シーメンス・ジャパン株式会社

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Technical Note

2011年4月号
Cardiac Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

MRI−循環器領域におけるシーメンスMRの技術─製品から今後の展望まで

村田勝俊
イメージング&セラピー事業本部
リサーチ&コラボレーション部

循環器領域のMR検査には克服しなければならないさまざまな課題がある。周期的な拍動,準周期的な呼吸の動き,胸部に内因的に存在する磁場の不均一,いずれもMR検査にとっては難題となる。また,臨床,検査だけではなく,適切な後処理も必要なため,循環器領域のMRIに携わる先生方には多くの知識と経験が必要とされ難解な検査として位置づけられていることも否めない。一方,解剖学的な画像だけではなく,壁運動,血流動態,パーフュージョン,遅延造影など多くの情報が得られるMRIには大きな期待が寄せられている。このような環境の中,ドイツ・シーメンスは循環器領域のMR検査をより普及させるため多くの技術を開発してきた。本稿ではハードウェア,ワークフロー,今後の展望としての後処理ソフトウェア,そして研究段階である新しい再構成法について紹介する。

■Cardiac Shim, Frequency Scout

胸部では,肺(空気)と実質の境界にある磁気感受率の差により磁場の不均一が生じる。磁気感受率の影響は静磁場強度に比例するため,3.0Tにおいて顕著に発現し,磁場の不均一の補正は必須となる。通常,被検者が入ることによって生じる磁場の不均一は,すべての検査においてアクティブシムにより被検者ごとに調整される。シーメンスでは,心臓検査においては関心領域を指定することにより,より限局して磁場の均一性を最適化するモード,Cardiac Shimを準備している(図1)。また,撮像時間が短いこと,SNに優れることなどからTrueFISP(SSFP)をベースとしたシーケンスが多用されているが,このシーケンスは磁場の不均一にきわめて鋭敏である。このため特有のバンディングアーチファクトが生じることがあるが,このアーチファクトが関心領域にかからないように共鳴周波数をわずかに変化させることにより,その位置をずらす必要がある。Frequency Scoutでは,複数の周波数差を持つ画像を事前に撮像し,被検者ごとに異なる周波数差を容易に検索することが可能となっている。

図1 標準ShimとCardiac Shim後の画像比較(TrueFISP) 心臓検査に特化したCardiac Shim(b)では心腔内がより均一に描出されている。
図1 標準ShimとCardiac Shim後の画像比較(TrueFISP)
心臓検査に特化したCardiac Shim(b)では心腔内がより均一に描出されている。

■Cardiac Dotエンジン

Dot(Daily Optimizing Throughput)は,シーメンスが提案するワークフロー改善のソリューションである。MR検査が多様化する現在,施設の要請,被検者の体格,容態などさまざまな状況に応じてパラメータを変更する必要がある。複雑なパラメータを持つMR検査において,瞬時にこれらを最適化するためには豊富な知識と経験が必要となる。Dotエンジンは,各種判断基準となる患者情報を入力することにより,事前に設定された論理に応じて最適化されたプロトコルを自動的に呼び出し,パラメータを変更する新しい機能である。Cardiac Dotエンジンは,循環器MR検査に特化したDotエンジンである。Cardiac Dotエンジンでは一連の検査開始前に,検査手法の選択(Segmented/Real Time)や,その被検者の息止め可能時間を入力することにより,その後一連の検査における1呼吸停止あたりのスライス枚数,繰り返し検査数などが提案される。また,容易に判断できる解剖学的ランドマークを指定することにより,長軸,Two, Three, Four Chamber Viewの自動設定および心臓サイズを判定し,その後の検査スライス枚数を自動的に設定する。解剖学的ランドマークの指定においても視覚的なガイド機能を備え,迷うことなく必要なポイントを指定できるような設計となっている。このように従来,個々の操作者がその経験をもとに判断していた内容を,システムがガイド,提案したものを確認するというフローにすることにより,操作時間の短縮,人為的ミス=リスクの回避,検査の均質化を図ることができる。

