シーメンス・ジャパン株式会社

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Technical Note

2010年10月号
CT新潮流−最新の被ばく低減技術のポイント

CT─新たな被ばく低減アプリケーション─IRIS(Iterative Reconstruction in Image Space)

藤原知子
ヘルスケア事業本部マーケティング本部CTマーケティング部

近年の医療現場において,CTは必要不可欠な画像診断機器となっている。
一方,UNSCEAR(国連科学委員会)からの報告1)にあるように,医療被ばく全体におけるCTの割合が高いことも事実である。シーメンスでは,被ばく低減への取り組みを実行することは,CTを提供するプロバイダとしての責務と考えている。われわれは以前より,“CARE Program(Combination of Application for Reduction of Exposure)”のコンセプトのもと,スキャナハードウエア,アプリケーションソフトウエア,およびそれらを統合するための最適なプロトコールなど,あらゆる側面から率先して被ばく低減に努めている(図1)。
本稿では,シーメンスが被ばくを最小限に抑えるために開発,実装してきた各種技術やアルゴリズムの中から,最新のアプリケーションソフトの1つである“IRIS(Iterative Reconstruction in Image Space)”について紹介する。

図1 シーメンスの被ばく低減に対する取り組み
図1 シーメンスの被ばく低減に対する取り組み
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●IRIS─逐次近似法に属した反復画像再構成法

現在のCTにおける画像再構成法は,フィルタ補正逆投影(FBP)法が主流であり,この手法においては低線量撮影におけるノイズの影響は避けられない。しかし,このような場合においても,ノイズを抑えることができる画像再構成法として新しく取り入れられたのが,逐次近似法に属した反復画像再構成法である2)

逐次近似画像再構成では,一般的に画像再構成プロセスに補正ループが導入されており,反復画像再構成を繰り返すことで段階的に画像を改善する。理論的逐次近似再構成法では,再構成画像データとオリジナルデータを比較して,その差を最小限に収束させるために計測・計算を繰り返すことが必要である。また,データ取得システムと再投影アルゴリズムの物理特性を正確にモデリングすることが必須なため,コンピュータの高い処理能力が要求される。このために,画像再構成に長時間を要するという欠点がある。この欠点を解消し臨床機に実装するためには,近い将来にも実装不可能な高い演算能力を有したハードウエアが必要となる。そのため,この方法を応用した形で画像演算を簡略化すれば(統計的逐次近似画像再構成)臨床使用に対応した時間での再構成処理は可能だが,その場合,補正画像の計算精度が大幅に低下するため,結果として見慣れない奇妙なノイズ特性やプラスチック様の画像を生じることがある。

一方,シーメンスが独自に開発したIRISでは,はじめにすべてのオリジナルデータを最大限活用するマスターリコンと呼ばれる画像再構成を行う。マスターリコンでは,すべての有効な細部情報が保持されると同時に画像ノイズも含まれるが,このマスターリコンで得られたデータをイメージデータベースで反復ループさせ,段階的に近似解へ収束させることでコントラストの増強と画像ノイズの低減を実現する(図2)。

図2 逐次近似画像再構成のシェーマ
図2 逐次近似画像再構成のシェーマ
IRISでは,画質や細部の描出を損なわずにノイズが抑えられると同時に,日常的な臨床使用に即した高速での画像再構成を実現。

有効な細部情報をすべて有したマスターリコン画像からスタートして画質を改善するため,対象の情報は失われず,読影者が見慣れている画像テクスチャを維持することができる。そのため,得られた画像は通常のCT画像と変わらず,前述のようなプラスチック様の画像を生じることもない。また同時に,日常的な臨床使用に対応した高速での再構成を実現する。

画質や細部の描出を損なわずにノイズが抑えられ,日常的な臨床使用を実現し,結果として,最大60%の被ばく低減が可能となった(図3 a,b)。また,これまでになし得た被ばく低減技術との併用により,例えば,心臓CT検査を0.36mSvという超低線量で行うことも可能である(図3 c)。

図3 IRISの臨床利用
図3 IRISの臨床利用
a:通常線量のスキャンデータにフィルタ補正逆投影(FBP)法による画像再構成を行った画像
b:aより60%低い線量でのスキャンデータにIRISを用いて画像再構成を行った画像。IRISを用いて画像再構成を行った画像は,大幅に低い線量でスキャンしたにもかかわらず同等のノイズレベルを実現。
c:Flash Cardio Sequenceモードで撮影。75msの時間分解能とECG-dose modulationの併用により,超低線量撮影(0.36mSv)を実現。

IRISは2009年の北米放射線学会(RSNA)で発表され,すでにルーチンベースで活用されている。また,第5回心臓血管CT学会(SCCT:Society of Cardiovascular Computed Tomography)においても臨床応用が発表された3),4)

シーメンスは,常に被ばく低減を重要課題として取り組んでおり,その一部を本稿で紹介した。しかし,被ばく低減へのアプローチは多岐にわたり,紹介しきれなかった内容も数多く存在するためWebサイト(http://www.siemens.com/low-dose)も併せてご覧いただきたい。

また,2010年6月には,世界的なCTにおける被ばく低減を牽引することを目的としてSIERRA(Siemens Radiation Reduction Alliance)を発足し,放射線,循環器,物理分野など多方面から,“CT Dose”に関して世界的に著名な先生方15名をメンバーとした“Low Dose Expert Panel”を設立した。年に2回開催されるLow Dose Expert Panelにおいて,今後,マルチセンタートライアルによる低線量プロトコールの標準化の提言など,被ばく低減への積極的なアプローチが期待されている。

シーメンスは,医療における世界最大規模のプロバイダであり,CTにおいては,臨床ニーズに即した多くのラインナップを有している。しかし,単なる製品の提供だけではなく,今回紹介した被ばく低減技術をはじめとする医療環境にまつわるさまざまなソリューションの提供により,医療の質の向上や検査の効率化を推進する一役を担っていきたいと考える。

●参考文献
1) Mettler, F.A. Jr., Thomadsen, B.R., Bhargavan, M., et al. : Medical radiation exposure in the U.S. in 2006 ; Preliminary results. Medical Radiation Exposure in the U.S., 2006.
2) Sunnegardh, J., Danielsson, P. E. : Regularized iterative weighted filtered backprojection for helical cone-beam CT. Medical Physics, 2008.
3) Bittencourt, M., Schmidt, B., Seltmann, M., et al. : Iterative Reconstruction in Image Space(IRIS) in Cardiac Computed Tomography ; Initial Experience. Journal of Cardiovascular Computed Tomography, 2010.
4) Gramer, B., Hein, F., Meyer, T.H., et al. : Iterative Image Reconstruction in High-Pitch Helical Cardiac CT Angiography.