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別冊付録

SessionX:Dual Energy Imaging

消化管:Dual Energy CTを用いた消化管CT診断座

白神伸之(東邦大学医療センター大森病院放射線科)

白神伸之(東邦大学医療センター大森病院放射線科)

本講演では,消化管におけるDual Energyの応用について述べる。特に,低管電圧撮影とoptimum contrast,造影剤のiodine imageによる消化管壁,腫瘍濃染の程度の評価に焦点を当て,胃壁の濃染の有無と大腸腫瘍の評価に関する検討結果を報告する。

■ Dual Energy Imagingの原理

128スライスDual Source CT「SOMATOM Definition Flash」(以下,Definition Flash)には,Dual Energy(DE)を用いたさまざまなツールが搭載されている。80kVと140kVの2種類の管電圧の画像から120kV相当のcomposite image(合成画像)を作ることもできる。
造影検査においては,Low-kVの方が圧倒的に造影剤の検出能が高いことが知られている。80kVではノイズが多いが造影剤のコントラストが高く,140kVではノイズは少ないものの造影剤のコントラストが低下しており,それらを合成した120kV相当では両方の特徴を合わせた画像を得ることができる。さらに,CT値によって合成の割合を変化させることで,optimum contrastも作成できる。CT値が低い部分では140kVと80kVのミックス画像を使い,濃度が高い部分では80kVの画像を使うblending法である。さらに,当院ではLiver VNC(virtual non-contrast)を用いて,胃のiodine imageを再構成している。その際,最新の被ばく低減技術"SAFIRE"を用いることで,より明瞭な画像を得ることができる。

■ 胃壁の濃染の有無の評価

胃がんには,高分化腺癌,中分化腺癌,低分化腺癌があるが,高分化腺癌は異型腺管が密に増生しており,非常に多くの毛細血管を有しているため,ダイナミックCTにて早期濃染が得られる。また,低分化腺癌は分化度の乏しい腺管,あるいはsignet ring cellが間質に入り込むように増生するため上皮が脱落し,早期濃染が欠損する。こうした病理学的特徴に加えて,消化管の深達度診断を行う際には,胃壁に時に見られる線状の薄い低吸収域,粘膜下層に着目して診断を行う。
胃がんの検査にあたっては,当院では前処置として前食を止め,発泡剤1.5包(7.5g)を水10〜15mLで服用してもらう。また,Definition Flash導入後は,抗コリン剤は一切使用していない。そのため,単純撮影とダイナミックの動脈相と平衡相では得られる像がかなり異なるが,これまでに病変が見えなかったことは一度もない。また,当院の撮影プロトコールは,300mgI/mL造影剤600mgI/kgを3.0mL/sにて投与し,非造影(with/without DE),動脈相(25〜30s,with DE),実質相(55〜60s,with DE),平衡相(175〜180s,with/without DE)としている。

●症例提示
症例1は,胃角部V型胃がんである。胃角部小彎側のやや後壁寄りに,かなり深い潰瘍が認められた。DEで撮影したところ,逐次近似画像再構成法であるSAFIREを併用したcomposite imageにて,病変部が最も明瞭に描出された(図1)。ダイナミックCTを施行したところ,動脈相では80kVで粘膜が,門脈相では80kVで腫瘍が最も良好に濃染した(図2)。また,Liver VNCでiodine imageを評価したところ,50〜100%の画像で胃壁が最も良好に濃染しているが,腫瘍は濃染していなかった(図3)。さらに,SAFIREを用いたcomposite imageでは,特に平衡相で,どの部分に多く造影剤が流入しているかが理解しづらい(図4)。そこで,iodine imageを作成したところ,門脈相から平衡相にかけて,後壁部分がきわめて良好に濃染していることがわかった(図5)。これにより,後壁中心に線維化の強い胃がんと診断できた。本症例は潰瘍があるため,深達度診断が難しいが,胃壁外の血管の拡張も明瞭に認められ,進行がんの可能性があると思われる。

