の日に施行する。また,安静時の15O-gas PETを施行する。一方,バイパス術やCEAの術後は99mTc-HMPAOまたは123I-IMP SPECTによる定性検査を,手術当日,2日後,7日後に施行している。

■SPECTによる脳血行不全の検出 ─ ダイアモックス負荷テスト

ダイアモックス負荷テストにおける病型分類は,脳血流量(CBF)が正常で血管反応性(CVR)も正常な状態をType1,CVRのみが低下している状態をType2,両者が低下している状態をType3,CBFは低下しているがCVRが維持されている状態をType4としている。Type3が最も重篤で,放置すると,内科的治療だけでは脳卒中の再発防止がきわめて困難であり,多くの研究で予後が非常に悪いと報告されている。
症例1は,60歳,女性で,右内頸動脈閉塞症例である。PETでは,CBF,ダイアモックス反応性ともに低下しているが,脳血液量(CBV),脳酸素摂取率(OEF)は上昇していた(図1)。STA-MCAバイパス術を施行したところ,術後のSPECTでもCBFの安定が認められた(図2)。
こうした症例を,NEURO FLEXERなどのソフトウェアで解析すると,CVRの低下部位が確認できる。ただし,実臨床では,元画像にて安静時およびダイアモックス負荷時のCBFを確認することは必須である。
また,脳血管障害では,患者によって側副血行路の発達程度がさまざまであるため,標準脳にデータを当てはめて統計学的な手法をとらなくてもよいと考え,KUROCAS(Kuroda's Type Categorizing Software)を開発した。正常なCBFや脳血管抵抗(CVR)を入力し,色付けも自由に可能である(図3)。

図1 症例1:右内頸動脈閉塞(60歳,女性)の術前PET画像
図1 症例1:右内頸動脈閉塞(60歳,女性)の術前PET画像
図2 症例1の術後SPECT画像
図2 症例1の術後SPECT画像
図3  KUROCASの画像例(画像ご提供:札幌麻生脳神経外科病院・小倉利幸先生)
図3  KUROCASの画像例
(画像ご提供:札幌麻生脳神経外科病院・小倉利幸先生)
 

■内頸動脈狭窄症をめぐる脳循環代謝

図4 症例2:内頸動脈高度狭窄(78歳,男性)のSPECTおよびPET画像
図4 症例2:内頸動脈高度狭窄(78歳,男性)のSPECTおよびPET画像

図5 症例3:弓部大動脈瘤術後(81歳,男性)のSPECTおよびPET画像
図5 症例3:弓部大動脈瘤術後(81歳,男性)のSPECTおよびPET画像

図6 症例3の術後過灌流のSPECT画像
図6 症例3の術後過灌流のSPECT画像

図7 症例4:もやもや病(12歳,男児)のSPECT画像
図7 症例4:もやもや病(12歳,男児)のSPECT画像

症例2は,78歳,男性で,内頸動脈に高度狭窄が認められ,CBF/CVRは低下,PETではOEFが上昇していた(図4)。
このような症例がどの程度の割合で存在するのかを調べるため,当院と札幌麻生脳神経外科病院における1998〜2009年のデータを調べたところ,CBF/CVRの低下や,OEFの上昇が見られる症例は,症候性の内頸動脈狭窄症の約2割であった。つまり,残りの8割がTIAや脳梗塞を発症した理由は,おそらく狭窄部のプラークからの塞栓症と考えられる。一方,無症候性の場合は,脳循環代謝が悪化している例は,わずか2%であった。

■CEA/CAS後の過灌流

最近,周術期の合併症として注目されているのが,CEAやCAS後の過灌流の問題である。岩手医科大学脳神経外科学講座の小笠原邦昭氏が,全国の4500例を対象に調査を行った結果,過灌流症候群は1.4%であった。画像上,過灌流を認めるが神経症状を呈さない非症候性過灌流症例を含めると,さらに症例数が増えると考えられる。実際に脳内出血を起こす患者も0.6%おり,致死的な合併症のため注意が必要である。
症例3は,81歳,男性で,弓部大動脈瘤の術後,慢性腎不全,大動脈弁狭窄症など多くの合併症があり,頻回の失神発作,右不全片麻痺,失語症により緊急入院となった。複数の脳梗塞と高度狭窄が認められ,ヘパリンの持続投与を行ったが,改善が見られなかった。123I-IMP SPECTと15O-gas PETにて,非常に高度なCBFの低下とOEFの上昇が認められたため(図5),緊急的にCEAを施行した。術後SPECTにて強い過灌流を認めたが,幸い症候化することなく,3日後にはCBFが正常化した(図6)。
過灌流の因子については多くの研究が行われており,CVRやOEFなどの因子が報告されている。一方,当院における過去3年間の過灌流の因子を調べたところ,画像上の過灌流は約3割の患者に発生していた。術前SPECTでType3の症例,中でもOEFが上昇している症例では,過灌流の頻度がきわめて高かった。

■もやもや病の脳循環代謝とバイパス手術

もやもや病は,前頭部の虚血が強く,CBF/CVRの低下,CBVの上昇などが特徴的である。非常に重篤な虚血がある場合は,症状を頻回に繰り返す患者も多く,そのような場合にSPECTが非常に威力を発揮する。また,小児のもやもや病では,頭痛を伴うことが多いため,脳循環動態との関係を調べたところ,29例中11例(38%)に頭痛が認められ,頭痛の局在に一致してCBF/CVRの低下が認められた。STA-MCA anatomosis + EDMAPS(encephalo-duro-myo-arterio-pericranial synangiosis)後は,全例で頭痛が消失した。
症例4は,もやもや病の12歳,男児で,左上下肢の不随意運動と頻回に生じる右前頭部痛で発症した。STA-MCA anatomosis + EDMAPS後に頭痛は消失したが,4か月後に今度は左前頭部痛を訴え,SPECTにて血管の狭窄と虚血が認められた。そこで,左のSTA-MCA anatomosis + EDMAPSを施行したところ,頭痛は消失した(図7)。
もやもや病においても,術後過灌流症候群はトピックスとなっている。成人では,症候性,無症候性の計約6割に過灌流が起こるが,小児の場合は計約2割と少ないことが特徴である。また,PET検査を施行したところ,術前にCBVが上昇している領域で過灌流を起こしやすいことがわかった。さらに,当院では術後に3回のSPECT撮像を行っているが,それを見ると,症候性の場合は,手術直後から過灌流を呈することが多く,その後消失することもわかってきた。

■まとめ

脳SPECT/PETから得られる所見は,各症例における病態の把握にとどまらず,治療方針の決定や周術期管理に多大な影響を及ぼすことを認識し,いま一度,脳血流測定法や脳循環代謝の基礎知識を整理しておくことが重要である。

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