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別冊付録

SessionX:Dual Energy Imaging

モノエナジー:Monoenergetic Imaging

岡山悟志(奈良県立医科大学 第1内科学教室)

岡山悟志(奈良県立医科大学 第1内科学教室)

本講演では,monoenergetic imagingの原理,monoenergetic coronary CTAにおける実効エネルギー最適化による造影コントラストの改善,monoenergetic imagingによる石灰化プラークやステント内腔の評価の改善,および組織性状の評価の可能性について述べる。

図1 Monoenergetic Imagingの原理 心臓領域は100kVpと140kVpで撮影
図1 Monoenergetic Imagingの原理
心臓領域は100kVpと140kVpで撮影

■ Monoenergetic Imagingの原理

従来のCTは,複数のエネルギーの集合体である連続エネルギースペクトルのX線を利用して画像が作り出されている。一方,近年開発されたDual Energy CTは,従来の原理を利用してはいるものの,高エネルギーと低エネルギー(心臓領域においては100kVpと140kVp)の2種類のX線を用いた画像を同時に取得することができる。そのため,この2種類の画像をもとに,40〜190keVまでの任意の実効エネルギーのmonoenergetic imagingを作ることが可能となった(図1)。
monoenergetic imagingの利点として,1つ目に造影コントラストの最適化,2つ目にビームハードニング・アーチファクトの軽減を挙げることができる。

■ Monoenergetic Coronary CTA
  ─実効エネルギー最適化による造影コントラストの改善

われわれは,128スライスDual Source CT「SOMATOM Definition Flash」(以下,Definition Flash)を用いて,100kVpと140kVpのdual energy coronary CTAを施行した患者25例(心拍数70bpm以下,βブロッカー不使用)のデータから,さまざまな実効エネルギーのmonoenergetic imageingを再構成し,実効エネルギーが画質に与える影響を評価した1)
syngoワークステーションを用いて, 120kVpのcomposite image(合成画像)と,実効エネルギー40〜190keVまで8種類のmonoenergetic imagingを再構成した。次に,Osiryxビューワを用いて,それぞれの画像についてLAD近位部に関心領域(ROI)を設定した。ROIの中のCT値の平均値(LAD mean)と標準偏差(LAD SD)を測定し,Pfledererらの報告2)にならい,同一関心領域法を用いて信号雑音比(LAD SNR)をLAD mean/ LAD SDにより計算し,これらを比較した。さらに,LAD SNRが最も高い値を示す実効エネルギーの画像を,実効エネルギーが最適化された画像と定義し,一般的な評価に用いられる120kVp composite imageと比較した。

●Monoenergetic Imagingの肉眼的評価
図2は,monoenergetic imagingの肉眼的評価である。左はウインドウの幅とレベルをそれぞれ600HUと200HUに固定し,右は見やすいように調整した。これを見ると,冠動脈の評価には70keVか100keVが最適と思われる。また,70keV以上では,石灰化プラークは明瞭となるが,冠動脈内腔と非石灰化プラークとの鑑別が難しくなる。ウインドウを調節すれば,ある程度の鑑別は可能だが,160keV,190keVでは不十分であった。

図2 Monoenergetic Imagingの肉眼的評価
図2 Monoenergetic Imagingの肉眼的評価

● Monoenergetic Imageの客観的評価
図3は,それぞれの実効エネルギーにおけるLAD mean,LAD SD,LAD SNRの値である。LAD meanは,40keVで最大値となり,実効エネルギーが増加するに従って低下した。LAD SDは70keVと100keVの画像で最低値を示した。また,LAD SNRは70keVで最大値となり,100keVでも良い値が得られた。
実効エネルギーの最適化による造影コントラストの改善については,LAD SNRは,40keVで最大値を示した症例が1例,60keVでは2例,70keVでは18例,100keVでは3例であり,症例によってばらつきがあることがわかった。また,各症例で実効エネルギーを最適化すると,120kVp composite imageと比較して,LAD SNRは平均18.2%改善していた。

