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別冊付録

Session U Dual Energy Imaging

頭頸部 Dual Energy Imaging 〜頭頸部領域での臨床応用〜

渡邉嘉之 聖路加国際病院放射線科/国立循環器病センター放射線診療部
渡邉嘉之
聖路加国際病院放射線科/
国立循環器病センター放射線診療部

本講演では主に,Dual Source CT「SOMATOM Definition」(以下,DSCT)を用いたDual Energy Imaging(以下,DEイメージング)による骨除去(頭頸部)について解説する。さらに,石灰化の定量(頸部carotid bifurcation)や頸動脈プラーク評価の可能性についても言及する。


DSCTとDEイメージング

DSCTは,通常はRoutine modeとして,1つの管球だけを使って64スライスで撮影し,心臓検査の時は,2つの管球を使って120kVで撮影する。DEイメージングは,2つの管球のうち,1つは80kV,1つは140kVで電圧を変えて同時に撮影し,さらに同時に,120kVなどの任意管電圧のComposite Image(合成画像)が計算されるものである。DEイメージングでは,必ずこの3セットの画像が表示される。DEイメージングの発想はCT開発当初から考えられていたが,2管球のDSCTの登場により,1回転で同時に違う管電圧の情報が得られるようになったことから,本格的な臨床応用が始まったと言える。
80kVの低電圧で撮影すると,造影剤(ヨード)や骨のCT値が持ち上がって,白く光って見える(図1)。DEイメージングでは,このCT値の持ち上がりの差を使って,いろいろな処理を行う。3D画像再構成(VR)では,細い血管や血管表面の滑らかさが,80kVの低電圧でコントラストを高くした方が明らかに優れていることがわかる(図1 右)。

図1 頭頸部のDEイメージング
図1 頭頸部のDEイメージング

このことから,通常検査時も,標準になっている120kVから少し低電圧にした方が,被ばく低減と造影効果の増強が図れるのではないかと考える。ただし,その際,電圧によってCT値が変化することを念頭に置く必要があるだろう。
国立循環器病センターにDSCTが導入された当初,ヨード造影剤と人工骨(ハイドロキシアパタイト)のCT値を調べるファントム実験を行ったところ,図2に示すとおり,分離線を設定することで,ヨードと骨をきれいに分離することができた。

図2 DEイメージングにおけるヨード造影剤と人工骨(ハイドロキシアパタイト)のCT値(HU)と分離線
図2 DEイメージングにおけるヨード造影剤と人工骨(ハイドロキシアパタイト)のCT値(HU)と分離線

DEイメージングの臨床応用

●骨除去(Brain CTA)
頭頸部領域の骨除去にはDEイメージングのアルゴリズムのうち,Two-material decompositionを用いる。図3は,Lt- ICAの動脈瘤が疑われる症例のVR画像で,コンベンショナルCTA(a)では骨が重なり,動脈瘤の評価は困難であるが,DEイメージングではワンクリックで1分以内に,bのように骨除去された画像が簡便に表示される。骨除去CTAでは,動脈瘤の全体像がよく把握できる。

図3 頭部CTAのVR画像
図3 頭部CTAのVR画像
a:コンベンショナルCTA   b:DE骨除去CTA

また,骨除去すると,VR画像のほかに,DSA様のMIP画像を作成することも可能である(図4 a)。

図4 DE骨除去CTAとDSA
図4 DE骨除去CTAとDSA
a:DE骨除去CTAのMIP画像   b:DSA画像

全周性に石灰化が認められるLtMCAの動脈瘤症例の場合,通常のCTAのVR画像では血管壁の石灰化は見えても内腔の評価はできない(図5)。しかし,DEイメージングで骨除去を行うと,きれいに石灰化が取れて,内腔の狭窄を評価することができるようになる(図6)。
初期の12例の結果をまとめると,骨除去の平均計算時間は55秒で,1分以内に画像が表示され,動脈瘤や石灰化動脈瘤の評価が容易になった。一方,ICA狭窄が疑われた5症例では,DSAと比べて狭窄率をやや過大評価するという傾向が見られた。

図5 Lt MCAの動脈瘤症例のCTA元画像
図5 Lt MCAの動脈瘤症例のCTA元画像

図6 図5のDE骨除去CTA
図6 図5のDE骨除去CTA

●頸部の血管
頸部の血管に関しては,治療法の選択に正確な狭窄率の評価が重要であり,最近はCTAが広く用いられている。そのため,石灰化を除いた3D画像のニーズが非常に高まっている。
図7 aのコンベンショナルCTAのMIP画像では,かなり強い石灰化が認められるが,bのDEイメージング骨除去画像では石灰化がきれいに抜けていて,cのDSAとほぼ同様な画像が得られ,狭窄率を正確に計測可能である。
石灰化のある13症例(18断面)の狭窄率について,骨除去CTAとDSAを比較した結果,非常に良い相関を示す結果が出ている。
また,頭頸部の骨除去と同じ原理で,下肢動脈狭窄や腎動脈狭窄などにもDEイメージングが有用である。

図7 頸部血管狭窄
図7 頸部血管狭窄
a:コンベンショナルCTA   b:DE骨除去CTA   c:DSA

●石灰化の定量
石灰化の定量は,冠動脈動脈硬化の評価ではAgaston scoreが知られているが,頸動脈でもステント留置術の術前評価に必要になってきている。石灰化を定量化するカルシウムスコアリングソフトなどは,CT値が130HU以上の石灰化の体積を測定するが,造影CTからは困難である。DEイメージングでは,図8 bのように,血管内の造影剤とプラークを色分けして分離できるため,ピンク部分の体積を測定することにより,定量化が可能である。

図8 頸動脈の石灰化の定量
図8 頸動脈の石灰化の定量
a:造影CT  b:DEイメージング

●頸動脈プラーク
国立循環器病センターにおいて,CEA標本でのプラーク性状の評価を行い,解析した結果を図9に示す。DEイメージングにより今後,造影効果の評価や脂肪の検出が期待できる。

図9 頸動脈プラークの評価:各組織のCT値(9症例18断面)
図9 頸動脈プラークの評価:各組織のCT値(9症例18断面)

頭頸部領域での今後の展望

プラーク評価(lipid-richプラークの検出)については今後,ROI法ではなく,CT値を画像処理する方向で検討してみたい。DEイメージングでより詳細な評価ができるのではと期待している。また,頸部領域の腫瘍性病変に関するvirtual noncontrastの適応も検討したい。さらに,Two-material decompositionとThree-material decompositionを統合して評価できる方法があれば,応用が広がると思われる。頸部では,Two-material decompositionで石灰化を除いてからVirtual Non-contrastを行うなど,いろいろな応用が考えられる。
また,128スライスのDSCT「SOMATOM Definition Flash」では,特殊なシールドによるX線スペクトルの変調により,80kVと140kVのオーバーラップ部分が大幅に減少するため,分離の精度が向上する。そして,より広範囲をより短時間で撮影できるようになるため,造影効果も向上し,頭頸部の骨除去に関しては,より精度が上がることが期待できる。

まとめ

頭頸部CTAにおけるDEイメージングによる骨除去・石灰化除去は,ルーチン検査として簡便に使用可能である。これにより,単純CTを省くことができれば,被ばく低減にもつながる。また,新しいSOMATOM Definition Flashでは,より精度の高いDual Energy解析が期待できる。

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