ホーム inNavi Suite シーメンス・ジャパン 別冊付録 MAGNETOM 非造影MRAアプリケーションsyngo NATIVEによる腎動脈と門脈の撮像 国家公務員共済組合連合会 虎の門病院放射線部 高橋順士
非造影MRAアプリケーションsyngo NATIVEによる腎動脈と門脈の撮像
国家公務員共済組合連合会 虎の門病院放射線部 高橋順士
はじめに
非造影MRAの新しいアプリケーションであるNATIVE(Non-contrast mra of ArTerIes and VEins)法は,NATIVE_TrueFISP法とNATIVE_SPACE法に大別される。
NATIVE_SPACE法は,動脈が心時相により拍動し,心周期によって血流速度が異なることを利用して血管像を得ている。心電同期(ECG trigger)または,脈波同期(Pulse trigger)を用いてSPACE(高速SE)法でデータ収集を行うことで,収縮期(静脈画像)と拡張期(動静脈画像)の画像を得る。そして,拡張期から収縮期の画像をサブトラクション処理することで,動脈の画像が得られ,主に,上肢や下肢の血管の撮像に用いられている。本稿では,誌幅の都合で詳細は省略する。
次に,今回用いたNATIVE_TrueFISP法は,最大4つのInversion recovery pulse(IR pulse)の印加が可能なことが大きな特徴である。また,データ収集は,Coherent型gradient echo(GRE)法であるTrueFISP法を用いているので,信号強度は,T2/T1に依存したコントラストになる。そのため,血液,胆嚢,胆管,脳脊髄液など,T2の長い成分の信号も高信号となるため,動脈のみの描出は困難な場合もある。しかし,IR pulseをTrueFISP法の信号取得前に付加することで背景信号を抑制したり,静脈信号を抑制することで,血管(動脈)と背景信号のコントラストを向上することが可能となる。
図1に,撮像断面をコロナルとし,脂肪抑制としてCHESS pulseを併用し,Inversion time(TI)を100〜1500msまで200msごとに撮像し,MIP処理して比較した画像を示す。血管の描出を見ると,TI 100〜300msでは肝静脈や門脈が,TI 700〜1100msでは腹部大動脈や腎動脈の描出能が向上している。背景信号としての肝臓,脾臓,小腸,大腸や腹腔内の脂肪信号は,TI1300ms以上で背景信号の縦磁化が回復してしまい,血管とのコントラストは低下している。NATIVE_TrueFISP法を用いたMRAでは,背景信号と血管とのコントラストが最大となるようにTIを設定することが,重要なファクターとなる。
図1 NATIVE法のTIの違いによる血管像と背景信号の違い(TI100〜1500ms)
腎動脈MRA(図2〜4)
非造影MRAは,造影剤を用いず,被ばくのない点ではCTAより低侵襲性な検査法である。当院では,腎血管性高血圧症による腎動脈の狭窄の有無,腎移植後の合併症の1つである移植腎動脈狭窄に対して,NATIVE_TrueFISP法を用いた非造影MRAを行っている。従来法であるTime-SLIP法では,IR pulseとSaturation pulseを1回ずつ印加して腎動脈の描出を行うが,静脈(IVC)の抑制が不十分な場合もある。NATIVE_TrueFISP法では,動脈描出用にIR pulseを1回,IVC抑制用にIR pulseを3回印加して検査を行っている(図2)。
図2 腎動脈のスキャンプランの設定方法
症例1は,89歳,男性で,収縮期/拡張期の血圧が159mmHg/78mmHg,血清クレアチニン値が1.3mg/dLとやや高値のため,腎血管性高血圧症を疑い,MRAが施行された。経験的に高齢者では,動脈硬化や心拍出量の低下により末梢動脈の描出が劣るので,本症例ではTI 2200msに設定した。Full MIPでは,IR pulseを3回印加しているので,IVCはほぼ完全に抑制されている (図3 a,b)。
図3 症例1:腎血管性高血圧症疑い
症例2は,44歳,女性で,生体腎移植後に血清クレアチニン値が1.4mg/dLとやや高値を示したので,腎動脈狭窄の有無を調べるためMRAを施行した。骨盤部の動脈でも,TI 2200msと長めに設定した方が末梢動脈の描出能が向上することが経験的にわかっている。Full MIPでは,静脈がほぼ完全に抑制され(図4 a,b),体表の脂肪信号をカットするだけで,MIP画像が作成可能である(図4 c〜f)。
図4 症例2:移植腎動脈狭窄疑い
門脈MRA(図5〜7)
門脈のMRAは,主に門脈圧亢進症における側副血行路の描出を目的に行われる。撮像条件は,TR/TE:3.6/1.6ms,FA:120°,FOV:380mm×380mm,Matrix:256×256,Slab:90mm,Spatial resolution:1.5mm×1.1mm×1.5mm,Scan plane:Coronal,Parallel imaging reduction factor:2.0,Trigger:Respirator,Fat saturation:CHESS TI:1500msと固定している。腹部全体をカバーする領域にIR pulseを印加し,撮像範囲の縦磁化を反転する。脾静脈や上腸間膜静脈を含む領域に斜めのIR pulseを印加することで,その領域の縦磁化を戻し,縦磁化が戻された領域からTI(1500ms)時間移動した血流のみが,肝臓に流れこんだ門脈血流として描出される。さらに,骨盤部の静脈やIVCを抑制する目的でIR pulseを2回印加する(図5)。症例3は,InferiorにIR pulseを印加していないため,IVCが描出されている(図6)。症例4は,InferiorにIR pulseを2回印加しているので,IVCが抑制されている(図7)。しかし,側副血行路を描出するには,撮像領域が肝臓から骨盤部までと広範囲になるため,胃や小腸の水の信号,胆嚢や脳脊髄液など高信号となる領域の信号を抑制することが今後の課題である。
図5 門脈のスキャンプランの設定方法
図6 症例3:門脈圧亢進症における側副血行路の描出(InferiorにIR pulseなし)
図7 症例4:門脈圧亢進症における側副血行路の描出(InferiorにIR pulseあり)
おわりに
NATIVE_TrueFISP法を用いた腹部領域の非造影MRAの使用経験について解説した。最大の特徴であるIR pulseを4回印加できることによって,目的血管の描出はもとより,目的以外の血管や背景信号の抑制に用いることが可能となり,多くの検査バリエーションが可能になる。今後,syngo NATIVEを腹部領域のみならず,他の部位にも応用し,その能力を最大限に引き出せるようになることを期待して終わりとしたい。