図3 Monoenergetic Imagingの客観的評価
図3 Monoenergetic Imagingの客観的評価

■ Monoenergetic Imagingの可能性

●石灰化プラークやステント内腔の評価の改善
図4は,石灰化プラークである。上段は非造影CT画像,100kVpと140kVpの画像,composite imageで,下段はmonoenergetic imageである。140kVpの画像のみ,2つの石灰化プラークから成り立っていることが識別可能で,プロファイル上でも同様の結果が得られた。
一方,monoenergetic imageでは,実効エネルギーが上がるに従って石灰化が明瞭となり,2つのプラークに分離することが可能であった。プロファイル上も同様の結果が得られた。従来のCTにおいても,ウインドウを調整して高度石灰化を評価することは可能だが,プロファイルはウインドウを調節しても変化しないため,このように分けることはなかなか難しいと思われる。
同様に,ステント内腔の評価についても検討したところ,120kVpのcomposite imageではステントのストラッドが厚いため内腔が見づらく,プロファイル上も内腔部分にあたるグラフの幅が小さいが,monoenergetic imageでは実効エネルギーを上げていくと,画像,プロファイルともに内腔が明瞭に観察できた(図5)。
以上のことから,monoenergetic imagingでは,高度石灰化病変であっても冠動脈内腔が正確に評価できる可能性があることがわかった。従来のCTでは,Agatstonスコアが400以上の場合,冠動脈内腔の評価は困難とされてきたが,それが容易になるほか,径が2.5mm以下の血管に留置したステントでも評価しやすくなると思われる。なお,実効エネルギーの増加に伴うSNRの低下やノイズ上昇は,逐次近似画像再構成法であるSAFIREを用いることで改善できる可能性があると考えている。

図4 さまざまな画像による石灰化プラークの評価
図4 さまざまな画像による石灰化プラークの評価
図5 さまざまな画像によるステント内腔の評価
図5 さまざまな画像によるステント内腔の評価

●組織性状の評価
OCT(Optical Coherence Tomography)は,最も空間分解能の高い,10μmまで鑑別可能な血管内イメージングの1つである。われわれは,Definition Flashを用いて,さまざまな冠動脈プラークを形態とCT値から鑑別し,OCT所見と比較した。その結果,Definition Flashでは,冠動脈プラーク検出における感度と特異度が高いことが明らかとなった3)
また,われわれはDefinition Flashを用いて,ストロング・スタチンによる積極的脂質低下治療が冠動脈プラークを退縮させ,安定化させることを明らかにした4)。しかしながら,SCCT(Society of Cardiovascular Computed Tomography)のガイドラインでは,CT値だけによるプラーク性状の評価は推奨されていない。
さらに,最近のex-vivoでの検討だが,80,100,120,140kVpと管電圧が上昇するに従い,脂質性プラークではCT値が徐々に上昇し,石灰化プラークではCT値が徐々に低下することがわかった5)。そこで,同様の現象がmonoenergetic imagingでも見られるかもしれないと考え,非造影の腹部のmonoenergetic imageを用いて,脂肪組織,筋組織,骨組織にそれぞれROIを設定し,実効エネルギーの変化によるCT値の変化を検討した。その結果,実効エネルギーが上がるに従って,骨はCT値が低下,脂肪はCT値がわずかに増加し,筋肉はほとんど変化が認められなかった(図6)。
つまり,monoenergetic imagingでは,CT値の絶対値ではなく,実効エネルギーの変化に伴うCT値の変化量に基づいて,組織性状評価が行える可能性があると言える。
今後,プラークの組織性状評価に応用していきたいと考えている。

図6 Monoenergetic Imagingによる組織性状の評価
図6 Monoenergetic Imagingによる組織性状の評価

■ まとめ

monoenergetic imagingでは,画質がエネルギー選択によって大きく変化する特性があるため,症例や目的に応じて最適なエネルギーを選択することが重要であると考えられる。

●参考文献
1) Okayama, S., Seno, A., Soeda, T., et al. : Optimization of energy level for coronary angiography with dual-energy and dual-source computed tomography. Int. J. Cardiovasc. Imaging, 2011 (Epub ahead of print).
2) Pflederer, T., et al. : Image quality in a low radiation exposure protocol for retrospectively ECG-gated coronary CT angiography. Am. J. Roentgenol., 192, 1045〜1050, 2009.
3) Soeda, T., Okayama, S., et al. : Diagnostic accuracy of dual-source computed tomography in the characterization of coronary atherosclerotic plaques;Comparison with intravascular optical coherence tomography. Int. J. Cardiol., 148, 313〜318, 2011.
4) Soeda, T., Okayama, S., et al. : Intensive Lipid-Lowering Therapy With Rosuvastatin Stabilizes Lipid-Rich Coronary Plaques. Circ. J., 2011 (Epub ahead of print).
5) Tanami, Y., et al. : Computed tomographic attenuation value of coronary atherosclerotic plaques with different tube voltage: an ex vivo study. J. Comput. Assist. Tomogr., 34, 58〜63, 2010.

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