■4D Flow

従来もPC CINE法による流速測定は行われていたが,4D Flowは3D PC CINEのデータをより明瞭に可視化するものである1)。従来はPC画像のコントラストそのものを観察,もしくはグラフプロットをすることにより流速を観測していたが,4D Flowでは血管内に置いた仮想粒子とその軌跡=流線により,血流の動態を3次元+時間軸=4次元で観察することができる(図2)。複数の色の仮想粒子を設定することにより,血管内で渦巻くVortex Flowなども観察ができる点が従来の手法とは大きく異なる点である。2011年のSCMR(Society for Cardiovascular Magnetic Resonance)では,本法を使用し,血管壁にかかる剪断応力分布から動脈解離を予測するといった研究も発表されている2)。本アプリケーションはまだ研究的な段階ではあるが,今後リアルタイムに血流方向を観測できるドップラーエコーと相補して発展し,今後の循環器領域のMR検査に大きく貢献しうる手法であると思われる。

図2 4D Flowでの出力画像例 仮想粒子の流れを示す流線像(a),およびその情報から壁にかかる剪断応力分布が計算されている(b)。
図2 4D Flowでの出力画像例
仮想粒子の流れを示す流線像(a),およびその情報から壁にかかる剪断応力分布が計算されている(b)。

■Compressed Sensing

心臓のMR検査では,被写体が動いているということから空間分解能だけでなく,高い時間分解能も求められる。このため,いかに高速にデータを収集するか,もしくは少ないデータ量で画像を再構成するか,という命題を常に突き付けられている。これまで,傾斜磁場強度,スリューレートの向上,k-space Sharingやパラレルイメージングにより,飛躍的に撮像時間が短縮されてきた。Compressed Sensingは,さらなる高速撮像につながる画像再構成法であり,現在注目を集めている技術である。
Compressed Sensingの数学的な理論は,2006年にCandes,Donohoらにより発表されている3),4)。本法はSparse(疎)なデータサンプリングから解(画像)を求める手法である。通常,求める変数以上のサンプル数がなければ解は求まらないが,Compressed Sensingでは,解が疎である,求める画像に境界(大きく数値が変化する場所)が少ない,などの仮定をもとに,l1 Norm最小値化法という数学的手法を用いて逐次的に画像を再構成する。現在MRで用いられている画像再構成法では,一般にデータ量が減ると空間分解能が低下してしまうが,本法ではコントラストが高い場合,空間分解能が十分に維持されるという特徴があり,コントラスト分解能が高いMRIに適合した方法と言える。さらに受信,送信系のハードの追加なしに,数十といったReduction Factorを得ることができ,CINE撮像では20msという時間分解能も得ることができている5)図3)。これは50fpsに相当し,血管撮像装置にも引けをとらない時間分解能である。ただし,現状,計算時間が膨大となるため,再構成システムの開発や新しいアルゴリズムの開発が行われている。

図3 Compressed SensingによるCINE画像 (R:Reduction Factor)
図3 Compressed SensingによるCINE画像
(R:Reduction Factor)

循環器領域におけるMRIに課せられた要求を解決するためには,多くの克服すべき技術的障壁があり,さらなる発展を続けなければならない。本稿で紹介した技術,ソフトウェアはシーメンスの取り組みの一部ではあるが,これらのソリューションが循環器領域のMR検査の普及の一助になれば幸いである。

●参考文献
1) Markl, M. : JCAT, 2004.
2) Pitcher, A., Markl, M., et al. : JCMR, 13(Suppl. 1), 392, 2011.
3) Candes, J., Tao, T. : IEEE Trans. Inf. Theory, 52・12, 5407〜5425, 2006.
4) Donoho, D.L. : IEEE Trans. Inf. Theory, 52・4, 589〜592, 2006.
5) Uecker, M., et al. : NMR Biomed., 23, 986〜994, 2010.

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