シーメンス・ジャパン株式会社

別冊付録

Session U Dual Energy Imaging

結石 Dual Energy Imaging 〜結石〜

煖エ 哲 住友病院放射線科(現・神戸大学医学部附属病院放射線科)
煖エ 哲
住友病院放射線科
(現・神戸大学医学部附属病院放射線科)

本講演では,Dual Source CT 「SOMATOM Definition」(以下,DSCT)におけるDual Energy Imaging(以下,DEイメージング)の原理と,尿路結石を中心とする尿路疾患診断への応用における,DEイメージングの生かし方,今後の可能性について,住友病院での経験をもとに概説する。


DEイメージングの原理と尿路結石への応用

●結石鑑別の原理と背景
CTとは,物質のX線減弱係数に基づき算出されたCT値を画像化したものであるが,このCT値はX線のエネルギーすなわち管電圧で変化する。水はCT値算出の基準物質であり,その値は常に0HUだが,それ以外の物質では管電圧によりCT値は変化する。この管電圧によるCT値の変化の程度は,結石の種類により異なる。例えば,カーボネイトアパタイトの結石では,80kVでのCT値は140kVの2倍程度になる。一方,尿酸結石では,140kVで約400HUであったものが80kVでも約400HUと,ほとんどCT値に変化がない。尿酸結石以外の石灰化結石では,体外衝撃波結石破砕術(ESWL)をはじめとした治療法が選択されるのに対し,尿酸結石は薬物治療による結石溶解療法の適応となるため,両者の鑑別は治療方針の決定上も重要である。DEイメージングによるCT値の変化のパターンによって,両者の鑑別が可能となれば,臨床上,治療およびその後のコントロールにおいて非常に有用である。

●結石鑑別の実際
140kVと80kVで撮影したCT値の変化により結石を鑑別する原理を示す。さまざまな結石の140kVと80kVでのCT値をプロットしてみると,尿酸結石とそれ以外の結石とがそれぞれ特有の分布を示すことがわかり,この分布の境界に線を引けば両者の分離が可能となる(図1)。これがDEイメージングの結石鑑別アプリケーションの原理である。実際の症例画像でも,尿酸結石と非尿酸(石灰化)結石を明確に分離できている(図2)。

図1 DEイメージングによる結石のCT値分布と鑑別の原理
図1 DEイメージングによる結石のCT値分布と鑑別の原理

図2 尿酸結石と非尿酸(石灰化)結石の分離
図2 尿酸結石と非尿酸(石灰化)結石の分離

しかしながら,この原理は結石が特有のCT値の分布を示すことに基づいており,尿酸結石の分布範囲が図1のグラフの境界線を越えて広がってしまうと,分離が正確にできなくなることも考えられる。低線量で撮影するとノイズが増加し,CT値の分布が広がると考えられるため,撮影の線量を変化させて検討を行った(図3)。通常の1/5程度の線量の撮影ではCT値の標準偏差が大きくなり,ノイズが増大していることがわかるが,この程度であれば,十分に結石の分離が可能なことがわかる。
臨床を想定すると,痛みがあり肉眼的血尿が見られ,結石が疑われる患者さんについては,最初からDEイメージングで撮影し,結石の同定と結石性状の鑑別を同時に行うことができる。また,単純CTでたまたま結石が認められた場合は,病変部のみに低線量のDEイメージングを追加すれば,結石の鑑別がわずかな被ばくの増加のみで可能となる。欧米では,結石疑い症例では低線量のヘリカルCTを施行し,動脈瘤や虫垂炎などさまざまな痛みの原因を一期的に検索するが,DEイメージングでは,尿路外病変と結石の検出・鑑別を一期的に低線量でも行うことが可能であると思われ,臨床上の有用性は非常に高い。

