シーメンス・ジャパン株式会社

別冊付録

Session Ⅰ Cardiac Imaging

小児循環器 先天性心疾患を中心に

髙田香織(榊原記念病院放射線科)
髙田香織
榊原記念病院
放射線科

2009年8月に最新Dual Source CT(以下,DSCT)「SOMATOM Definition Flash」(以下,Definition Flash)が導入され,短時間,かつ低被ばくでの撮影が可能となった。当院における小児科依頼のCT検査は,5歳未満の低年齢児の割合が多い。本講演では,小児循環器領域の中でも,特に先天性心疾患の症例を中心にDefinition Flashの使用経験を報告する。

水谷良行*1 堀江賢二*1 丹羽辰徳*1 水野道和*1 芝田愛梨*1 本嶋優貴*1 松島有則*1
島袋 謙*1 井口信雄*2 朴 仁三*3 佐藤潤一郎*3 嘉川忠博*3 村上保夫*3
*1榊原記念病院放射線科 *2同循環器内科*3同循環器小児科

■当院における小児循環器CT

当院における小児循環器CT検査の適応は,主に循環器小児科医が決定している。超音波検査で,ある程度診断が確定している症例でも,観察困難な部位の確認や,術前に立体的な血管走行の確認を目的としてCT検査が依頼される。最近では,術前のカテーテル検査に代わり,CT検査の選択が増えている。循環器小児科からのCT検査の依頼件数は,Definition Flash導入以降,2010年7月までの1年間に327件にのぼる。年齢の割合は,0~1歳未満が37%,1~4歳が29%,5~9歳が10%と,10歳未満の割合が76%を占める。なかでも検査への理解や協力が困難な5歳未満の小児の割合が66%と高い。

● 小児循環器CTの撮影モード
Definition Flashには,Flash Spiral,Flash Spiral Cardio,Flash Cardio Sequence,Dual Source Spiralの4つの撮影モードがある。Definition Flashの特徴的な撮影モードであるFlash Spiralでは,胸部の場合,成人では1秒未満,小児では0.5秒未満で撮影できる。Flash Spiral Cardioは,心電図同期下の撮影法で,聞き分けがあり,呼吸停止可能な症例では,比較的高心拍でも適応可能である。Flash Cardio Sequence,Dual Source Spiralは,呼吸停止が可能で,検査への理解・協力が可能な比較的年齢の高い小児に適応している。当院では,5歳未満の症例が多いことから,撮影時間が短く,被ばくも低減することが可能なFlash Spiralを主に用いている。

● 小児循環器CTの撮影プロトコール
当院における小児循環器CTの撮影プロトコールを図1に示す〔2010年6月に逐次近似法を用いた新たな画像再構成法であるIRIS(Iterative Reconstruction in Image Space)が導入され,電圧や電流をより下げた検査が可能となってきている。図の下段(青色)部分はIRIS導入後のプロトコール(後述)である〕。造影剤量は,通常,体重あたり2mLとし,全量を約10秒間で注入後,生理食塩水で後押ししている。また,体重が3~5kg未満の症例では,造影剤を1.5~2倍に希釈して使用している。造影剤注入完了から約5秒後に撮影を開始する。

図1 当院における小児循環器CTの撮影プロトコール
図1 当院における小児循環器CTの撮影プロトコール

■小児循環器CTのポジショニング

当院では,Definition Flashと同時に導入された小児CT検査用固定具を使用している(図2)。まずは仰臥位で頭部をしっかり固定する。呼吸や体動によるアーチファクト軽減のため,胸壁上にタオルを数枚のせ,バンドで固定する。上肢は,小児上肢用のバンドを手首あるいは肘部に巻き,挙上した状態で固定する。この固定具により,鎮静の割合や程度も軽減することができ,動きによるアーチファクトも抑えた画像が得られるようになり,非常に有用である。

