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別冊付録

SessionU:Cardio-Vascular Imaging

心臓T:Step and shoot technique

岩城 卓(横浜栄共済病院 循環器内科)

岩城 卓(横浜栄共済病院 循環器内科)

「SOMATOM Definition AS+」(以下, Definition AS+)は,1管球128スライスのMSCTであり,ガントリ回転速度は0.3秒,高機能・高画質と優れた操作性,被ばく低減を兼ね備えた装置である。当院では2010年4月〜2011年3月までに,Definition AS+にて512件の冠動脈CTを施行している。冠動脈CTの撮影法には,主に“retrospective gating scan法”(以下,retrospective法)と“step and shoot法"の2種類があるが,step and shoot法の方が被ばく線量が少ないというメリットがある。そこで,本講演では,シーメンスのstep and shoot法である“Adaptive Cardio Sequence"について報告する。

■ Retrospective法とstep and shoot法の原理

Retrospective法は,連続スパイラルスキャンのデータ収集と同時に心電図データを取り込み,画像再構成時に任意の位相データを抽出する方法であり,スキャン中は常にX線を照射している。一方,step and shoot法は,心電図同期にて任意の位相にだけX線を照射し,コンベンショナルスキャンと寝台移動を繰り返して心臓全体を撮影するため,retrospective法に対して被ばく線量を79%低減できるほか,空間分解能の高い画像を得ることができる。しかし,デメリットとして,心拍変動に弱い,撮影適応心拍数が限られる(心拍数65bpm以下),最適位相時に撮影できない可能性がある,などが挙げられ,低被ばくでも高精細な画像を得るためには,β遮断薬を使用することが望ましい。

■ Adaptive Cardio Sequenceの特徴

Step and shoot法には各社さまざまな撮影法があるが,シーメンスではAdaptive Cardio Sequenceというコンベンショナル心臓撮影モードである。その特徴は,期外収縮があった場合にはCT装置が心電図波形をキャッチして,テーブル移動とX線照射を中止し,次のデータを収集してから再びテーブル移動を行うことが可能な点である(図1)。

図1 コンベンショナル心臓撮影モード Adaptive Cardio Sequence
図1 コンベンショナル心臓撮影モード  Adaptive Cardio Sequence

■ 症例提示

以下に,Adaptive Cardio Sequenceを用いて撮影した実際の症例を提示する。
症例1は,70歳,女性,実効線量3.4mSvで撮影。LCX,RCA,LADがかなり屈曲しているものの,アーチファクトのない明瞭な画像が得られた(図2a)。LADにはプラークが認められ,後日,CAGを施行したところ,CT画像と一致した部位に狭窄が認められたため,PCIを施行した(図2b)。

図2 症例1:70歳,女性(156cm,52kg)。実効線量3.4mSv,PCIを施行。
図2 症例1:70歳,女性(156cm,52kg)。実効線量3.4mSv,PCIを施行。

症例2は,68歳,女性,実効線量2.8mSvで撮影。狭心症の既往があり,LADに3mm×18mmのステントを留置しているため,フォローアップCAGの代わりに冠動脈CTを施行したところ,再狭窄は認められず症状もなかったので,そのまま経過観察となった(図3)。

図3  症例2:68歳,女性(157cm,63kg)。 実効線量2.8mSv,狭心症の既往あり。
図3 症例2:68歳,女性(157cm,63kg)。 実効線量2.8mSv,狭心症の既往あり。

症例3は,75歳,女性,実効線量2.8mSvで撮影。以前,RCAに4mm×20mmのステントを留置し,その後に再び胸痛が出現したため冠動脈CTを施行した。ステントには再狭窄は認められなかったが,LCXは石灰化により評価困難なほか,LADの狭窄が疑われ,CAGを施行したところ,LADに狭窄が認められ,PCIを施行した(図4)。

図4 症例3:75歳,女性(149cm,49kg)。実効線量2.8mSv,PCIを施行。
図4 症例3:75歳,女性(149cm,49kg)。実効線量2.8mSv,PCIを施行。

■ Adaptive Cardio Sequenceの臨床成績

当院では基本的に,step and shoot法を第一選択としているが,検査1時間前にβ遮断薬,もしくはカルシウム拮抗薬を投与し,CTの寝台上で心拍数が60bpm以下の場合にstep and shoot法を使用している。一方,心拍数が60bpm以上や不整脈(心室性期外収縮,心房細動)がある,大動脈を同時に撮影する場合,腎機能が悪い,体重が80kg以上,CABG後の患者はretrospective法にて撮影している。
実際の撮影の状況を比較してみると,2011年4〜8月までに当院で冠動脈CTを撮影した210例中,step and shoot法で撮影できたのは93例(44%)であった。平均実効線量を比較すると,retro- spective法では12.6mSvであったのに対し,step and shoot法では2.95mSvと,まさに77%もの被ばく低減が可能だった。
ただし,step and shoot法の場合,最適位相で撮影できず,再撮影が必要になることがある。実際に2回撮影を行ったのは93例中4例(4.4%)で,その理由は,息止め不良が1例,心室期外収縮が1例,心拍変動が2例であった。

■ さらなる被ばく低減を可能にする新技術

しかしながら,さらなる被ばく低減を求めてstep and shoot法の頻度を増やしたいと考えている。そのための方法として“New Adaptive Cardio Sequence"と短時間作用型β1選択的遮断薬“コアベータ"の2つが挙げられる。
New Adaptive Cardio Sequenceは,従来のAdaptive Cardio Sequenceと異なり,Paddingの幅とECG pulsingの幅を自由に設定することができる(図5)。最も被ばく低減が可能な撮影法は現行の方法だが,心拍変動のある症例などではPaddingやECG pulsingの幅を広げることで,retrospective法よりは被ばくを低減できる可能性があると考えている。また,New Adaptive Cardio Sequenceには,拡張期や収縮期で止まっている時相を自動で検索する機能(Cardio Best Phase/First click-best phase機能)が搭載されている(図6)。
一方,コアベータは,静注後3〜4分で心拍数が低下し,約30分で元に戻るという新しい薬剤であり,プラセボと比較して心拍数が約19bpm低下すると言われている。つまり,心拍数79bpm以下の患者がstep and shoot法の適応となることにより,以前はretrospective法で撮影していた患者の86%がstep and shoot法で撮影可能となり,さらなる被ばく低減につながると考えている。

図5 New Adaptive Cardio Sequence
図5 New Adaptive Cardio Sequence
図6 New Adaptive Cardio SequenceのCardio Best Phase/First click-best phase機能
図6 New Adaptive Cardio Sequenceの
   Cardio Best Phase/First click-best phase機能

■ まとめ

当院におけるstep and shoot法の適応の割合は約4割であり,被ばく線量はretrospective法の約23%に抑えられていたものの,約4%で再撮影が必要だった。今後,新しいstep and shoot法や短時間作用型β1選択的遮断薬の使用により,step and shoot法の適応を増やせる可能性が高いと考える。

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