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別冊付録

SessionX:Dual Energy Imaging

冠動脈石灰化除去:冠動脈石灰化除去における逐次近似画像再構成法"IRIS"の有用性

飯野美佐子(東海大学医学部 専門診療学系画像診断学)

飯野美佐子(東海大学医学部 専門診療学系画像診断学)

Dual Energy Imaging(以下,DEイメージング)による冠動脈石灰化除去において,逐次近似法再構成法“IRIS(Iterative Reconstruction in Image Space)"を用いることで,ノイズの低減による精度の向上が期待されている。本講演では,従来の再構成法であるfiltered back-projection(FBP)法と比較したIRISの有用性について,(1) ファントム,(2) コンピュータシミュレーション,(3) 臨床症例においてそれぞれ述べる。

■ 冠動脈CTAにおける石灰化の問題

マルチスライスCTによる冠動脈CTAの診断能は,2006年までの64MDCTと2009年までのDual Source CT(以下,DSCT)で,高い診断能が報告されている(表1)。ただ,いずれも陽性的中率 (positive predictive value:PPV)はそれほど高くなく,十分な診断精度とは言えない。特に,石灰化プラークは病変を過大評価する傾向にあることから,PPVにも影響していると考えられる。
また,特に,高度石灰化症例(図1)は,アーチファクトにより内腔の評価が困難となるため,これらの検討から除外されていることが多く,冠動脈CTAの真の診断能に影響を与えていると考えられる。自験例のDSCTによる検討でも,診断能は他の報告と同様(表1の一番下の行,Tanaka, et al., 2008.)であったが,検討を行った81症例,1044セグメント中,237セグメント(23%)が評価不能のため除外されている。特に,185セグメント(18%)は高度石灰化が原因であり,石灰化の問題が解決することにより,CTAによる冠動脈病変の診断能はさらに向上する可能性が高い。

表1 マルチスライスCTによる冠動脈CTAの診断能(64MDCTとDSCTの比較)
表1 マルチスライスCTによる冠動脈CTAの診断能
(64MDCTとDSCTの比較)
図1 冠動脈石灰化病変
図1 冠動脈石灰化病変

■ Dual Energy Imagingによる冠動脈石灰化除去の問題点とIRISの特徴

冠動脈石灰化除去のためにはDEイメージングが有用と考えられるが,CTAでは,ブルーミングチファクトやモーションアーチファクトの影響で,石灰化除去が正確に行われない可能性がある。ブルーミングアーチファクトは,画像再構成時にシャープな再構成関数を用いることで低減できる。図2のステント画像を比較してみても,通常のCTAで使用している標準の再構成関数B26ではステントが大きく描出されているが,ステント用の再構成関数B46を用いた場合,鮮鋭度が高くなり,ステントがより明瞭に描出されているのが視覚的に理解できる。LSF,MTFを見ても,B46を用いた場合,鮮鋭度が高くなり,高い空間分解能を示していることがわかる。しかしながら,ステント用B46のシャープな再構成関数では,ノイズが増加するというデメリットがある。このようなノイズは,逐次近似画像再構成法を用いることで低減できるとされている。われわれは,ファントムを用いて検討を行った。
図3は,直径20cmの水ファントムを用いたIRISでのノイズ低減の検討結果である。標準再構成関数B26とステント用再構成関数B46について,FBP法とIRISそれぞれでSDを測定したが,IRISでは高い空間分解能でシャープな画質を維持したまま,ノイズが低減できた。

図2 再構成関数の違いによるbone removal
図2 再構成関数の違いによるbone removal
図3 IRISでのノイズと鮮鋭度
図3 IRISでのノイズと鮮鋭度

■ FBP法と比較したIRISの有用性

FBP法とIRISによる症例画像の比較では,IRISの画像の方がノイズを低減できており,シャープに描出されている(図4)。DEイメージングにおいて,Two-material decompositionで骨と造影剤を分離する場合でも,FBP法よりもIRISの方が良好に分離可能となる(図5)。

図4 FBP法とIRISの画像の比較
図4 FBP法とIRISの画像の比較
図5 DEイメージングのTwo-material decompositionでの比較
図5 DEイメージングのTwo-material decompositionでの比較

● ファントムによる評価
FBP法の標準再構成関数B26とステント用再構成関数B46,IRIS法のI46でそれぞれ再構成し,bone removalを行った(図6)。FBP法の場合,三者のうちB26では最も大きく石灰化が除去されている。また,B46ではB26に比べ,石灰化の抜けは小さいものの,ノイズのため画質の低下が認められる。IRIS法のI46では,実際の石灰化と同程度の領域が除去されておりノイズも目立たない。

図6 ファントムによるIRISとFBP法の比較
図6 ファントムによるIRISとFBP法の比較

● コンピュータシミュレーションによる検討
ファントムの検討では,石灰化は小骨片を用いており病変の計測が困難であったため,定量的評価のため,コンピュータシミュレーションでも検討を行った。デジタル血管(直径5mmの血管,石灰化占有率50%)に標準再構成関数B26(FBP法),ステント用再構成関数B46(FBP法),ステント用再構成関数+IRIS(I46)の3種類のCTのボケ関数のコンボリューションを行い,さらにCTのノイズを付加したものを作成した。3つの再構成画像のbone removalを行った。実際の石灰化は81ピクセルであるが,ステント用再構成関数とIRISの組み合わせであるI46が87ピクセルと,最も良好にbone removalが行えた(図7)。

図7 コンピュータシミュレーションによるIRISとFBP法の比較
図7 コンピュータシミュレーションによるIRISとFBP法の比較

■ FBP法と比較したIRISの症例提示

● 症例1:石灰化除去症例,肺がん術前
67歳,女性。肺がん手術の術前検査において,LCXに強い石灰化が2か所認められる(図8〜10)。FBP法(標準再構成関数B26,ステント用再構成関数B46)とIRIS法(ステント用再構成関数I46)を比較したものであるが,IRISの画像が,最も良好に石灰化除去が行われている。VR像では石灰化の描出が困難で,FBP法とIRISであまり大きな違いはないが,MIP像やCPR像では,I46の画像が最も正確に石灰化が除去されていることがわかる。一方で,B26では石灰化が大きく除去されて,B46ではノイズの増加が認められる。

図8 症例1:IRISによる石灰化除去症例 肺がん術前(angio view)
図8 症例1:IRISによる石灰化除去症例
肺がん術前(angio view)
図9 症例1:IRISによる石灰化除去症例 肺がん術前(VR像)
図9 症例1:IRISによる石灰化除去症例
肺がん術前(VR像)
図10 症例1:IRISによる石灰化除去症例 肺がん術前(CPR像)
図10 症例1:IRISによる石灰化除去症例
肺がん術前(CPR像)
 

● 症例2:石灰化除去症例,直腸がん術前
61歳,男性。double master陽性のため,冠動脈CTAを施行し,LADに強い石灰化が認められる(図11)。血管造影画像と比較すると,IRISによる石灰化除去によって狭窄部が良好に描出されていることがわかる。

図11 症例2:IRISによる石灰化除去症例 直腸がん術前
図11 症例2:IRISによる石灰化除去症例
直腸がん術前

■ まとめ

逐次近似法再構成法IRISは,従来法に比べ,より正確な冠動脈石灰化の除去が可能となる。そのため本法は,冠動脈CTAにおいて,冠動脈狭窄病変の診断能を向上させる可能性がある。

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