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別冊付録

SessionU:Cardio-Vascular Imaging

救急:救急領域における2管球型128-slice MSCTの有用性
   ─救急初期診療と胸部血管病変の診断

中川淳一郎(大阪大学医学部附属病院 高度救命救急センター)

中川淳一郎(大阪大学医学部附属病院 高度救命救急センター)

大阪大学医学部附属病院高度救命救急センターは中央診療部門に所属しており,外来初療室2床,入院病床20床のほか,専用設備として当センター専用のCTと血管造影室を有し,さらに大阪府ドクターヘリを運航している。本講演の前半では救急領域におけるCTの有用性と役割,位置づけと展望について,後半では胸部血管のモーションアーチファクトに関する検討結果について報告する。

■ 高度救命救急センターにおけるCTの役割

当センターでは,1993年より救命救急センター専用のCTを導入し,2010年4月にはシーメンスの128スライス2管球搭載「SOMATOM Definition Flash」(以下,Definition Flash)を導入した。その際に工夫した点は,CTの寝台の天板を外来初療ベッドと同様,完全にフラットなものとし,外傷診療を含む救急初期診療が可能な“初療対応型トラウマテーブル”を採用したことである(図1)。必要に応じて通常の寝台に変更できるほか,救急領域では気道や呼吸に問題のある患者が多いため,ガントリと寝台との間にスペースを設け,必要に応じて医師が入って気道管理を行えるようにした。

図1 初療対応型トラウマテーブル
図1 初療対応型トラウマテーブル

■ 外傷領域におけるCTの位置づけ

外傷領域の救急診療については,日本外傷診療研究機構のJapan Advanced Trauma Evaluation & Care(JATEC)や,American College of Surgeons, Committee on Trauma(ACS COT)のAdvanced Trauma Life Support(ATLS)が策定した「外傷初期診療ガイドライン」において,気道,呼吸,循環の不安定な患者に対してCT検査を行うことを厳しく制限している。その理由として,通常,救急初療室からの移送に始まり,CT台への移動も含め,CT検査の終了までには少なくとも約20分を要するため,その間に病状が悪化することや,CT室で病態が急変した場合に対応が困難なことが挙げられる。
一方,出血性ショックの原因には,胸腔内の出血,腹腔内の出血,後腹膜腔の出血の大きく3つがある。JATECの外傷初期診療ガイドラインでは,身体所見,胸部骨盤X線,迅速超音波検査法“FAST(Focused Assessment with Sonography for Trauma)”を用いてスクリーニングを行うことが推奨されている。その際,胸腔内は胸部X線や超音波検査で,腹腔内は超音波検査で出血や血液の貯留を診断することが可能だが,後腹膜腔の場合,骨盤X線で骨盤骨折の程度から出血量を予測できるものの,血液そのものを見ることは困難である。また,従来の検査法では高位後腹膜腔の状況は確認できず,多発外傷の場合には,損傷している臓器や損傷の程度が把握できないまま緊急止血術を施行することがある。そのため,CTにて解剖学的情報が得られれば,治療の優先順位の決定や,治療法の決定に役立つと考えた。

■ Definition Flashによる外傷初期診療の実際

そこで,Definition Flashの導入にあたり,当センターでは外来初療室の改築を行った。初療室とCT室との間の壁を撤去し,患者を搬入口からそのままCT室に搬入できるようにした。
実際の外傷初期診療の流れは次のとおりである。患者が搬送されてくると,直接CT寝台に寝かせ,頭側の医師が気道呼吸の管理を,他の医師がモニターの装着,患者の観察を並行して行う。その後,少なくとも医師1名がCT室に残って患者の観察を継続する。この段階ではまだ末梢ルートの確保も行っていないが,これは検査をできるだけ早く行うためである。次に,CTでスカウトビューを撮影してから,Flash Spiralで撮影する。患者の到着から撮影終了までの所用時間は最短で約2分30秒と,きわめて短時間で検査を終えている。

■ Flash Spiralの有用性

Flash Spiralによる短時間撮影で,実際にどの程度の画像が得られるのかを検討した。特に,当センターには内因性の疾患によって意識障害のある患者も多く,その場合は息止めでのCT撮影ができないため,自由呼吸下でどの程度の時間分解能が得られるかに注目した。
症例1は,息止め不可能な同一症例における,通常のヘリカルスキャンとFlash Spiralの比較である。Flash Spiralでは明らかにモーションアーチファクトが軽減され,高精細な画像が得られている(図2)。

図2 症例1:通常のヘリカルスキャン(a)とFlash Spiral(b)におけるモーションアーチファクトの比較
図2 症例1:通常のヘリカルスキャン(a)とFlash Spiral(b)におけるモーションアーチファクトの比較