図3 各線量ごとの結石の描出能
図3 各線量ごとの結石の描出能

造影におけるDEイメージングの応用

●Virtual Non-contrast
実質臓器のCT値は各ボクセル内の脂肪と軟部組織の比率を反映すると考えられ,脂肪と軟部組織の分布を結ぶ直線上にプロットされると考えられる。造影剤は140kVと80kVとで独特のCT値の変化(シフト)を示すため,軟部組織に造影剤が投与されると,ボクセルのCT値は脂肪と軟部組織を結ぶライン上から上方にシフトする。そのシフトの程度はボクセル中のヨード量に比例するため,各ボクセル内のヨード量を反映したヨードマップを作成することが可能となる。
また逆に,各ボクセルでのヨード造影剤の影響を取り除けば,脂肪と軟部組織の混合比に基づいた実質臓器のCT値が推定できる(図4)。これに基づいて作成されるのがVirtual Non-contrast画像である(図5)。例えば,尿路に造影剤が排泄されてしまった造影後のデータからも,尿路の造影剤を取り除いて結石を描出することが可能になると期待される。
どの程度の造影剤濃度まで可能なのかを確認するため,尿酸結石を含むさまざまな計12個の結石について,造影剤濃度を変えてVirtual Non-contrastによる描出能を検討した。CT値は20 mgI/mLで約470 HU,80 mgI/mLで約1500 HUとなるが,この程度ではVirtual Non-contrastにより結石は明瞭に描出されている。しかし,100 mgI/mLに達すると,CT値はDEイメージングの想定外の値となり,結石の描出は不可能となる。

図4 Virtual Non-contrastの原理
図4 Virtual Non-contrastの原理

図5 Virtual Non-contrast画像
図5 Virtual Non-contrast画像

●CT urographyへの応用
CT urography(CTU)は,尿路病変の検出に優れ,近年臨床応用が進んでいる。主として尿路上皮腫瘍の検索に用いられ,無症候性肉眼的血尿症例が主な適応となる。このCTUをDEイメージングで撮影し,Virtual Non-contrast画像を作成すると,血尿の原因が結石であると判明することがある(図6)。また,ヨードマップを用いると,造影される病変が容易に同定でき,尿路腫瘍の検出に有用な場合もある。このようにDEイメージングによるCTUは,結石のほかに腫瘍性病変の診断にも非常に役立つと思われる。
CTUの造影前撮影をVirtual Non-contrastで代用できるのではという期待がある。われわれの検討では,単純CTで検出された32個の尿路結石のうち,造影後のCTUで検出できたのは5個だったのに対し,Virtual Non-contrastでは16個と,より多くの結石が検出された。しかし,2〜3mmの小さい結石や吸収値が低い結石など,現時点でVirtual Non-contrastでは,すべての結石を検出することは困難であると思われる。

図6 無症候性肉眼的血尿症例のVirtual Non-contrast画像(右)
図6 無症候性肉眼的血尿症例のVirtual Non-contrast画像(右)

今後の可能性

●DEイメージングCTUによる一期的結石検出と鑑別
DEイメージングによる解析には,Two-material decompositionとThree-material decompositionの2つの方法がある。それぞれ結石の鑑別,Virtual Non-contrastで用いられる解析法であるが,両者を一期的に行うことは基本的にはできない。これらを一期的に行うべく新たに開発された手法が,現在われわれがシーメンス社と共同研究を行っている“2-pass dual energy解析”である。
結石は水の中にあれば,性状を鑑別することができるが,造影剤の中にあると,造影剤と非尿酸結石が同様の分布を示してしまい,両者を分離することができなくなる。そこで,Three-material decompositionにより造影剤を先に取り除き,その後に尿酸,非尿酸結石の分離をTwo-material decompositionにより試みた。これにより,結石の存在すら描出できない希釈造影剤中の,尿酸結石と非尿酸(石灰化)結石を分離することができた(図7)。結石の検出と鑑別が一期的に可能になると期待される。

図7 2-pass dual energy解析の原理
図7 2-pass dual energy解析の原理

まとめ

DEイメージングによる結石の診断について,原理から臨床応用,さらにその将来展望を概説した。DEイメージングはまだ始まったばかりの技術であり,ハード,ソフトともに進歩が続いている。その原理や特性を理解した上で,臨床応用を考えていく必要があると考える。

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