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Seminar Report

第20回日本乳癌検診学会総会ランチョンセミナー2

第20回日本乳癌検診学会総会が2010年11月19日(金),20日(土)の2日間,福岡国際会議場にて開催された。19日に行われた東芝メディカルシステムズ(株)共催のランチョンセミナー2では,筑波大学医学部放射線科の東野英利子氏が座長を務め,癌研究会有明病院乳腺センターの何森亜由美氏が,高分解能超音波による乳がん診断をテーマに講演した。

乳癌画像診断:高分解能エコーでみえてくるもの─それをどう診断するか

何森 亜由美(財団法人癌研究会有明病院乳腺センター外科)

何森 亜由美
何森 亜由美
(Izumori Ayumi)
1995年香川大学医学部卒業,高松平和病院外科勤務(一般消化器外科)。出産を機に,乳腺外科医へと転身。2005年たけべ乳腺クリニック常勤医を経て,2010年より現職。

乳房の超音波画像では,白と黒の縞模様が雲の流れのように見えるが,その流れを目で追っていくと,模様が途切れたり規則性が乱れているところに病変が見つかることがある。また最近では,高分解能超音波の登場により,構造物のより詳細な観察が可能となった。本講演では,超音波診断装置「Aplio XG」(東芝社製)とプローブ「PLT-1204BX」を用いて撮影した超音波画像と病理組織像との対比から,乳腺の正常構造への理解を深め,その上で,乳がんの早期発見に役立つ観察法について述べる。

非腫瘤性病変の早期発見に役立つ超音波による乳腺構造観察法

乳がん検診にあたり,以前はメカニカルセクタ方式の10MHzの超音波診断装置を使用していたが,当時でも3〜5mm程度の非浸潤性乳管癌(DCIS)や浸潤癌を見つけることは可能であった。しかし,乳腺外科を志してから3年目,乳腺症と診断した症例が,1年後にDCISであったことが判明し,乳房全摘再建術となった例を経験した(図1)。小さくても腫瘤性病変であれば検出は可能だが,非腫瘤性病変は低エコーを呈し,ある程度の厚みを持たないと検出が困難であった。そこで,非腫瘤性病変をできるかぎり小さいうちに検出することをめざし,さまざまな症例を観察した結果,正常乳腺の雲のように流れる縞模様を目で追っていくと,小さな非腫瘤性病変でも,その規則性が乱れたところで見つけられるのではないかと考えるようになった(図2)。しかも,高分解能超音波では乳腺の正常構造がよりクリアに見えることから,この観察法の有効性がより発揮されていると実感している。

図1  乳腺症と診断した症例が,1年後にDCISと判明した例
図1 乳腺症と診断した症例が,1年後にDCISと判明した例

図2 超音波で見る乳腺の縞模様と腫瘤のイメージ
図2 超音波で見る乳腺の縞模様と腫瘤のイメージ

正常乳腺の解剖の理解

一方,正常構造をしっかりと目で追うためには,正常乳腺が超音波画像でどのように描出されるかを理解している必要がある。そこで,超音波で描出される縞模様と病理組織像との対比を行った。

●病理組織像で見る正常構造

図3の乳腺の超音波画像では,乳頭の下にDCISが低エコーとして描出されており,乳腺の末梢に線維腺腫が認められる。その間にある縞模様については,以前は拡張した乳管,あるいは主乳管,小葉,終末細乳管が低エコーに描出されたものであるとされていた。しかし,切り出し方向をそろえた病理組織像と対応させてみると,同じような径のあるそれらの構造物はどこにも認められなかった。
そこで,超音波で描出される縞模様が何を見ているのかを,複数症例の病理組織像を比較して確認した。まず,病理組織像の正常構造(図4 a)と別の例(図4 b)とを比較すると,どちらも乳管と小葉の周囲をHE染色で濃いピンクに染まる間質,つまり,膠原線維が密な間質が取り巻いていることがわかった。一方,薄いピンクの部分は,浮腫状で膠原線維が疎な間質ということになる。つまり,乳房の構造は,小葉や乳管を支える膠原線維が密な間質と,乳房を支える膠原線維が疎の間質で成り立っていると言える。
これを年代別に見ると,年代が上がるに従って浮腫状で膠原線維が疎な間質が徐々に脂肪(白い部分)に置き換わるが,小葉や乳管を支える膠原線維が密な間質は最後まで残ることがわかった(図5)。