症例2は,89歳,女性。意識障害,ショックを主訴に当センターに搬送された。原因検索のスクリーニングとして,頭部から胸部までの造影CTをFlash Spiralにて約2秒で撮影した(図3)。その結果,頭部および頸部の血管に明らかな異常所見は認められなかった。また,本症例は心電図同期を行わずに撮影しているが,冠動脈も明瞭に描出されており,明らかな狭窄病変は認められなかった。結果的に,心嚢液の貯留と心筋肥大と診断されたが,約2秒という短時間の撮影でも,きわめてアーチファクトの少ない高画質が得られることが確認できた。

図3 症例2:Flash Spiralにて頭部から胸部までの造影CTを施行
図3 症例2:Flash Spiralにて頭部から胸部までの造影CTを施行

■胸部血管病変におけるモーションアーチファクトの軽減効果

近年,CTは目覚しい進歩を遂げているが,従来の撮影方法では心拍動によるモーションアーチファクトによって胸部大血管に大動脈解離様の像を呈し,診断の妨げとなることがしばしばある。心電図同期を用いることで,心・大血管のモーションアーチファクトを軽減できるとの報告もあるが,救急領域においては頻脈の患者が多いほか,呼吸停止ができない,不整脈がある,広範囲の撮影が必要,手技が煩雑などの理由から,心電図同期は実用的とは言えない。そこで,救急領域に適した撮影方法を検討したところ,Flash Spiralでモーションアーチファクトが著明に軽減できることがわかった(図4)。

図4 Flash Spiralによるモーションアーチファクト軽減効果の検討
図4 Flash Spiralによるモーションアーチファクト軽減効果の検討

モーションアーチファクトの軽減効果について,2010年4月〜2011年5月に当センターに入院した患者47例にFlash Spiralで胸部造影CTを施行した(Group F)。内訳は,外因性症例14例,内因性症例33例であった。比較対象は2009年4〜12月に従来の64MDCTで検査した53例(Group C)で,内訳は外因性症例が20例,内因性症例が33例であった。評価方法は図5のとおりである(2002年にRadiology掲載のRoosらの評価点数使用)。評価部位は,上行大動脈,大動脈弓部,下行大動脈,大動脈分岐部,左冠動脈主幹部,右肺動脈の6部位とした。読影は,病歴を知らない放射線科医が行った。本検討の目的は,病変の有無ではなく,画像が診断に耐えうるかどうかであり,解析にはMann-Whitney U検定を用いた。

図5 モーションアーチファクト軽減効果の評価方法
図5 モーションアーチファクト軽減効果の評価方法

患者背景では,検討を行った項目(年齢,身長,体重,体表面積,撮影時の心拍数,収縮期血圧,病変の有無)において,2群間に有意差はなかった。
結果は,Group CはGroup Fに比べて,どの評価部位においてもモーションアーチファクトが多い傾向が認められた。特に,心臓に近い上行大動脈,左冠動脈主幹部では,モーションアーチファクトと病変の診断がつかない「4点」と評価される症例が多く見られた。一方,Group Fでは,全評価部位の中で左冠動脈主幹部に2例のみ,「4点」の症例を認めた。
検定を行ったところ,下行大動脈以外のすべての評価部位で2群間に有意差を認め,Group Fの方が高画質との結果を得た。下行大動脈で有意差が出なかった原因としては,解剖学的に心臓から離れており,ヘリカルスキャンでもモーションアーチファクトが少ないためと考えられる。
次に,上行大動脈における心拍数と画質との関係を評価した。結果は,Group Cでは心拍数80bpm以上の症例で25%が「4点」であった。一方,Group Fでは心拍数にかかわらず,「4点」の症例は1例もなく,全体としては「1点」と「2点」に評価される傾向が認められた。
左冠動脈主幹部についても同様に評価した結果,Group Cでは全体の46%が「4点」であり,心拍数80bpm以下の症例についても,そのうちの33%が「4点」であった。さらに,80bpm以上の症例に至っては,52%が「4点」であった。一方,Group Fでは,「4点」がついたのは心拍数100bpm以上の2例のみであった。つまり,Flash Spiralで撮影した場合には,心電図同期を行わないにもかかわらず,高い精度で左冠動脈主幹部の病変とモーションアーチファクトの鑑別が可能であると言える。

■ まとめ

2管球型のDefinition Flashによる撮影は,従来の64MDCTに比べてモーションアーチファクトの軽減が可能であった。Definition Flashは,救急患者の心・胸部血管病変の診断に有用であった。

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