図2 小児CT検査用固定具
図2 小児CT検査用固定具

■症例提示

● 症例1:左心低形成症候群(図3
0歳3日,男児,体重3270g,心拍数132bpm。日齢1日に超音波検査で左心低形成症候群が疑われ,日齢2日に当院へ搬送された。術前形態診断のため,日齢3日に造影CTが施行された。非常に細い上行~弓部大動脈と,上行大動脈基部から分岐する冠動脈が明瞭に描出されている。患児の状態が悪く,無鎮静にて撮影した。

図3 症例1:左心低形成症候群(0歳3日,男児)
図3 症例1:左心低形成症候群(0歳3日,男児)

● 症例2:ファロー四徴症,右modified BT shunt術後(図4
1歳1か月,男児,体重8kg,心拍数100bpm。心内修復術前に走行を確認する目的でCTが撮影された。冠動脈(single coronary artery)が描出されている。大動脈基部前壁からconus brunchと考えられる分枝が直接分岐しているが,術式には影響なしと判断され,翌日,予定通り手術が施行された。

図4 症例2:ファロー四徴症(1歳1か月,男児)
図4 症例2:ファロー四徴症(1歳1か月,男児)

● 症例3:川崎病後冠動脈瘤(図5
3歳11か月,男児,体重11kg,心拍数102bpm。聞き分けがなく鎮静を要したが,外来検査のため軽度の鎮静・覚醒下・呼吸停止不可能であった。このため心電図非同期,Flash Spiralにて撮影した。 左冠動脈分岐部に冠動脈瘤が明瞭に描出されている。

図5 症例3:川崎病後冠動脈瘤(3歳11か月,男児)
図5 症例3:川崎病後冠動脈瘤(3歳11か月,男児)

● 症例4:大動脈離断症(図6
0歳1か月,男児,体重4kg,心拍数140bpm。超音波検査にて大動脈縮窄症が疑われ,術前に造影CTが施行された。左鎖骨下動脈分岐直前で,大動脈弓が途絶しており,大動脈離断症と診断された。

図6 症例4:大動脈離断症(0歳1か月,男児)
図6 症例4:大動脈離断症(0歳1か月,男児)

■小児循環器におけるIRISの有用性

● IRIS導入後のプロトコール
2010年6月より,小児CTにおいてIRISが導入され,従来と同一条件であればSNRが改善された。また,画質レベルを同等にした場合には,より低線量での撮影が可能となった。現在では,主に管電圧を80kVとし,体重に応じて管電流も20~30%程度下げて撮影を行っているが,十分な画質が得られている。

● 症例5:大動脈離断症,大動脈肺動脈窓,動脈管開存(図7
0歳1か月,男児,体重3.4kg,心拍数160bpm。IRIS導入前に撮影された症例であるが,RawデータからFBP法(B30f)とIRIS(I30f)でそれぞれ再構成画像を作成し比較した。IRISを用いた画像でSNRが改善していることがわかる。

図7 症例5:大動脈離断症,大動脈肺動脈窓,動脈管開存(0歳1か月,男児)
図7 症例5:大動脈離断症,大動脈肺動脈窓,動脈管開存(0歳1か月,男児)

● 症例6:総肺静脈還流異常症,修復術後,肺静脈狭窄(図8
0歳1か月時(体重4kg),0歳5か月時(体重5.2kg)。同一症例で,総肺静脈還流異常症の術後に肺静脈狭窄の再発を認めた患児である。0歳1か月時はIRIS導入前,0歳5か月時はIRIS導入後のCT検査となった。体重増加もあったが,IRIS導入後であり,管電流を20%下げて撮影したが,以前の撮影に比べて遜色のない画像が得られ,SD値も改善している。

図8 症例6:総肺静脈還流異常症
図8 症例6:総肺静脈還流異常症

■まとめ

当院では,Definition Flash導入以来1年間で,小児循環器CTを327件施行した。撮影モードの選択や撮影プロトコールにもいまだ検討の余地があると考えているが,高い時間分解能,短い撮影時間等,DSCTの撮影能力は小児循環器領域においても非常に有用である。今後は,IRISの有用性を生かし,プロトコールに反映させ,小児循環器医に有益な情報提供を行い,さらに,低侵襲で被ばく線量の少ない検査として確立していきたい。

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