図1 症例1:composite image FBPとSAFIREの比較
図1 症例1:composite image FBPとSAFIREの比較
図2 症例1:ダイナミックCT(SAFIRE使用)
図2 症例1:ダイナミックCT(SAFIRE使用)
図3 症例1:Liver VNCによるiodine/composite image
図3 症例1:Liver VNCによるiodine/composite image
図4 症例1:動脈相,門脈相,平衡相のcomposite image(SAFIRE併用)
図4 症例1:動脈相,門脈相,平衡相のcomposite image
(SAFIRE併用)
図5 症例1:動脈相,門脈相,平衡相の75%iodine image(SAFIRE併用)
図5 症例1:動脈相,門脈相,平衡相の75%iodine image
(SAFIRE併用)

症例2は,体下部後壁小彎のUc型の早期胃がんで,病理診断結果は低分化腺癌であった。造影CTにて体下部後壁に浅い陥凹が認められ,動脈相でわずかに欠損が認められ,門脈相で濃染が回復し,平衡相で以前より良く濃染している様子が描出された。おそらく,生検やクリッピングにより,少し線維化が起こっているためと考えられるが,iodine imageを重ねると,50%ブレンドした画像(図6)では,四角で囲った部分では他の部分の粘膜が良く濃染しているにもかかわらず,粘膜の染まりはほとんど認められなかった。さらに,75%ブレンドした画像(図7)では,部分的な造影欠損が明瞭に認められ,低分化腺癌であることがCTで確実に診断できた。

図6 症例2:50%ブレンドiodine image
図6 症例2:50%ブレンドiodine image
図7 症例2:75%ブレンドiodine image
図7 症例2:75%ブレンドiodine image

■ 大腸腫瘍の評価

日本では現在,CTコロノグラフィ(CTC)を大腸がんスクリーニングに用いようという動きがあるが,基本的にはCT画像のため,肝臓や膵臓,その他の臓器の診断にも活用すべきと考えている。その際,最も良い適応は,消化管がん術後のフォローアップであると思われる。理由として,消化管がんは多発することが多いこと,局所再発が多いこと,大腸がんは高分化型が多いので造影で良く濃染することが挙げられる。そこで当院では,術後フォローアップにCTCを行う研究を開始した。
前処置については通常の内視鏡と同様に,ニフレック2L,抗コリン剤,グルカゴンを用いて,撮影は腹臥位で単純撮影を行った後,仰臥位にてDEを用いて造影を行っている。胃の場合は動脈相と門脈相を撮影するが,CTCでは肝臓も一度で見なければならないため,delayは40〜45秒とし,enteric phaseで撮影している

●症例提示
症例3は,S状結腸早期がんのEMR(Endoscopic Mucosal Resection)後のフォローアップである。SAFIREを併用したCTCでは,粘膜面のEMRの痕が粗造に描出されており,その部位の局所再発の有無の確認が診断のポイントであった。アキシャル像,コロナル像ともに限局性の濃染域は認められず(図8),iodine imageでも濃染域は見られなかった(図9)。
まだ症例数が少ないため,今回は陰性症例であったが,将来的には局所再発例が出てくると思われ,その際にはiodine imageが有用性を発揮すると考えている。

図8 症例3:80kV,140kVの composite image(SAFIRE併用)
図8 症例3:80kV,140kVの composite image(SAFIRE併用)

図9 症例3:75%ブレンドiodine image(SAFIRE併用)
図9 症例3:75%ブレンドiodine image(SAFIRE併用)

■ まとめ

胃がん,大腸がんともに,低管電圧撮影は粘膜面のコントラストをつけるために有用であり,特にiodine imageによる粘膜面の評価が病変の性状,存在診断に役立つことが示唆された。また,CTCのCADは現在,形状を指標として病変検出を行っているが,平坦型病変については検出能があまり高くない。そこで,CADにiodine imageを用いた異常濃染の評価機能を組み込めば,将来的には非常に良い指標になると考えている。

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