フィリップスエレクトロニクスジャパン

ホーム の中の inNavi Suiteの中の フィリップスエレクトロニクスジャパンの中の Technical Noteの中の CT−フィリップスのDual Energy ImagingとSpectral CTへの進化

Technical Note

2010年7月号
Dual Energy Imagingの技術的特徴

CT−フィリップスのDual Energy ImagingとSpectral CTへの進化

北織 潤一
ヘルスケア事業部営業本部

マルチスライスCTの普及により,CT装置における技術やソフトウエアは目まぐるしい発展を遂げている。
昨今のトピックスとしては,64スライス超のプレミアムCTの登場による大幅な時間分解能の向上や空間分解能の向上などが挙げられる。2009年のRSNAでは,逐次近似法を基本とした新しい画像再構成法“iDose”が登場し,最大80%の被ばく低減が可能となり,さらなる進化と新時代の到来を予感させる。
また,近年Dual Energy Imagingの臨床応用も非常に注目されており,本稿では,弊社最新装置である256スライスCT「Brilliance iCT」における現在のDual Energy Imagingの概要からSpectral Imagingにわたる将来展望までを述べることとする。

■Dual Energy Imagingの特長

Dual Energy Imagingは,物質がX線エネルギーによって線減弱係数を変化させる作用に着目し,その差を応用して画像化する技術である。通常のCT画像では,白黒画像の濃淡でCT値を表現しているが,これに対しDual Energy Imagingは,異なるX線エネルギー帯域に対する線減弱係数の違いを画像情報に加えることが可能となる。
このようなDual Energy Imagingの原理を応用することで,臨床的には大きく2つの利点が期待されている(図1)。
(1) 物質の同定:物質弁別画像を生成することで,カルシウム同定による造影画像からの骨除去(Energy Subtraction)や,腎結石の組成を同定し治療方針を判定することが可能となる。また,心臓領域では,造影画像からのカルシウムスコアリングや,脂質成分の同定によるプラーク評価などがある。
(2) 画質の向上:低エネルギー撮影と高エネルギー撮影の両方の画像を合成することにより,ブルーミングアーチファクトの抑制やビームハードニングの抑制,コントラストの向上がある。

図1 Dual Energy Imagingの特長
図1 Dual Energy Imagingの特長

■Dual Energyデータ収集:Sequential Dual Energy Scan

フィリップスのDual Energy Scanは,1管球で電圧を切り替えて2回転で異なるX線エネルギーの画像を収集する,いわゆるDual Spin方式である。
Dual Spin方式は,回転ごとに自由な撮影条件設定が可能である。つまり,高速回転による高い時間分解能を維持したまま,Dual Energy撮影が可能であるのはもちろん,各回転で管電流を切り替え撮影することが可能である。特に,高出力X線管球iMRCは最大管電流1000mA出力が可能であり,これにより低エネルギー側の画像においても十分なSDを担保することができる。Dual Energy Imagingでは,各撮影データのミスレジストレーションが問題となるが,Brilliance iCTでは,回転同期を行うことで管球位置のズレによるミスレジストレーションをなくすことが可能である。ただし,時相の違い,時間方向へのミスレジストレーションには注意しなければならない。
また,Dual Energy Imagingは,同一部位で2つの異なるエネルギーのデータを得るため,被ばくの増加は避けられないが,前述の逐次近似法を応用した再構成アルゴリズムiDoseを用いることにより,従来の1回撮影と同程度,もしくはそれ以下へと解決できるものと考えている。

■解析ワークステーション「Spectral Viewer」

Dual Energy Imagingの解析は,専用解析ワークステーション「Spectral Viewer」にて行う。
まず,Registrationプロセスを起動し,各エネルギー間の画像位置ズレ補正を行う。ここでは,Weighted Energyスライダーバーを調整し,各エネルギー画像の合成により任意の管電圧シミュレーション画像の作成が可能である。
次に,Energy Mapを用いて物質を同定する。通常プロットに対するSeparation Lineは1本であるが,Separation Lineを追加することで3つの物質まで定義することが可能である。Separationモードは,線形のバイナリ分割法に加え,非線形の確率分割法も選択できる。確率分割法では,2本のSeparation Lineを用いて混合Gaussianモデルをフィッティングさせ,統計的な分別を行うことが可能である(図2)。これにより,バイナリ分割法では分別困難なケースにも対応する。
さらに,エネルギーサブトラクションを用いて,Calcium MapやIodine Map等を作成することも可能である(図3)。

図2 Spectral Viewerにおける物質の同定
図2 Spectral Viewerにおける物質の同定

図3 膝におけるカルシウムと尿酸成分の同定
図3 膝におけるカルシウムと尿酸成分の同定

■将来展望─Spectral CT(Photon Counting CT)へ

現在のマルチスライスCTでは,Dual Energy Imagingに対してさまざまな方法によるアプローチが試みられ,実用化されつつある。しかし,2種類のエネルギーの違いで同定できる物質には限界がある。フィリップスでは,さらに将来のCTとして,1回のスキャンより透過X線のエネルギーごとのフォトン数を検出器で測定する“フォトンカウンティングCT”の開発を進めている。
フォトンカウンティングCTは,エネルギーの異なるX線を出力するのではなく,1種類の出力を複数のエネルギー成分に分けて画像化するSpectral CTであることから,真のモノクロマティックな情報が得られ,減弱係数の差だけではなく,K吸収端の違いを利用した物質の同定が可能となる(図4)。このことから,金,ガドリニウムなど,分子結合を行う物質をトレーサーとして使用する研究が進められており,X線CTによる分子イメージングの可能性を大きく広げるものと考えている。

図4 フォトンカウンティングCTによる腎結石解析
図4 フォトンカウンティングCTによる腎結石解析

本稿では,Brilliance iCTに搭載されているDual Energy Imagingの技術について概説した。さらにフィリップスでは,Dual Energy Imagingの先にある将来技術として,Spectral CTの開発を進めており,これまでマルチスライスCTがなし得なかったさまざまな新しい診断情報が得られる技術革新となるものと考える。

モダリティEXPOへ
【問い合わせ先】 フィリップスお客様窓口 フリーダイアル:0120-556-494