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ホーム の中の inNavi Suiteの中の シーメンス・ジャパンの中の特別企画の中の第59回日本心臓病学会学術集会ランチョンセミナー6 日常診療における遅延造影MRIの有用性—心エコーのようにCMRを使いたい 寺岡邦彦(東京医科大学八王子医療センター循環器内科准教授)

特別企画

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第59回日本心臓病学会学術集会ランチョンセミナー6
日常診療における遅延造影MRIの有用性―心エコーのようにCMRを使いたい

寺岡邦彦(東京医科大学八王子医療センター循環器内科准教授)

座長:佐久間 肇氏 (三重大学)
座長:佐久間 肇氏
(三重大学)
演者:寺岡邦彦氏 (東京医科大学 八王子医療センター)
演者:寺岡邦彦氏
(東京医科大学
八王子医療センター)

第59回日本心臓病学会学術集会が9月23日(金)〜25日(日)の3日間,神戸国際会議場と神戸ポートピアホテルにて開催された。23日に行われたシーメンス・ジャパン共催のランチョンセミナーでは,三重大学大学院医学系研究科病態制御医学講座放射線医学教室准教授の佐久間 肇氏が座長を務め,東京医科大学八王子医療センター循環器内科准教授の寺岡邦彦氏が,遅延造影MRIの有用性をテーマに講演を行った。

心臓MRI(Cardiovascular MR:CMR)には,シネによる形態と機能の評価,負荷perfusionによる心筋虚血の評価,遅延造影による心筋組織性状の判定,MR Coronary Angiography(MRCA)による冠動脈形態の評価,T2およびT2*強調画像による心筋内浮腫や出血の評価がある。このうち,遅延造影の有用性が際立っており,日常診療のさまざまな局面において活用されている。当院でも必要なケースでは初診当日にCMRを行える体制をめざしている。本講演では,遅延造影MRIの有用性を中心に述べる。

■虚血性心疾患の遅延造影MRI

図1 Microvascular Obstructionの経時的変化
図1 Microvascular Obstructionの経時的変化

遅延造影は,ガドリニウム(Gd)造影剤静注10〜15分後に撮像する。Gd造影剤は細胞内には浸透せず心筋細胞外液に分布するため,心筋細胞外液への分布が増えるような病態では,遅延造影は陽性となる。SPECTと比較するとCMRの方が空間分解能が高いため,壁内深達度の浅い,心内膜下に限局した病変でも診断可能である1),2)。遅延造影の心筋梗塞に対する診断率は高く,特にトロポニンT(TNT)が3以下で,非Q波心筋梗塞(Non-Q MI)などの小さな梗塞にも対応可能である2)。しかも,梗塞サイズの評価には高い再現性があり,9か月後に同じ症例を同条件で撮像してその大きさを比較すると,良好に一致すると報告されている3)
遅延造影はViability Imageとも呼ばれるが,これは,造影剤が壊死した心筋を濃染し,壁内深達度によってその壁のviabilityを確認できるからである。壁運動が低下した領域で壁内深達度が50%を超えると,極端にviabilityが低下すると報告されている4)
近年,遅延造影陽性症例と予後についての報告が増えている。例えば,糖尿病における遅延造影と予後との関係を示した報告では,心筋梗塞の既往のない糖尿病患者を遅延造影の有無で分け,16か月間フォローアップしたところ,遅延造影ありでは主要有害心臓事象(MACE)の発生率が極めて高く,hazard ratioは約8倍になると報告されている5)
冠動脈のPCIが成功しても末梢の血流が十分に戻らない症例では,遅延造影において梗塞巣の中にlow intensityな部分が認められ,Microvascular Obstruction(MO)と呼ばれる(図1)。遅延造影の経時的変化を見ると,発症早期の例では,梗塞の中にlow intensityな部分が残っているが,2か月後には白くなり,完全な陳旧性心筋梗塞のパターンを呈する。MOについての報告は多く,例えば,心血管イベントの発生率が高い6),梗塞範囲が広い,慢性期に局所壁運動の改善を認めない7),梗塞の大きさよりもMOの方が強い予後予測因子である8),等の報告がある。MOの病理学的背景については,現在はreperfusion injuryに伴う心筋内の出血性病変によるものではないかとされている9)