図3 DCIS症例における超音波画像と病理組織像の比較
図3 DCIS症例における超音波画像と病理組織像の比較

図4 乳腺の正常構造の病理組織像(a)と別の例(b)との比較 間質部は,「膠原線維が密な濃いピンク」と「浮腫状で膠原線維が疎な薄いピンク」の2種類に分けられる。
図4 乳腺の正常構造の病理組織像(a)と別の例(b)との比較
間質部は,「膠原線維が密な濃いピンク」と「浮腫状で膠原線維が疎な薄いピンク」の2種類に分けられる。

図5 膠原線維が疎な間質部(薄いピンク)の年代別変化
図5 膠原線維が疎な間質部(薄いピンク)の年代別変化

●超音波画像と病理組織像の比較

次に,病理組織像のピンクの濃淡が,超音波のグレースケールの階調でどのように描出されるかを,まず乳がん症例で比較した。すると,小葉とその周囲の膠原線維の密な間質および乳管は脂肪と同じ等エコー,間の膠原線維の疎な間質は高エコー,拡張乳管は低エコーとなることがわかった(図6)。がんの部分では,乳管周囲の間質はがんに反応して増生するため,それによって豹紋が見えているように思われる。しかし,がんのない部分と対応させても,乳管・小葉周囲の密な間質と浮腫状の間質の部分が縞模様を描いていることがわかる。
また,図7では,超音波で乳頭方向に向かって一見乳管内進展を思わせるグレーの帯状のものが見えるが,病理組織像ではがんは限局しており,低エコーの部分は小葉と乳管周囲の間質であると理解できる。

図6 超音波画像と病理組織像の比較(41歳)
図6 超音波画像と病理組織像の比較(41歳)

図7 超音波画像と病理組織像の比較(42歳)
図7 超音波画像と病理組織像の比較(42歳)

●腺葉立体構造(図8)

上記を踏まえて,等エコーの構造物の流れを追いながら病変を見つけていくが,縞模様の正常な流れを理解するためには,腺葉構造の立体的理解が必要である。
腺葉構造については,J. J. Goingが2004年にJournal of Pathology(203, 538〜544, 2004.)に発表した論文に,乳管から樹脂を流し込んで作った乳管のモデルが掲載されている。それによると,腺葉は小さいものや広範囲に広がっているものなど,実にさまざまな形態があり,広がりのある部分では,ある程度重なって存在している。図8 aはその模式図だが,乳管は乳頭に向かって流れ,しかも所々重なっている。超音波ではこれを横から見るが,その重なった部分をごく細い白いラインとして確認できることがある(図9)。その部分を拡大すると,肺や肝臓の構造と同様に細い脈管が並んでおり,これが腺葉の境界面を見つけるポイントとなる。
乳腺の構造に対する従来のイメージは,真ん中に主乳管が走っており,そこからほぼ均等に枝が出て乳房を構成するというものであったと思われる。ところが,実際の乳房をよく見ると,真ん中は主乳管ではなく,上の腺葉と下の腺葉が重なっている境界面であると考えられる(図10)。実際の構造がそうであるかはまだ証明されていないが,超音波で観察する際には,腺葉は境界面に向かって流れており,主乳管は境界面に寄り添うようにあるというイメージで見ると境界部がわかりやすく,また,正常構造の流れが把握しやすい。つまり,等エコーな構造物の流れには規則性があることを理解した上で(図8),乳頭方向と境界方向という2つの流れやリズム感を追いながら正常乳腺構造を見ることが重要である。

