シーメンス・ジャパン株式会社

別冊付録

Session U Dual Energy Imaging

肺 Dual Energy Imaging 〜肺領域における血流イメージングと臨床応用〜

中澤哲郎 国立循環器病センター 放射線診療部
中澤哲郎
国立循環器病センター
放射線診療部

本講演では,Dual Source CT「SOMATOM Definition」によるDual Energy Imaging(以下,DEイメージング)の肺野領域における血流イメージングである“LungPBV”とその臨床応用について,症例を提示しながら解説する。

東 将浩*1 内藤博昭*1 渡邉嘉之*2
*1 国立循環器病センター放射線診療部
*2 聖路加国際病院放射線科

LungPBVの原理と有用性

DEイメージングは,80kVと140kVの異なる管電圧2種類で同時に撮影し,CT値の差を利用してさまざまな物質の特定を行うものである。DEイメージングのアルゴリズムは,Two-material decompositionとThree-material decompositionに大別されるが,肺野領域の血流イメージングではThree-material decompositionを用いる(図1)。

図1 DEイメージングのアルゴリズム
図1 DEイメージングのアルゴリズム

肺野の場合,Air(空気)のCT値は-1000,血管やTissue(間質などの軟部組織)のCT値は10程度であり,単純CTはこれを結ぶ線上にあると仮定できる。しかし,造影CTにおける肺野のCT値は,ヨードによって持ち上がっているため,その部分のCT値を画像化して,肺野内のヨード分布を表示することが可能になり,元のCTA画像とfusionすることで,詳細な解剖学的情報も同時に見ることができる(図2)。シーメンス社ではこのようなヨード画像を,LungPBV(Lung Perfused Blood Volume Imaging)というアプリケーションで提供している。

図2 LungPBVイメージングの原理
図2 LungPBVイメージングの原理
ヨード画像=perfused blood volume in the lung

LungPBVのパラメータは,コンソールのモニタ上に表示されるウィンドウで簡単に設定することができる。視覚的に変化が顕著なパラメータである「レンジ」を調整していくが,最大10にすると精度が上がっても処理時間が長くなるため,われわれは双方のバランスをとって,レンジ6に設定している(図3)。

図3 LungPBVアプリケーションのパラメータ設定
図3 LungPBVアプリケーションのパラメータ設定

われわれは2008年2〜10月にかけて,慢性肺塞栓症(または疑い)で胸部造影CTを撮影した54例において,LungPBVと血流シンチグラフィの比較を行った。CTは,造影剤1.3mL/kgを30秒間注入し,右室にROIを置いて撮影。CTの前後1週間以内にプラナー/SPECTを撮影した。図4の評価結果が示すように,κ値が0.69と,かなり良い一致が得られていることがわかった。
DEイメージングによるLungPBVの利点は,CTA,CTVと肺血流画像を同時取得できること,空間分解能,濃度分解能ともにシンチグラフィより優れていること,横隔膜のアーチファクトがないことなどが挙げられる。一方欠点としては,FoVが260mmという制限があること,造影剤などのアーチファクトで評価できないことがあること,ウィンドウ値の設定により評価が異なること,などがある。

図4 LungPBVと血流シンチグラフィとの比較
図4 LungPBVと血流シンチグラフィとの比較
class1:正常
class2:一部血流低下もしくは欠損
class3:区域性に血流低下もしくは欠損

症例提示

●Case 1:Acute PTE(急性肺動脈塞栓症)
70代,女性,労作時呼吸困難,胸部不快感で来院。CTでは両側の肺動脈主幹部に血栓が認められ,LungPBVでは血栓部位に一致して血流低下・灌流低下が見られる。TPA投与前に症状の改善が見られたため,5時間後に再度CTを撮影。LungPBVで見ると,血流がかなり回復していることが認められた(図5)。本症例はヘパリン投与で経過観察されていたが,1週間後に撮ったCTでは血栓はほぼ完全になくなり,LungPBVでも同様の所見が認められる(図6 右)。また,2週間後にフォローアップのためのシンチグラフィを行ったところ,末梢の一部分に血流低下が認められ(図6 左),LungPBVとも良く相関している。

図5 Case1:Acute PTE
図5 Case1:Acute PTE

図6 Case1:Acute PTE
図6 Case1:Acute PTE
シンチグラフィでは,右中葉,左舌区に血流の一部低下が認められる。

●Case2:CTEPH(慢性肺塞栓性肺高血圧)
70代,女性,労作時呼吸苦出現でCTEPHと診断された。CTでは,血栓は不明で,動脈の狭小化もはっきりしなかったが,シンチグラフィでは末梢性に楔状の血流低下・欠損を認めた。LungPBVでもシンチグラフィと同様に,末梢血流の低下が見られた(図7)。
当センターで2008年2月〜2009年1月の間にDEイメージングを行った症例中,CTEPHと診断されたものは50例にのぼり,全例でLungPBVにて血流低下が確認されている。CTAで血栓ありとされた24例以外の血栓のない半数の症例でも,DEイメージングによる診断が可能と思われる。

図7 Case2:CTEPH
図7 Case2:CTEPH

●Case3 : CTEPH(術前・術後)
50代,男性,下肢浮腫,労作時息切れ,右心不全症状憎悪により手術目的で入院。来院時のCTでは,右室拡大,心嚢液貯留,左右肺動脈本幹から末梢に血栓が認められた。シンチグラフィでも末梢性の血流低下が顕著であった。術後1か月のCTでは,血栓はほぼ摘出されて血流の回復が認められ,臨床症状やBNPも改善している。術前・術後のLung-PBVは,シンチグラフィと良い相関を示しており,血流状況の把握に十分有用と思われた(図8)。

図8 Case3:CTEPHの術前・術後
図8 Case3:CTEPHの術前・術後

DEイメージングの課題

●FoVの制限
DSCTでは,FoVが260mmであるため,肺の末梢が欠けてしまう症例が出てくる。新たなDSCTである「SOMATOM Definition Flash」ではFoVが330mmに広がり,肺野が欠けることなく撮影できるので,Definition Flashの普及が期待される。

●アーチファクトの判別
シンチグラフィで正常とされた症例が,LungPBVでは血流の低下が見られるケースがある。これは,SVCや心臓の中の造影剤からのビームハードニングアーチファクトとも推測されるが,CTの濃度分解能の良さが微妙な血流低下を検出していることも考えられる。

●ウィンドウ値の設定と標準化
LungPBVではウィンドウ値の設定如何で画像が変化し,診断に支障を来す場合もありうる。今回の検討では,正常と思われる部分のCT値を計測し,それに応じたウィンドウ値を設定して表示した。今後,LungPBVの画像表示のための標準化が必要と思われる。

●撮影タイミング
今回の検討では,DEイメージングを同じ息止めで連続して2相撮影しているが,1相目と2相目の画像に違いが見られることがある。その原因についてはさまざまな仮説が考えられ,また,シンチグラフィの所見とも乖離が見られたため,今後さらなる検討が必要と考える。

まとめ

DEイメージングによるLungPBVは,シンチグラフィとおおむね同様の血流イメージを得ることができる。そして,LungPBVにより,CTA,CTVと共にパフュージョン画像が得られることで,PTEの経過観察に応用できる可能性が示唆された。一方,造影法やLungPBV画像の表示法,評価法も含め,さらなる検討が必要と思われる。

▲ページトップへ

目次に戻る