■非虚血性心疾患の遅延造影MRI

図2 肥大型心筋症
図2 肥大型心筋症

図3 不整脈源性右室心筋症
図3 不整脈源性右室心筋症

図4 心サルコイドーシス
図4 心サルコイドーシス

非虚血性心疾患では,遅延造影が陽性となる病理学的背景はさまざまである。McCrohonらの報告によると,冠動脈に有意狭窄がなく,心不全で入院した拡張型心筋症の患者のCMRを解析した結果,約60%で遅延造影が認められず,約10%にはSubendmyocardiumあるいはTransmuralパターンが見られ,約30%には中隔の中層に線状または不明瞭な遅延造影が認められた10)
中層の線状遅延造影と拡張型心筋症の予後との関連を調べた論文では,全死亡あるいは心疾患による入院をendpointとするとhazard ratioは3.4倍,心臓突然死(SCD)や心室性頻拍症(VT)の発生をendpointとするとhazard ratioは5.2倍であり11),重篤なケースほど陽性を示すことがわかる。
肥大型心筋症では,遅延造影は右室と左室の接合部に好発する(図2)。Mewtonらの報告12)では遅延造影の発現率は45〜100%,平均69%であった。当院のデータでも,遅延造影は右室と左室の接合部が最も多く,VTがある方が症例の発現率も高く,セグメントも多いという結果であった。また,発現したセグメントが半分以上になると,グローバルなejection fractionも有意に低下した13)。肥大型心筋症における遅延造影と病理所見との比較では,遅延造影はコラーゲンの組成と非常によく一致したと報告されている14),15)
肥大型心筋症のうち,心尖部肥大型心筋症では,肥厚している部分で遅延造影が陽性となる。当院の症例において非対称性中隔肥厚のある肥大型心筋症と心尖部肥大型心筋症の遅延造影のパターンを比較したところ,前者では肥大した中隔における発現率が圧倒的に高いが,後者では発現率が低く,心尖部に限局しているのが特徴であった16)
当院では以前,中部閉塞性肥大型心筋症において,心尖部に瘤を伴う症例17)で,遅延造影MRIにて瘤が濃染し,持続性心室頻拍(SVT)も認められたため,植え込み型除細動器を留置することが決まっていたが,その前に自宅で突然死されるという不幸なケースも経験している。
図3は,不整脈源性右室心筋症の特徴的な症例である。右室が拡張して動きが悪く,心尖部には肉柱の形成が認められる。しかし,これは不整脈源性右室心筋症に限られた所見ではない。右室壁の自由壁にAccordion Signが認められると,確定診断できるとの報告もある18)。本症例で右室心筋生検を行ったところ,fibro-fatty changesが認められた。脂肪浸潤を特定する撮像シーケンスとしては,Black BloodにFat suppressionを合わせたシーケンスが一般的と考えられるが,実際にはさまざまなシーケンスが使用されており19),統一されていない。
図4は,心サルコイドーシスである。完全房室ブロック(A-V block)を認め,ペースメーカー留置前に心機能解析のためMRIを撮像したところ,図のような所見が得られた。バイオプシーの結果は陰性だったが,ガリウムシンチグラフィが陽性でステロイド治療を開始した。心サルコイドーシスの遅延造影に関する報告では特定のパターンはなく20),また感度は高いが活動性の判定ができない21)ため,核医学検査の併用は必須である。

■まとめ

心筋疾患では遅延造影を示す病理学的所見は疾患により異なることがあり,多様である22)。病理学的背景を考えながら,遅延造影MRIを有効に活用し,日常の診療に役立てていただきたい。

【参考文献】
1) Wanger, A., et al., Lancet, 361, 374〜379, 2003.
2) Ibrahim, T., et al., J. Am. Coll. Cardiol., 49, 208〜216, 2007.
3) Bulow, H., et al., Heart, 91, 1158〜1163,2005.
4) Kim, R. J., et al., NEJM, 343, 1445〜1453, 2000.
5) Kong, R. Y., et al., Circulation, 113, 2733〜2742, 2006.
6) Wu, K. C., et al., Circulation, 97, 765〜772, 1998.
7) Gerber, B. L., et al., Circulation, 106, 1083〜1089, 2002.
8) Hombach, V., et al., Eur. Heart. J., 26, 549〜557, 2005.
9) Basso, C., et al., Am. J. Cardiol., 100, 1322〜1327, 2007.
10) McCrohon, J. A., et al., Circulation, 108, 54〜59, 2003.
11) Assomull, R. G., et al., J. Am. Coll. Cardiol., 48, 1977〜1985, 2006.
12) Mewton, N., et al., J. Am. Coll. Cardiol., 57, 891〜903, 2011.
13) Teraoka, K., et al., Magn. Reson. Imaging, 22, 155〜161, 2004.
14) Moon, J. C. C., et al., J. Am. Coll. Cardiol., 43・12, 2260〜2264, 2004.
15) Papavassiliu, T., et al., Eur. Heart. J., 26, 2359, 2005.
16) Yamada, M., et al., Int. J. Cardiovasc. Imaging, 25, 131〜138, 2009.
17) Teraoka, K., J. Cardiol., 42・2, 87〜94, 2003.
18) Dala, D., et al., J. Am. Coll. Cardiol., 53, 1289〜1299, 2009.
19) Castillo, E., et al., Radiology, 232, 38〜48, 2004.
20) Patel, M., et al., Circulation, 120, 1969〜1977, 2009.
21) Kiuch, S., et al., Int. J. Cardiovasc. Imaging, 23, 237〜241, 2007.
22) Karamitos, T. D., et al., J. Am. Coll. Cardiol., 54, 1407〜1424, 2009.

(インナービジョン 2011年11月号掲載)

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