図8 腺葉立体構造と等エコー構造物の規則性を表す模式図
図8 腺葉立体構造と等エコー構造物の規則性を表す模式図

図9 腺葉境界面の超音波画像と組織像の対比,模式図
図9 腺葉境界面の超音波画像と組織像の対比,模式図

図10  主乳管と腺葉の境界面のイメージ
図10 主乳管と腺葉の境界面のイメージ

高分解能超音波と最先端アプリケーション

高分解能超音波の登場により,乳腺の構造物が従来よりも明瞭に観察可能となったが,実際にどの程度視認性が向上したかを確認するため,モデルを作成して検証した。図11は,硬癌の標本を白黒反転し,高分解能超音波における生体での推定距離分解能0.2mmのピクセルに区切ったものである。さらにスムージング処理をかけた。メカニカルセクタのモデルと比べると,辺縁もきれいに描出され,周囲の結合織も十分に表現できる分解能を有していることがわかる。
また,背景に太い径の低エコーを持たない石灰化も,高分解能超音波ではBモードで明瞭に描出されるようになったが,東芝メディカルシステムズ社の最先端の臨床アプリケーションである“Micro Pure”では,周辺組織を青く色づけすることで,石灰化がより白く強調して描出されるようになった(図12)。現在,MicroPureの改良が進められており,結合織のアーチファクトが軽減される予定だという。

図11 高分解能超音波の分解能についての考え方モデル
図11 高分解能超音波の分解能についての考え方モデル
図12  微小石灰化の視認性向上に有用な最先端の 臨床アプリケーション“MicroPure”
図12 微小石灰化の視認性向上に有用な最先端の
臨床アプリケーション“MicroPure”

間質と腺葉立体構造を利用した観察のポイント

間質と腺葉立体構造を利用した観察法は,非常にシンプルな方法であり,等エコー構造物を目で追っていくだけである。その際,注目すべきポイントが2つある。1つは“途絶え”で,腫瘤性病変がある場所では,等エコー構造が急に途絶えるように見えることがある。もう 1つは“乱れ”で,非腫瘤性病変がある場所では,等エコー構造の流れが乳頭方向と境界方向という2つの規則性から急に外れて斜めや垂直方向に乱れ,等エコー構造部が太くなる,あるいは密度が変わったり,構築が乱れることがある。

●症例提示

図13は,マンモグラフィでは良性の石灰化が認められ,超音波スクリーニングでの発見例である。等エコー構造物は乳頭を越えたところで横長から徐々に小さな丸となって消えていくはずが,病変の部分ではまた太くなって違う方向に向かう流れとなっていた。病理検査の結果,DCISであったが,超音波画像を見てみると,等エコーの部分に太くなったり,癒合しているところがあり,確実に拾い上げることが可能な病変であると言える。

図13 等エコー構造の乱れで検出された症例(41歳)
図13 等エコー構造の乱れで検出された症例(41歳)

●正常構造の見分け方

このように,乳腺は均一ではなく,さまざまな性状のバリエーションがあるが,すべてを精査することは困難であり,正常かどうかの見極めが重要となる。
そこで,正常構造と判断するポイントとして,(1) 腺葉の太さには偏りがあり,1つの腺葉範囲内が太めになることがある,(2) 小葉が末梢に密集し,分布が偏ることがある,(3) 腺葉の境界部には急な角度がつくなど流れが変わることがあるが,単に境界部分であって等エコーのパターンの乱れではない,等が挙げられる。
図14〜16は,経過観察としてよい病変と精査が必要な病変の,超音波画像と模式図である。等エコーな腫瘤性病変においても非腫瘤性病変と同様に,一斉に同じような流れで変化しているものは正常だが,がんの場合は逸脱し,パターンが乱れている。ただし,静止画で判別することは困難であり,リアルタイムで立体的に判断する必要がある。また,図15,16のようなパターンの乱れを見つけるためには,ある程度のグレースケールの分解能が必要となる。
この観察方法は私のオリジナルだが,汎用性があるかどうかを検証するため,現在,癌研究会有明病院で前向き試験の準備を行っている。

図14 超音波の縞模様から精査の必要性を判断するポイント
図14 超音波の縞模様から精査の必要性を判断するポイント
図15  等エコーな腫瘤性病変において精査の必要性を判断するポイント
図15 等エコーな腫瘤性病変において精査の必要性を判断するポイント
図16 distortion病変における動きやパターンの乱れ
図16 distortion病変における動きやパターンの乱れ
 

まとめ

間質と腺葉立体構造を利用した観察により,乳腺の正常構造を知ることは,きわめて重要であり,その意味で,無駄な検査は1例もないと言える。所見のない例は,そのすべてが正常構造を教えてくれる教科書であり,正常構造のバリエーションを1つでも多く覚えることが,次の鑑別診断や精査手技につながっていくと考えている。

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